【パリ2024オリンピック振り返り】記憶に残る5つのシーン

執筆者 Risa Bellino / Hirotaka Hikoi
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3位決定戦を終えた日本のエース早田ひなと大韓民国のエース、シン・ユビン/パリ2024女子シングルス
写真: 2024 Getty Images

7月26日〜8月11日の日程でフランスの首都パリで行われた1世紀ぶりのオリンピック。

史上初めてスタジアム以外の会場で行われたセーヌ川での革新的な開会式から始まり、新たな名シーンと感動のドラマが生まれ、観客を魅了し、多くの感動を届けた。

ここでは、パリ2024を振り返り、日本代表選手が魅せた記憶に残る印象的な5つのシーンを紹介しよう。

東京とパリで連覇達成

東京2020で新競技に採用されたスケートボードの男子ストリート初代金メダリストとなった堀米雄斗は、王者たる所以を示し、パリ2024で堂々の2連覇を達成した。「可能性が1%でもあるならば」。これは、堀米が最後の選考大会となる6月のオリンピック予選シリーズ(OQS)で口にした言葉だ。新たな肩書き、競技とカルチャーの両立…苦悩の2年間を乗り越えてOQSでの大逆転で代表の切符を掴んだ堀米は、オリンピックメダル獲得のチャンスを繋げた。

パリでは、悪天候の影響で競技が延期される中、7月29日に予選を4位で通過し、8人で行われる決勝に進出。最後となる5本目のトリックを暫定7位に沈んだ状態で迎えるも、97.08点をマークする大技を決めて首位に浮上。堀米は雄叫びをあげた。強豪のアメリカ合衆国代表のナイジャ・ヒューストンとジャガー・イートンを抑えて、またも大逆転で2大会連続の金メダルを掴み取った

柔道競技では、永瀬貴規(たかのり)が、オリンピック史上初となる男子81kg級での2連覇の偉業を達成した。リオ2016での銅メダルの屈辱を、自国開催の東京2020で金メダルを獲得することで晴らし、オリンピックチャンピオンとして歩んできた3年。勝てない時期が続く厳しいスランプを乗り越えて勝ち取った2度目の金で、永瀬が築き上げた柔道の力を世界に示した。SNS上ではその圧倒的な強さに『永瀬最強』のワードが飛び交い、彼の健闘が称えられた。

東京2020でオリンピック史上初のきょうだい同日金メダルという快挙を達成し、多くのファンを魅了した柔道の阿部詩(うた)と一二三(ひふみ)の2連覇が大きく注目されたパリ2024。妹の詩が2回戦で世界ランキング1位のディヨラ・ケルディヨロワ(ウズベキスタン)に敗れ、2人の夢が道半ばで途絶えかける中、「兄である僕が金メダルを取らないで、誰がとる!」と奮起した一二三が、妹の雪辱を晴らすべく決勝の舞台で金メダルを勝ち取った

今大会の2連覇をもって阿部と永瀬は、オリンピック柔道史上でただひとり3連覇を成し遂げた野村忠宏さんに続き、男子日本柔道界で2人目となる3大会連続金メダル獲得に王手をかけた。試合後に「(3連覇は)当然目指しますし、やっぱり妹とまたオリンピックという舞台で、兄妹で金メダルを取るまでは絶対に終われないので。金メダルを達成したいと思います」と力強く語った阿部と、永瀬のロサンゼルス2028への挑戦。個人での3連覇に加え、悲願の混合団体金メダルへの道に注目したい。

初出場の若手選手の躍進

TEAM JAPANで今大会最年少金メダリストとなった、スケートボード女子ストリートの14歳、吉沢恋(ここ)。中学1年生の12歳の時に初めて親元を離れて海外のオリンピック予選大会に出場してから、この挑戦を通じて数々の経験を乗り越え、激しい日本代表争いを勝ち抜いて初のオリンピックの舞台に立った。「みんながレベルアップするのが早すぎて、2年前とか3年前とかの話じゃないように思います」と、試合後にOlympics.comのインタビューで振り返ると、「精神的な面もあるし、技術面もあるし、もういろんな部分で自分がこの2年間成長できたなって思います」と自信を示した。不安を楽しみに変えて自分らしいスタイルを発揮できたことが金メダルに繋がったと語る吉沢は、自身のSNSで「次のロサンゼルスオリンピックや色々な大会に向けて、楽しんで笑顔で頑張って行く」と綴り、さらなる挑戦に意欲を見せた。

