アスリートの愛読書、世界で活躍するトップ選手はどんな本を読んでいる?
ジュリアン・アルフレッド、島田麻央、ダビド・ポポビッチなど、トップアスリートたちが読む本が、新たな気づきを与えてくれだけでなく、新たな道を切り開いてくれるかもしれない。
ここぞ! という場面で最高のパフォーマンスを発揮するためには何が必要なのだろうか? 汗水流す日々、綿密な計画、メンタルトレーニング……そして良い本が力を貸してくれる。
洞察に満ちたノンフィクションが伝えるアドバイスであれ、感動的な小説のストーリーであれ、アスリートを王者に変える力を持つ本がこの世には存在する。それらはアスリートだけでなく、勉学や仕事など何かに真剣に取り組む人や、日々の生活で壁に直面している人にとっても力となるかもしれない。
オリンピック選手やパラリンピック選手、世界トップレベルで活躍する選手たちは何を読んでいるのだろうか。
ジュリアン・アルフレッド(セントルシア)陸上競技
「インナーゲーム:こころで勝つ」W. ティモシー・ガルウェイ著
パリ2024オリンピックの陸上女子100mで金メダル、200mで銀メダルを獲得し、母国セントルシアに初のオリンピックメダルをもたらしたジュリアン・アルフレッドは、2022年のNCAAディビジョン1インドア選手権の予選で大学記録を樹立したものの決勝では5位に沈み、その後に、W. ティモシー・ガルウェイが著した「The Inner Game of Tennis」(邦訳:インナーゲーム:こころで勝つ)を読んで気づきを得たという。
「NCAAで負けた後にこの本を読んだんだけど、1つの特定のことをするために自分に大きなプレッシャーをかけると、思い通りにならないことがあるということが書いてありました。でも、練習して、練習してきたことをただ発揮し続けるなら、私にとって一番意味のあることだと思います。その本で教わったことを実践しているんです」
「スタートラインに立って、やるべきことを自分に言い聞かせるのではなく、コーチが教えてくれたことを実行するです」
ダビド・ポポビッチ(ルーマニア)競泳
「グローバリズム出づる処の殺人者より」アラヴィンド アディガ著
厳しいトレーニングが続いているときや余裕がなくなりそうなときには、「自分がコントロールできないことに影響されないようにしている」という競泳のダビド・ポポビッチ(ルーマニア)。「スマホを延々といじるよりかは本を読むことが好き」だと語っていた彼が、競泳男子200m自由形で金、100m自由形で銅メダルに輝いたパリ2024で読んでいたのがインドの小説家アラヴィンド・アディガが著した「The White Tiger」(邦訳:グローバリズム出づる処の殺人者より)だ。
「(パリ2024に向けて)家を出発するとき、どの本を持って行ったらいいかよくわからなかったんです。部屋にはたくさんの本があるので、どれを持っていけばいいいのか迷って、母親に1冊選んでもらったところ、『はい、これ』と」
「午後に練習がないときや夜寝る前、この本を手放すことはできませんでした。実際(パリ2024期間中に)読み終わったんです。普段はそんなに時間がないので、こんなに早く読み終わることはないのですが、この本は手放せませんでした」
イモジェン・グラント(英国)ローイング、マディ・マストロ(アメリカ合衆国)スノーボード
「トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー」ガブリエル・ゼヴィン著
パリ2024のローイング軽量級ダブルスカルで金メダルを手にした英国のイモジェン・グラントと、スノーボード女子ハーフパイプで世界トップで活躍するマディ・マストロは、ともにガブリエル・ゼヴィンの「Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow」(邦訳:トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー)の愛読者。
グラントは、「ロマンティックな愛のお話ではなく、友情としての愛についての話で、とても面白かったです。スポーツの文脈にも当てはめることができると思います」と語る。
一方、マストロは、「最初はスロースタートでしたが、一旦その中に入ってしまうと完全に夢中になりました。読み終えるのに3日かかりました。登場人物に深く感情移入できるよう描かれていることで、いい意味で映画を見ているような気分にさせられました。登場人物に感情移入し、(気づいたら)さまざまな形で彼らを応援していました。だから私はこの本が大好きなんです」と語った。
ザック・ミラー(アメリカ合衆国)パラスノーボード
「メンタル・マネージメント ー 勝つことの秘訣」ラニー・バッシャム著
パラスノーボードの世界選手権で金メダルを手にしているザック・ミラー(アメリカ合衆国)は、元射撃選手でオリンピック金メダリストのラニー・バッシャムが著した「With Winning in Mind」(邦訳:メンタル・マネージメント―勝つことの秘訣)を愛読する。
