阿部詩、世界ランク1位ディヨラ・ケルディヨロワに敗戦/代表監督「勝負の怖さを改めて感じた」

執筆者 Risa Bellino
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写真: 2024 Getty Images

東京2020の再演、パリ2024で兄妹同日金メダルを手にすることを最大の目標にパリ2024オリンピックに挑んだ阿部詩(うた)が、2回戦で世界ランキング1位のディヨラ・ケルディヨロワ(ウズベキスタン)に敗れた。衝撃の見事な一本勝ちだった。

投げられた後、阿部は何が起こったかわからないような驚きの表情を見せた後、すぐにその現実に打ちひしがれた。一礼をして畳から退場しようとするも、むせび泣きをしながらその感情を抑えられず、足取りもおぼつかないまま、その場で崩れ落ちた。阿部を平野幸秀コーチが迎え入れると、さらに阿部は号泣して泣き崩れた。叫びに近い悔し泣きだった。

国際大会への出場が少なかった阿部は今大会でシードを獲るのに十分な世界ランキングに位置しておらず、ノーシードで戦いに挑んだ。1回戦で出口ケリー(カナダ)と対戦し、大外刈りで一本勝ちの快勝。2回戦では得意技の内股でリードしていた阿部だったが、試合終了まで1分半のところで、ケルディヨロワが完璧な形で谷落としを仕掛け、一本を取られた。

裏投げを研究して技を磨いていたという阿部が、一瞬相手の間合いから下がったところを相手に仕掛けられて一本につながったと、日本代表監督の増地克之氏は振り返る。試合後は控室に直行した阿部に代わり取材陣の前に代表監督が現れると、「"勝負の怖さ" を改めて感じた」と試合を振り返った。

誰もが阿部の勝利に大きな期待を寄せる中、試合前は「プレッシャーとか緊張感はそんなになかったと思います。いつもどおりのスタイルでした」とするも「連覇することの難しさをこの試合で学びました」と語る。主要国際大会で常にトップに立ち続けてきた阿部の柔道を世界が研究し尽くし、対策をしてきた。「その中で勝ち抜いていくという難しさはあったと思う。東京オリンピックで金メダルを取って、世界選手権でも勝ち続けてきて、負けるイメージというのが彼女自身が持っていなかった。(試合後の姿は)そのギャップもあったと思う。オリンピックの戦いに勝つためには全てをかけていかないといけない、と改めて感じました」と勝負の世界の厳しさついてコメントした。

東京2020で17位だったケルディヨロワは、この3年でめきめきと頭角を現し、世界ランキングトップにまで上り詰めた実力者だ。グランドスラムでは今年2月のバク大会まで5勝しており、アジア杭州大会で金メダル、世界選手権では、2022年9位、2023年に阿部に決勝戦で敗れて2位、2024年は東京2020準決勝で阿部が延長戦の末に破ったオデッテ・ジュフリダ(イタリア/リオ2016銀メダル)に決勝で敗れ2位(阿部不在)と安定した成績を収めてきた。

『すべての物事には適した時期があります。花はその時が来る前には咲かず、太陽も早く登ることはありません。時が来れば、あなたにふさわしいものが必ず訪れる』という言葉を、東京大会前に自身のインスタグラムで発信していたケルディヨロワは、最大のライバル阿部を下し、"その時" に向けて今日の決勝を目指す。

一方、東京2020王者の兄・一二三(ひふみ)は、詩の果たすことができなかった想いを引き継いで、男子66kg級で2連覇に挑む。

本日2回戦から登場した一二三は、初戦をベンツェ・ポングラッツ(ハンガリー)と、準々決勝でヌラリ・エモマリ(タジキスタン)と対戦し、いずれも技ありの合わせ技一本で準決勝進出を決めた。準決勝で、デニス・ビエル(モルドバ)と対戦する。