パリ2024の体操競技では、新たなスターが誕生した。初出場、20歳の岡慎之助だ。お家芸と呼ばれる体操競技で2大会ぶりに団体戦の金メダルを獲得後、エースの橋本大輝と強豪中華人民共和国の選手を抑えて、個人総合でも金メダル。さらには種目別の平行棒で銅メダルを獲得後、最後の鉄棒で金メダルを掴み取り、出場した全ての種目でメダルを獲得した。

パリ大会の2年前には右膝前十字靱帯を断裂するという大けがに見舞われ、大きな試練に直面したが、目標を見失わずに体操に真摯に向き合い、見事に52年ぶりの体操競技3冠達成という偉業を成し遂げた。「勝ち続けられる選手になりたい」という岡が、次の舞台でどんな演技を見せてくれるのか、大いに期待したい。

男女個人種目で19人の日本代表が出場した競泳チームの中で、パリ大会唯一のメダルを獲得したのは、大学1年生の松下知之だった。誕生日4日前となる7月28日、18歳で出場した男子400m個人メドレー決勝で、オリンピックレコードを樹立したフランス代表のレオン・マルシャンに続き、松下は銀メダルを獲得した

全国高校総体や国体を制し、高校の最後に出場した世界ジュニア選手権で大会新記録を樹立するなど、出場する大会ごとに成長を重ねてきた松下は、パリ選考大会で記録した4分10秒04を上回る4分08秒62のタイムでオリンピックデビューを銀メダルで飾った。「まだまだタイムが狙えそうなので、まずはしっかり上げれるところまでタイムを上げて、4年後、レオン・マルシャン選手にどれだけ近づけるかっていうのを目標にしながら頑張っていきたい」と帰国後の記者会見で抱負を語った。

東京の雪辱はらした金メダル

フェンシング・男子フルーレ団体

パリ大会で過去最高となる合計5つのメダルを獲得(金2:男子エペ個人、男子フルーレ団体、銀1:男子エペ団体、銅2:女子フルーレ団体、女子サーブル団体)する快挙を成し遂げたフェンシング日本代表の最後を飾ったのは、男子フルーレ団体だった。敷根崇裕、松山恭助、飯村一輝、永野雄大は、3大会ぶりとなるメダル獲得をかけた決勝でイタリア代表を相手に45対36で完勝。日本にフェンシング人気をもたらした種目で、見事にその栄光を掴み、フルーレ団体史上初となる金メダルを獲得した。

柔道・女子48kg級角田夏実

パリ2024日本勢金メダル第1号に輝いた柔道女子48kg級の角田夏実(つのだ・なつみ)のオリンピック金メダルは、ライバルたちとの激しい戦いと苦悩、そして挫折を乗り込えて掴んだ悲願のメダルだった。大好きな柔道を続けるため、オリンピックの頂点を狙うため、52kg級から減量が強いられる48kg級に階級を下げて東京2020の代表の座を目指すも、選考会でライバルに勝ちきることができず、その夢は叶えられなかった。失意の中でも諦めずに情熱を持ち続けた角田は、2021年の世界柔道ブダペストでオール1本勝ちで優勝をすると、2023年まで3連覇を果たし、満を持して世界チャンピオンとしてパリのオリンピックの舞台に立った。決勝では、角田の代名詞である巴投げで技ありを奪って勝利し、最高の笑顔で表彰台の一番高いところに立った。

夏季大会で日本勢通算500個目のメダルを金で飾った角田は、「実現できてよかった」と喜びをあらわにした。

「涙」は明日のための原動力「もっと強くなって戻ってくる」

卓球張本智和が、男子団体3位決定戦で敗れた後、「残念な結果の選手もいれば、一方で喜びにあふれた選手もいる」と話したように、勝つ選手がいれば必ず負ける選手がいる。それがスポーツの世界だ。

しかし、今日負けて涙を流した選手は、明日の勝利を信じ涙をぬぐい前を向く。辛くても顔を上げて前に進む。そして、彼らが勝った時、喜びは倍増し、彼らを応援してきた人々は歓喜し感動の涙を流す。今日の悔し涙は、明日の喜びの涙に変わる。

阿部詩/柔道女子52kg級

オリンピック連覇が期待された柔道の阿部詩(うた)は、女子52kg級の2回戦で1本負けを喫し涙を流した。しかし、阿部はその6日後の団体戦に出場。TEAM JAPANの銀メダル獲得に貢献した。

試合後に阿部は、「私が望んでいた結果で終えることはできなかったが、それよりも大きなものを自分自身の中に収穫できた。オリンピックの借りはオリンピックでしか返せない。必ずリベンジしたい」と、日本テレビの取材に応え力を込めた。

西田有志/男子バレーボール準々決勝

予選ラウンドを通過し、メダル獲得を目指してイタリア代表チームとの準々決勝に臨んだバレーボール男子日本代表。2セットを先取したもののフルセットまで戦った末、惜敗し涙を流した。

