2023年に引退した15人のオリンピックメダリスト
2023年に引退を発表したオリンピアンたちは世界のスポーツ史にさまざまな記録と記憶の足跡を残してきた。Olympics.comでは、彼らの偉大なる軌跡を厳選して振り返った。
バスケットボールのカルメロ・アンソニーさん、サッカーのメーガン・ラピノエさん、陸上競技のモ・ファラーさん、柔道の大野将平さん、卓球の石川佳純(かすみ)さん、車いすテニスの国枝慎吾さん、体操競技の平岩優奈(ゆうな)さん…これらの名前に共通していることのひとつは、彼らがオリンピアンであり、偉大なアスリートであることだ。
そして、今、もうひとつの共通点がある。それは、彼らが2023年に競技からの引退を表明したことである。
Olympics.comでは、世界のスポーツに大きな影響を与え、スポーツ史に刻まれる記録と記憶の足跡を残し、2023年に引退を発表したオリンピアンたちを厳選して月を追って紹介する(以下、敬称略)。
マイディーヌ・メキシベナバ(フランス/陸上競技):1月4日引退(37歳)
- 北京2008・ロンドン2012・リオ2016出場
- 北京2008男子3000m障害銀メダル・ロンドン2012同銀メダル、リオ2016同銅メダル
陸上競技のマイディーヌ・メキシベナバ(フランス)は、1月、フランス新聞「レキップ」のコラムで、近年の数回にわたるけがに悩まされた後、キャリアを終えることを発表した。
メキシベナバは、3000m障害のスペシャリストで、オリンピックで3度表彰台に立ち、北京2008とロンドン2012で銀メダル、リオ2016では銅メダルを獲得した。
「もうやめる時が来たと感じました。それだけです。私が走ったのは、世界チャンピオンになるため、オリンピックでメダルを獲得するため、記録を破るためでした。これらの目標を達成するためには、強い意欲がなければ続けることはできません…私は前に進み、これからの人生、他のことを行いたいと思います」と彼は明らかにした。
ブルーノ・シュミット(ブラジル/ビーチバレーボール):1月22日引退(36歳)
- リオ2016・東京2020出場
- リオ2016金メダル
リオ2016の男子ビーチバレーボールで地元出身のブルーノ・シュミット(ブラジル)は、ブラジルを象徴するコパカバーナビーチで金メダルを空に向けて掲げ、涙を流しながら喜んだ。
シュミットとチームメイトのアリソン・セルッティは、地元の観客の前でイタリアとの決勝で勝利した。これはオリンピックにおけるビーチバレーの感動的な記憶として刻まれている。
東京2020でのシュミットは、2021年初めにコロナウィルスへの感染から肺が影響を受け、5日間の集中治療を含む13日間入院したこともあって不調に終わった。
その後、シュミットは2022年にもう1シーズンだけプレーを続けたが、これ以上、高いレベルのパフォーマンスを維持でないと考え、最終的に1月に引退を決意し、砂浜から離れて法律の分野で新しいキャリアを歩むことになった。
国枝慎吾(車いすテニス):1月22日引退(38歳)
- アテネ2004・北京2008・ロンドン2012・リオ2016・東京2020出場
- アテネ2004男子ダブルス金メダル・北京2008男子シングルス金メダル・同男子ダブルス銅メダル・ロンドン2012男子シングルス金メダル・リオ2016男子ダブルス銅メダル・東京2020男子シングルス金メダル
車いすテニス界の世界的なレジェンド、国枝慎吾はパラリンピック初出場となったアテネ2004の男子ダブルスで齋田悟司(さいだ・さとし)と組み金メダルを獲得。2度目のパラリンピック出場となった北京2008では、男子シングルスで金メダルを獲得し、ロンドン2012では連覇を果たした。リオ2016男子シングルスでは、準々決勝で敗れたが、東京2020では3個目となる男子シングルス金メダルに輝いている。同大会ではラケットに刻む「俺は最強だ」の言葉が改めて評判となり、優勝の瞬間に見せた喜びの涙は多くの人を感動させた。
2023年1月22日、自身の公式X(旧ツイッター)で「もう十分にやりきったという感情が高まり、(引退を)決意した次第です。最高の車いすテニス人生でした」と述べた。
グランドスラムでは、男子世界歴代最多となる50回の優勝という前人未踏の記録を持つ。同年3月17日には、パラスポーツの社会的認知度の拡大と発展に貢献し、広く国民に夢と感動を与え、また社会に明るい希望や勇気を与えたことからパラリンピック選手として初の国民栄誉賞が授与された。
