石川佳純さんが引退会見「やりきった」…「何回でもチャレンジ」で勝ち取ったオリンピック3大会連続メダル

オリンピック3大会連続でメダルを獲得した石川佳純さんが、5月18日に引退会見を実施。現役生活を振り返り、今後の活動や後輩たちへの思いを語った。

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
Kasumi Ishikawa
(Keita Iijima / The Yomiuri Shimbun via Reuters Connect)

5月1日に現役引退を発表した石川佳純さんが18日に引退会見を実施。引退に至った心境の変化や現在の胸中、今後の活動などについて語った。

■晴れやかな気持ち

オリンピック3大会連続でメダルを獲得。ロンドン2012の団体銀メダル、リオデジャネイロ2016の団体銅メダル、Tokyo2020の団体銀メダルと、長きに渡って日本の卓球界を牽引した。スーツ姿で登壇した石川さんは冒頭のあいさつで「晴れやかな気持ち」と笑顔で語り出し、ファンへの感謝を口にした。

「5月1日に引退を発表してから約2週間が経ちました。その間に、たくさんの温かいメッセージをいただいて、改めてたくさんの方に支えられていたんだなと実感しています。引退した理由はやりきったと思えたからです。今日はとても晴れやかな気持ちです。こうして笑顔で今日を迎えられたことをとてもうれしく、そしてありがたく思っています。卓球を7歳で始めました。23年間の現役生活で、素晴らしい経験をさせていただきました。オリンピックではロンドン、リオ、東京と3大会連続メダル。世界選手権ではミックスダブルスで世界一。表彰台に立ったときの景色はこれからも忘れられないなという思いです」
「長い間応援してくださったファンの皆さまに感謝を伝えたいです。うれしいときは一緒に喜んでくださって、苦しいときは寄り添ってくれる。そんな素晴らしいファンの方に恵まれて、すごく幸せなことだと思っています。なにを返せたかわからないですが、大切にしてきたことは、コートに立ったときは全力のプレーをするということです。その姿を見て、少しでも元気や勇気を届けられていたらいいな、それができていたらすごくうれしいです」

■最後まで全力で戦う姿を見てほしい

Tokyo2020後はパリ2024を目指すことを明言せず、「目の前の1戦1戦を戦ったいきたい」という心境で戦っていたという。パリを翌年に控えた2023年に入り、「毎試合『もしかしたらこれが最後になるかもしれない』という気持ちでプレーしてきました」。そして3月に行われたWTTシリーズ最高峰の「シンガポールスマッシュ」を終えて、「中国の2大会を最後にしよう」と決意。しかし家族以外には伝えることはせず、胸の内に秘めて大会に臨むことを選んだ。その背景に、純粋に戦う姿を見てほしいという、世界の最前線で戦い続けてきた石川さんの矜持があったという。

「直前にファンの方々に伝えようかなと思ったのですが、最後まで全力で戦う姿を見てほしいと思って、最後まで言えませんでした。最後までプレーに集中して試合をすることができました。涙が出るかもとも思ったのですが、思ったよりもすがすがしい気持ち、やりきれたと思いました。今となっては良かったのかなと思います」

■追い抜くときは楽しい、追い抜かれるときは苦しい

7歳から卓球を始めて、23年の競技生活。最も印象に残っている試合を問われた石川さんは一つに絞れず、2つの試合を挙げた。一つはロンドン2012の女子団体準決勝、シンガポール戦。メダル獲得が懸かった試合は「ゾーンに入ったというくらい調子がよくて、今でも鮮明に思い出せるくらい」。もう一つは2017年に行われた世界選手権の混合ダブルス決勝。「1-3で負けていて、劣勢から3-3になって、我慢の連続からなんとかもぎ取った勝利でした」。

3大会連続でのオリンピックメダル獲得は、紛れもなく偉業だ。ともに日本代表とした戦った平野早矢香さんから、この記録について問われる場面もあった。その中で語った「何事も追い抜くときはすごく楽しいんですけど、追い抜かれるときは苦しいものもある」という言葉は、3大会、13年以上という歳月の重みを感じさせる。

「3大会連続でメダルを獲れたことをすごくうれしく思っています。最初のロンドンは平野早矢香さん、福原愛さんと先輩と戦って獲れたメダル。たくさんの素晴らしい先輩がいて、学んだことがたくさんあって、背中を見て育ってきました。その後は素晴らしい後輩たちと一緒に戦いました。やはり何事も追い抜くときはすごく楽しいんですけど、追い抜かれるときは苦しいものもあって。難しい時間もありましが、頑張ることをやめずに、東京オリンピックの出場権を獲れたことは、自分自身を少し褒めてもいいかなと思います。その5年間が、選手としても人としても成長させてくれた貴重な時間だったと思います」

逆境や壁に立ち向かうアスリートの姿は、ときに栄光の瞬間よりも人々を惹きつける強さがある。石川さんは若手の台頭により、全日本選手権のタイトルから4年に遠ざかった。リオから東京までの「その5年間」は、厳しい視線にさらさせた経験もあったという。そんな石川さんだからこそ、努力が実らないと感じても何回でもチャレンジすることが大切だという言葉は胸を打つ。

「頑張って努力をした結果いい成績が出る、という言葉があると思いますが、私自身、長くやっているとそういうふうに思えないこともありました。成績が出ていたときより頑張っても、なかなか結果が出なくて苦しい、そこからがスタートかなと思った時期もありました。そこで学んだことは続けることの大切さ。何回でもチャレンジという言葉に励まされて、失敗しても、何回でもチャレンジすることが大切だと思って活動してきました」

■後輩たちにいいバトンを渡せていたら

卓球界のみならず、スポーツ界に名を残すレジェンドだけに、今後の活動も楽しみなところ。現在は47都道府県を回って各地の人々とふれあい、卓球教室なども行うサンクスツアーを実施中だ。「40個残っているので、必ず達成したい」と、しばらくサンクスツアーの活動に注力していくとした。また、現役生活は練習や遠征漬けだったことから「新しいチャレンジとして勉強をしてみたい」とも語った。

石川さんは中国メディアからの質問に中国語で回答する場面も。「中国での大会もまるでホームのように感じた」と多くのファンに支えられたことに感謝し、日本と中国、世界中の子どもたちが練習試合をする機会があればという構想も明かした。

20日からは世界選手権が始まり、新生日本代表が世界に挑む。「まだ中国の壁は高いと思いますが、毎回全力で挑戦していくことで、突破口が見えてくるかもしれない。全力で戦ってほしい」。世界卓球、オリンピック、そしてその先へ。ラケットを置いた石川さんの思いは、次の世代に受け継がれているはずだ。

「今の卓球界にはたくさんの才能あふれる素晴らしい選手がいます。私自身もたくさんの素晴らしい先輩からバトンをもらって、日本代表としてプレーしてきました。自分が引退することで、後輩たちにいいバトンを渡せていたらいいなと思います。これからは後輩の皆さんの活躍を楽しみにしているし、応援しています。卓球の魅力を一番伝えてくれるのは、世界で活躍する選手だと思うので、選手としても人としても素晴らしく、その魅力を伝えてくれる選手がたくさんこれからも出てきたらうれしいです」
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