この試合で3本のサービスエースを含む22得点を左腕で叩き出した西田有志(ゆうじ)は試合後、「目標がかなえられなかったのが本当に悔しい。次のステップに進むためにも、自分たちのバレーをしながら多くの方に応援していただく環境に感謝したい」と前を向いた。

山本麻衣/女子バスケットボール

東京2020銀メダリストのバスケットボール女子日本代表チームは、メダル獲得を目指してパリの舞台に臨んだ。チームの得点源、シューティングガードの山本麻衣は、7月29日の初戦アメリカ合衆国との試合で脳振とうを負ったため、その後のドイツ戦、ベルギー戦を欠場せざるを得ずベンチから日本代表チームを見守った。日本代表は3戦全敗の結果となり涙を流した。

試合後、日本テレビのインタビューに涙で応じ、「(目標としていた金メダルがかなわず)すごく悔しい。チームの力になれなくて、申し訳なかった。オリンピックでもう一度結果を出せるよう、強くなってまた4年後帰って来ます」と話した。

田中希実/陸上競技女子1500m・5000m

東京2020女子1500mで8位入賞を果たし、日本陸上競技界に新たな歴史の1ページを刻んだ田中希実(のぞみ)は、今大会でも1500mと5000mに挑んだ。5000mでは予選1組9位で敗退、1500mでは予選1組11位に終わり、田中は涙を流した。TBSのインタビューに応じ、「(支えてくれた)いろいろな人の生きた証を私の走りで証明したかった。このままでは絶対に終われないです」と涙ながらに話した。

その後、田中の走った1500m予選のラスト200mで他の選手との接触があったことにより、救済措置で準決勝進出することが決まった。しかし、準決勝に臨んだ田中は11位に終わり決勝進出を逃している。

レース後、「ただ苦しいだけじゃなく、理不尽な苦しみだけでなく、私に与えられるべくして与えられた幸せな時間だった。そういった時間を味わえたことがとても嬉しい。いつかもう1回(決勝の舞台に)立ってみせるというような、新たな気持ちを作ることができたレースだった」と振り返りリベンジを誓った。

山下美夢有/ゴルフ女子個人ストロークプレー

ゴルフ・ナショナルで行われた女子ゴルフ。2年連続賞金女王の23歳、山下美夢有(みゆう)は、最終の第4ラウンドを首位と2打差の3位タイでスタートしたが、5番ホールで3バーディー、2ボギー、2ダブルボギーとスコアを1つ落とし通算6アンダーとなり4位タイ。メダルを逃し涙を流した。

試合後、日本テレビのインタビューに「(メダル争いは)すごく緊張感があって楽しくプレーできたと思う。悔しい結果には終わったが、これを次に生かせるように準備してがんばりたい。(オリンピックまでは調子が悪かったが)オリンピックで自分らしいプレーができ自信になるショットも多くあった。プラスに考えて、足りない部分をしっかり練習して、次に生かしたい」と気丈に話した。

国境を越えた称え合い

女子シングルス3位決定戦で、日本のエース早田ひなが大韓民国のエース、シン・ユビンと対戦。準々決勝で左腕を痛めた早田は、日常生活もままならない状態の中、チームからのサポートを受けて満身創痍で銅メダルをかけた戦いに挑み、ゲームカウント4-2で勝利を収めた。試合後、抱えていたさまざまな思いから解放された早田が泣き崩れると、そんな早田にメダルを逃した対戦相手のシン・ユビンが近寄り、早田にハグをして笑顔で祝福をした姿が観客の心をとらえた。SNSでは、スポーツマンシップに溢れるシンの振る舞いを称賛する声が飛び交い、2人の心温まる関係性にファンたちから多くのコメントが寄せられた。

2連覇を達成した堀米雄斗は、スケートボードを通じで繋がった、自分の憧れの存在であり、ライバル、仲間であるナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)と共に表彰台を飾れた喜びを、自身のSNSで綴った

「僕とナイジャは本当にストリートのスケボーを大好きだと思うし、大会では負けず嫌いのスケーターだと思う。小さい時からナイジャの大会での活躍は日本からみていて、ストリートでめっちゃやばいのも知っているし、ナイジャにしかできない限界を今でも越していて本当に尊敬してます!お互いロサンゼルスオリンピックまで険しい道を歩むだろうし、世界のスケーター達が全力で俺達を倒しにくると思う。でも、またオリンピックという舞台でナイジャと一緒に滑れる事を願っているし、自分ももっと進化してスケボーを上手くなりたい!」

パリ2024日付別ハイライト

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