喜友名諒(空手):2月16日引退(32歳)
- 東京2020出場
- 東京2020男子形金メダル
空手の発祥地である沖縄県出身の喜友名諒(きゆな・りょう)は、オリンピックで初めて空手が実施された東京2020において、男子形で史上初の金メダルを獲得した。同大会決勝の後、畳の上で正座し一礼した姿が多くの人の心を打った。
喜友名はこれまでに個人男子形で全日本空手道選手権10連覇、世界空手道選手権4連覇を達成した唯一の空手家である。また、劉衛流(りゅうえいりゅう)道場で稽古を共にした金城新(あらた)、上村拓也らと出場した2016年および2018年世界空手道選手権では、男子団体形で金メダルを獲得している。2023年2月16日に引退を表明していた喜友名は、同年3月17日に開いた記者会見で、金城、上村とともに改めて現役引退を発表した。
喜友名は、「沖縄の空手」の普及に貢献するなどスポーツでの功績が評価され、2021年に紫綬褒章を受章している。
大野将平(柔道):3月7日引退(31歳)
- リオ2016、東京2020出場
- リオ2016男子73kg級金メダル・東京2020男子73kg級金メダル・同団体銀メダル
柔道男子73kg級の大野将平は、初出場となったリオ2016で金メダルを獲得。東京2020では、日本の柔道家で7人目となる連覇を果たしている。世界柔道選手権では3度、グランドスラムでは5度の金メダルに輝いた。
2023年3月7日、2024年度より2年間、日本オリンピック委員会のスポーツ指導者海外研修制度を活用してイギリスへ留学することを記者会見の場で発表した。同年2月に国際大会へは出場しない意向を示していたことから、この発表が事実上の引退と受け止められている。
しかし、大野は「柔道家に引退はない。一生修行」と語り、「私の柔道人生は、これからもっと長い」と話した。
村田諒太(ボクシング):3月28日引退(37歳)
- ロンドン2012出場
- ロンドン2012男子75kg級金メダル
ボクシングの村田諒太は、出場したロンドン2012で日本勢として48年ぶりとなるオリンピック金メダルを獲得した。
その後、プロデビューを果たし、2017年10月、WBA(世界ボクシング協会)世界ミドル級王者のアッサン・エンダム(フランス)を相手に7回TKO勝ちを収め世界チャンピオンとなった。これは、日本選手としてアマチュアとプロの両方で世界チャンピオンになるという快挙だった。
2022年4月に行われたゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との王座統一戦に敗れ、これが実質的に最後の試合となった。プロ通算成績は19戦16勝3敗。
「ボクシングは自分の弱さや醜さなど、様々なものを知る人生の大きな一部となりました」と、自身の公式インスタグラムに投稿している。
モハメド・ファラー(イギリス/陸上競技):4月23日引退(40歳)
- 北京2008・ロンドン2012・リオ2016出場
- ロンドン2012男子5000m/10000m金メダル・リオ2016男子5000m/10000m金メダル
陸上競技のモハメド・ファラー(イギリス)は3度のオリンピックに出場し、4個の金メダルを獲得している。彼は、ロンドン2012とリオ2016ともに男子5000mと10000mを制覇しているが、特に記憶に残るのは、彼の母国で開催されたロンドン2012で男子10000m決勝の行われた8月4日の夜のことだろう。
「スーパーサタデー」と呼ばれたその日、同郷のジェシカ・エニス=ヒルが七種競技で金メダルを獲得し、さらにグレッグ・ラザフォードも男子走幅跳で金メダルを獲得したその直後、ファラーは男子10000m決勝で27分30秒42のタイムを出して自身初の金メダルに輝いた。この夜のことは誰にとっても忘れられないものとなった。
4月、40歳になったばかりのファラーは、キャリア最後となるロンドンマラソンを走り、これをもって引退した。2022年、彼は英国放送協会(BBC)のドキュメンタリー「The Real Mo Farah(真実のモ・ファラー)」で、自身が9歳の時に人身売買で出生地ソマリアに近接するジブチ共和国からイギリスに連れて来られたことを初めて明らかにしていた。この真実は、彼の偉業をより際立たせるものになった。
