岡慎之助「あのプレッシャーの中で楽しんで演技できた」3冠、4つのメダルについて語る/パリ2024体操
東京2020オリンピックで個人総合と種目別鉄棒で2冠、団体戦銀メダルを獲得した橋本大輝が牽引する体操ニッポン男子。その橋本も一目置く新鋭の6種目オールラウンダー、岡慎之助(おか・しんのすけ)が、パリ2024オリンピックで日本体操界の歴史を大きく塗り替えた。
7月29日の団体戦では、岡、橋本、萱和磨、谷川航、杉野正尭それぞれが最大限の力を発揮して大逆転劇で悲願の金メダルを掴み取り、7月31日の男子個人総合決勝では、橋本や中華人民共和国の強豪を抑えて初の金メダルを手にし、ロンドン2012とリオ2016の内村航平、東京2020の橋本に続き、日本勢の個人総合金メダル(4大会連続)の歴史をつないだ。種目別では、平行棒で銅メダルを獲得してから1時間後に行われた種目別の鉄棒で金メダルを勝ち取り、4種目3冠、合計4つのメダルを手にした。
圧巻のオリンピックデビューを飾った岡が、Olympics.comの独占インタビューでパリ2024について総括し、2年前の大怪我を乗り越えて掴み取ったメダルへの想いを語った。
岡慎之助「常にチャレンジャーとして挑戦する」
「パリはじまる前からちょっとずつ状態も上がってきて、仕上がりも良かったので、そこに関しては自信がありましたし、何よりあのプレッシャーの中で楽しんで演技できたことがすごい良かったなと思います」
念願のオリンピックの舞台に立ち、大好きな体操に全身全霊を込めた岡の演技は、堂々と、生き生きとしていた。
世界ジュニアで団体総合と個人総合の2冠の成績を収めた逸材として早くからその才能を開花させていた岡は、今年4月の全日本選手権で橋本に続き2位の成績を残し、5月のオリンピック最終予選を兼ねたNHK杯で初優勝を飾ったことで、パリ2024代表入りを決めた。
しかし、岡のオリンピックへの道のりは、順風満帆なものではなかった。
東京2020代表選考の予選を兼ねた全日本選手権では、手首の痛みによる影響で予選敗退。自国のオリンピックで先輩たちがROCを相手に、最後の着地で0.1点差で銀メダルとなった映像で見ていた岡は、「自分も悔しいし、自分も出たかった」と当時の心境を語る。
パリ2024まであと2年となった2022年の全日本では、決勝の跳馬の演技で右膝前十字靭帯を断裂し全治約10カ月の大怪我を負い、大きな試練に直面した。
当時を振り返り、「本当にあの瞬間は忘れられないし、悔しいっていう思いは強くあるんですけど、怪我しても応援してくれる人は変わらないし、自分の中では次のパリという目標が自分の軸としてあったので…。それがなかったら、今頃このパリオリンピックには出てないんだろうなっていう思いはありますね」と回顧すると、「落ち込むほどではなかったんですけど、悔しいっていうか、もうだめだとかは全然なくて、すぐ切り替えられた。このケガで他の種目強化できるじゃんっていうプラスの思考でした」と、体操への情熱とオリンピック代表入りへの強い意志について語った。
岡がこれまでの度重なる怪我を乗り越えてこれたのは、アテネ2004で男子体操の主将を務め、団体総合で金、種目別の鉄棒で銅を獲得した所属先・徳洲会体操クラブの米田功(いさお)監督の言葉があったからだという。「ゴールを明確にしろ、とずっと言われてきてるんで。ゴールが見えればそこから逆算して、ひとつひとつ目標を立てていければそのゴールに向かっていけるっていう話もされたので、それが(パリへ切り替えられた)きっかけですね」。
「(オリンピックを)諦めそうになったときはないかな。常にチャレンジャーとして挑戦する気持ちをもつことと、あとは目標がちゃんとあれば、諦めることってないと思う」。
自己採点するなら「90点位。平行棒で金とってたら100点!」
「団体は本当にチーム全員で掲げていた目標なので、まずそこは本当にミスできないし、でも楽しんでやろうっていう気持ちで臨んで、個人総合はミスなくやり切ることと、あとは感謝の気持ちを込めた演技をするっていうのをテーマにして、種目別は最後のポーズまで演じ切るっていうことをテーマにやりました」
それぞれの種目にテーマを持って取り組んだ岡が、一番難しかったと語るのは、団体戦だったという。前半種目でのミスで金メダル争いから遠ざかってしまった時に「そこでスイッチを切り替えるというか、本当に諦めずに最後まで繋いでいったことが良かった」と振り返ると、「怪我した時も多くの方が僕にサポートして下さっていたので。その方々だけじゃなくて、チームのスタッフやコーチ、選手にも感謝を込めて。直接は言えてないんですけど、演技って形で伝えられたんじゃないかなと思います」と笑顔を見せた。
ミュンヘン1972オリンピックの加藤沢男以来、52年ぶりの3冠達成の偉業を成し遂げ、ロサンゼルス1984の具志堅幸司以来、40年ぶりの体操競技でオリンピック1大会4個のメダル獲得の快挙を達成した岡は、「自分はすごい美しい演技をするっていう特徴はあるんですけど、やっぱり美しいだけじゃなくて、動きのキレだったり、跳躍の高さとかすごい多様性を活かしてる、美しいだけじゃないのが体操かなと思う。『金メダル取れてよかった』しか言えないですね。体操続けてきてよかったなと思います」と喜びを噛み締めた。
2028年に開催される次のロサンゼルスオリンピックでは、「団体・個人・種目別で金メダルの獲得は目指してますし、勝ち続けられるような選手になりたいと思っています」とTEAM JAPANの記者会見で語ると、「今はEスコア(Execution Score、出来栄えなどをもとにした点数)が評価されてるんですけど、まだまだ技を入れて戦わなければいけないし、個人総合でも中国の選手がミスを出さなかったら金メダルは届いていなかったと思うので、まずは新しい技をどんどん入れてって、そこでしっかり美しさっていうのを磨きながらロスに向けて頑張りたいなと思います」と意気込みを語った。
オリンピックメダリストとしての岡の体操キャリアは始まったばかり。今後、日本の体操界をさらなる高みへ導いてくれることを期待したい。
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岡慎之助(おか・しんのすけ)