大野将平、イギリスへ2年間の指導者留学を発表「柔道家に引退はない。一生修行」

リオ2016とTokyo2020の柔道男子73kg級で2連覇を達成している大野将平が3月7日、2023年度より2年間イギリスへ、日本オリンピック委員会のスポーツ指導者海外研修制度を活用して留学することを記者会見の場で発表した。「柔道家に引退はない。一生修行」と語る大野の強く真っ直ぐな眼差しは、新たな挑戦を続ける柔道家そのものに映った。

1 執筆者 Yukifumi Tanaka/田中幸文
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(2019 Getty Images)

リオ2016とTokyo2020のオリンピック連続2大会において、柔道男子73kg級で金メダルに輝く大野将平が、3月7日に都内で記者会見を開き、2023年度より2年間にわたって、日本オリンピック委員会が実施するスポーツ指導者海外研修事業を活用し、柔道の指導者としてイギリスへ留学することを発表した。

開幕まで500日余りと迫るパリ2024を控え、その去就が注目されていた大野だが、会見の中で「柔道家に引退はない。一生修行だと思っています。引退とか、一線を退くという表現、小さな枠組みで捉えていただきたくない」とキッパリ。そして、指導者としての新たな挑戦について、「セカンドキャリアに向かうにあたって、『もう一度、自分自身に苦労を』という思いがあった」と語り続ける大野の強く真っ直ぐな眼差しは、畳の上で戦いを続ける柔道家そのものに映った。

「オリンピックを通して経験したことを生かしたい」

大野は、2022年12月に開催されたグランドスラム・東京2022の代表選手に選出されていながらも、直前で欠場を発表。その理由として「日本代表として戦う心と身体を大会までに創り上げる事ができませんでした」と、アスリートとしてのモチベーション維持の難しさを吐露していた。この日の会見でも、大野は2連覇を達成したオリンピック選手の孤独について、つぶさに明かした。

「リオオリンピックまでは、73kg級に世界王者が多くいました。先輩方の背中を追って、金メダルを獲れた。気が付いたら背中を追いかけるライバルがいなくなって、そこから孤独を抱えて、日々の稽古、トレーニングで身も心も削ってやっていました。やはり、私自身が強くなった一番の要因は、日本代表での10年で毎日、毎週、同じ日々を繰り返してきた(こと)」
「繰り返すことというのは、私にしかできないことではなく、誰もができることです」
「同じ階級でやりたい選手がいなくなった。東京オリンピックを終えて、大会の大きい、小さいでは判断してはいけないが、心が燃えるような大会が出てこなかったというのも正直あります」
「東京オリンピックでの2連覇以上の成功、感動体験は、今後の人生においてないだろうなと思っているが、私から柔道と金メダルをとったときに、改めて魅力ある人間であるように柔道、オリンピックを通して経験したことを生かしたい」

柔道家の大野にとって、畳の上は、命懸けの戦場だった。

「わたしにとって試合というものは、生きるか、死ぬか、命を懸けたものという考えに変わりはありません。軽はずみに笑顔で、白い歯を見せて試合に出ることは、現状考えられない」

「私の柔道人生は、これからもっと長い」

日本のお家芸=JUDOの練習に取り組む世界の人口は、IJF(国際柔道連盟)の発表によると4,000万人(2019年10月)を超えるという。言語、文化、宗教、ジェンダー、民族性など、様々なアイデンティティやエスニシティを超えて、柔道はすべての人をインクルードするグローバルスポーツへと発展した。

海を越えて、新たな環境で柔道に触れる大野の未来を想像したら、彼が話した通り「引退」なんて言葉は「小さな枠組み」だと、すっと胸に落ちた。

「ヨーロッパでの(日本とは)違う柔道の楽しさ、違った関わり方が見えてきたら、もう一度試合に出るかもしれない」
「柔道を辞めるつもりはありません」
「私の柔道人生は、これからもっと長い」

心の中で「がんばれ」と、呟いていた。

そして、もう一度柔道着を身に纏い、畳の上に立ち上がる強く真っ直ぐな眼差しの柔道家に会える日が来るのかもしれないと、胸が高鳴った。

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