11月には、国際移住機関(IOM)初のグローバル親善大使に任命されている。
石川佳純(卓球):5月1日引退(30歳)
- ロンドン2012・リオ2016・東京2020出場
- ロンドン2012女子団体銀メダル、リオ2016同銅メダル、東京2020同銀メダル
長年にわたり日本女子卓球界をけん引した石川佳純(卓球)は、ロンドン2012、リオ2016、東京2020の3大会に連続出場し3個のメダルを獲得した。2017年の世界卓球選手権ドイツ・デュッセルドルフ大会では吉村真晴(まはる)と混合ダブルスを組み、日本勢として48年ぶりの金メダルに輝いている。
5月1日に自身の公式インスタグラムで「今、自分の中ではやり切ったという思いが強く、引退を決意した次第です」と述べ引退を表明した。「世界のトップレベルで戦えたこと、たくさんの夢をかなえられたことを幸せに思います」と投稿している。
5月18日には記者会見に臨み、「晴れやかな気持ちでこの日を迎えられたことをとても嬉しく、そしてありがたく思っています。卓球に出会えてよかったです」と語っている。
チェン・ロン(中華人民共和国/バドミントン):5月19日引退(34歳)
- ロンドン2012・リオ2016・東京2020出場
- ロンドン2012男子シングルス銅メダル・リオ2016同金メダル・東京2020同銀メダル
バドミントン選手のチェン・ロン(中華人民共和国)は3度のオリンピックに出場し、ロンドン2012男子シングルスで銅メダル、リオ2016で同金メダル、東京2020で同銀メダルの3個のメダルを獲得した。
バドミントン史上で最も優れた選手のひとりとされるチェンは、2014年に初めて世界選手権を制覇し、同年に世界ランキング1位の座を初めて獲得した。彼はその地位を76週連続で保持している。
「これは私にとってきつい瞬間です。さよならを言うのはとても辛いです」と、チェンは5月に引退を発表した際にSNSに投稿した。
「この特別な瞬間に私は感情で満ちあふれています。バドミントンは私が生涯愛するものです。人生では全ての夢がかなうわけではありませんが、私は代表チームのウェアを着て、自分の国のためにプレーすることができて本当に幸運でした」と彼は付け加えた。
カルメロ・アンソニー(アメリカ合衆国/バスケットボール):5月22日引退(39歳)
- アテネ2004・北京2008・ロンドン2012・リオ2016出場
- アテネ2004銅メダル・北京2008金メダル・ロンドン2012金メダル・リオ2016金メダル
カルメロ・アンソニー(アメリカ合衆国)は、男子バスケットボールでただひとり3度の金メダルに輝いている。4度のオリンピック、アテネ2004、北京2008、ロンドン2012、リオ2016の全てでメダルを獲得し、アテネ2004が銅メダル以外は全て金メダルを獲得した。
バスケットボールのレジェンド、アンソニーはチャンピオン以上の存在だ。
「私は試合で持てる力を全て尽くし、高校、大学での勝利やオリンピックでの3個の金メダルを獲得するなどあらゆるレベルで高度なプレーを行ってきた。その上で競技から去ることができるのはとても幸せなことだろう」と、彼はリオ2016の決勝でセルビアを96-66で破った後に話した。
「キャリアが終わる時に振り返ってみて、たとえNBAのチャンピオンリング(優勝指輪)を持っていなくても、(金メダルを3個獲得したことで)私は素晴らしいキャリアを送ることができたと言えます」
5月22日、アンソニーは引退を発表したが、彼の名前は永遠にバスケットボール史に残ることだろう。
アンソニーが獲得したこれまでの多くの称賛の中でも、NBA通算28,289得点は歴代9位にランク入りしており、シャキール・オニール、コービー・ブライアント、マイケル・ジョーダンら偉大なる選手らと名を連ねている。
メーガン・ラピノエ(アメリカ合衆国/サッカー):9月24日引退(38歳)
- ロンドン2012・リオ2016・東京2020出場
- ロンドン2012金メダル・東京2020銅メダル
2023年にピッチを去ったオリンピック金メダリスト、メーガン・ラピノエ(アメリカ合衆国)は、女子サッカーのチャンピオンとしてだけではなく、彼女のキャリアを通じ、彼女の属するコミュニティや国を代表して、全ての人々の平等な権利を求めて戦った。
彼女の姿を再びピッチで見ることはないだろうが、彼女の先駆的な役割は、今後も間違いなく続くだろう。
これまでに、試合前の国歌演奏で起立せずに片膝をついて人種差別への抗議を行ったアメリカンフットボール選手コリン・キャパニックに賛同した行動や、米国女子サッカー選手への平等な賃金を求める活動の先導、LGBTQ+コミュニティの権利擁護活動などを行ってきた。
カリフォルニア州出身のラピノエは、ロンドン2012で金メダル、リオ2016では5位に終わったものの、東京2020では銅メダルを獲得した。また、2015年と2019年のFIFA女子ワールドカップで優勝をしている。
アネミック・ファン・フルーテン(オランダ/自転車ロードレース):9月引退(40歳)
- ロンドン2012・リオ2016・東京2020出場
- 東京2020女子個人タイムトライアル金メダル、同女子ロードレース銀メダル
多才なサイクリスト、アネミック・ファン・フルーテン(オランダ)は東京2020の自転車女子個人タイムトライアルで金メダル、女子ロードレースで銀メダルを獲得した。
女子ロードレースでのメダルは、リオ2016での女子ロードレースをリードしていながら落車した彼女にとっては嬉しいカムバックとなった。ヴィスタ・シーネーザの最後の下りでの落車はひどく、脊椎3か所の骨折と脳振とうを起こしたが、ファン・フルーテンはすぐにSNSで大丈夫であることを伝えファンを安心させた。
オリンピックへ3度出場しているバン・フルーテンは、東京2020での2個のメダル獲得に加え、世界自転車選手権では個人タイムトライアル(2017年と2018年)とロードレース(2019年と2022年)での金メダル、ツール・ド・フランス・フェム2022など女子ロードレースの3大グランツールでの優勝を果たしている。
ダフネ・シパーズ(オランダ/陸上競技):9月26日引退(31歳)
- ロンドン2012・リオ2016・東京2020出場
- リオ2016女子200m銀メダル
陸上競技のダフネ・シパーズ(オランダ)は、2023年9月に引退することを発表した。3度のオリンピック出場とリオ2016女子200mでの銀メダルがオリンピックでの記録となるが、彼女の名前は他の多くの大会のランキング上位に見ることができる。
女子200mで2度の世界選手権(2015年北京と2017年ロンドン)で金メダルに輝き、ヨーロッパ選手権では4度(2014年の100mと200m、2016年の100mと4x100mリレー)金メダルを獲得している。
シパーズはけがに悩まされ、1年以上にわたり競技に出場していなかったが、2023年9月、引退することを表明した。
「競技はこれで終わりです」と、シッパーズはインスタグラムに投稿した。
「アスリートとして、いつかこの日が来ることはわかっていました。たくさんの思い出と獲得したメダルの数々と」
彼女は今、家でゆっくりトロフィーやメダルを飾る棚を作ることができると話した。
フレフ・ファン・アベルマート(ベルギー/自転車ロードレース):10月8日引退(38歳)
- ロンドン2012・リオ2016・東京2020出場
- リオ2016個人ロードレース金メダル
ベルギーのサイクリスト、フレフ・ファン・アベルマートは5月初旬、2023年シーズンで引退することを発表した。
往年の最も偉大なサイクリストのひとりとされるファン・アベルマートは、リオ2016自転車男子ロードレースで金メダルを獲得し、同種目でベルギー史上2人目のオリンピック王者となった。Olympics.comに対して、「それは私のキャリアで最も美しい瞬間だった」と語っている。
彼はツール・ド・フランスで2回のステージ優勝を収め、2016年と2018年のツールでは11日間にわたってイエロージャージを着ている。
乾友紀子(アーティスティックスイミング):10月27日引退(32歳)
- ロンドン2012・リオ2016・東京2020出場
- リオ2016デュエット銅メダル・チーム銅メダル
アーティスティックスイミングの乾友紀子は、リオ2016でデュエットとチームで銅メダルに輝き、最近では2023年7月の世界水泳選手権福岡大会でソロフリールーティンとテクニカルルーティンで金メダルを獲得した。これは、前回2022年ハンガリー・ブダペスト大会に続く日本選手初となる2種目2連覇となった。
「あらためて今までの競技人生を振り返ったときに、悔いなくやりきったな、と思うことができたので、引退を決意しました」と、日本水泳連盟(JASF)の公式インスタグラムにメッセージを残した。