「(この本で)彼はフロー状態を見つけるのに役立つ正しい心理テクニックについて語っており、また、ハイパフォーマンス・アスリートとして必要な正しい自信を見つけるのにも役立ちます」
「彼は非常に多くのアスリートと話し、何百人ものアスリートにインタビューし、この本を書きました。勝つためのマインドセットとは? どうすれば勝つことを意識して競技に臨むことができるのか? そして、それはアスリートという枠だけに当てめる必要はありません。それは本の中で彼が最初に言っていることのひとつで、アスリートでなくても、この本に書かれていることは役に立ちます。人生のどんな局面でも成功をイメージすることです」
島田麻央(日本)、フィギュアスケート
「心配事の9割は起こらない」枡野俊明 著
ジュニアフィギュアスケート・グランプリファイナルで3連覇を達成した島田麻央(日本)は、苦戦したファイナルの後、「回数を重ねる毎にどんどんどんどんメンタル的に難しくなってきている」と語ったが、そんなときも気持ちをサポートしてくれるのが、枡野俊明・著の「心配事の9割は起こらない」である。
「(大会に出場し始めた頃は)どんな試合なんだろうって楽しみに行けたんですけど、どういう舞台かがわかってくると、こういう場合ならこういうことをしなきゃいけないとかそういうのを思ってしまって緊張してしまう」と難しさを実感。心の中に芽生えた心配事を解消するために読むのが本書だという。
「試合に出るにつれて心配事は必ずひとつあると思うんですけど、それが9割起きないって思ってやると少し気持ちが楽になります」
ケヴィン・エイモズ(フランス)フィギュアスケート
「アキレウスの歌」マデリン・ミラー著
フィギュアスケート男子シングルのケヴィン・エイモズ(フランス)が挙げるのはギリシャ神話をもとにした愛の物語「The Song of Achilles」(邦訳:アキレウスの歌)。
「(この本には)泣かされましたし、すごく考えさせられました。本で表現されているこの物語の世界観を、どのように氷の上で表現したらいいのだろう? 読んだ後、すごく考えさせられました」
「この本を読んだとき、感動して、『この本のストーリーを氷上で伝えなければ』と思いました。そして、頭に浮かんだ唯一の音楽は、映画『グラディエーター』の曲(Now We Are Free)でした。2つの異なる神話ですが、私にとってはこの曲はマッチしていました。この曲は美しく、エネルギーも何もかもが素晴らしかったからです。『この曲に合わせて滑らなきゃ』と思いました。自分のストーリーがこのストーリーにマッチしていると感じ、アイスリンクの上で、僕はこの物語を表現しています」
ララ・バドラウ(オーストリア)セーリング
「人を動かす」デール・カーネギー著
パリ2024のセーリングで金メダルを獲得したオーストリアのララ・バドラウは、デール・カーネギーが著した「How to Win Friends and Influence People」(邦訳:人を動かす)から大きな影響を受けた。
「ちょっと安っぽいタイトルですが、すごくいい本なんです。これは「友達の作り方」に関する内容で、どのようにすれば自分の周りの人たちからベストを引き出すことができるか、どのようにすればうまく協力し、ベストを尽くすことができるかについて書かれた素晴らしい本なんです」
エイブリー・スキナー(アメリカ合衆国)バレーボール
「ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣」ジェームズ・クリア著
世界各地で話題になったジェームズ・クリアが著した「Atomic Habits」(邦訳:ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣)に影響を受けたアスリートの1人が、パリ2024のバレーボール女子で銀メダルに輝いたアメリカ合衆国代表のエイブリー・スキナーだ。
「(この本は)本当にいろいろな物事への見方を変えた本でした。私にとって基本に立ち返る良い方法のように思います。自分にはどんな習慣があるのか? 最高の自分になるという最終目標に近づくために、自分の人生に取り入れることができる新しい習慣は何だろう?この本は本当に面白かったし、読み返せるようにしたいから持っていますし、友人にも紹介しています」
ニキータ・ボロディン(ドイツ)フィギュアスケート
「HELL WEEK(ヘルウィーク)最速で『ダントツ』に変わる7日間レッスン」エリック・ベルトランド・ラーセン著
2023年世界フィギュアスケート選手権のペアで銅メダルに輝いたニキータ・ボロディンは、エリック・ベルトランド・ラーセンが著した「Hell Week」(邦訳:HELL WEEK(ヘルウィーク)最速で『ダントツ』に変わる7日間レッスン)を愛読する。
「何かをすることは、とても良いモチベーションになります。感情が落ち込み、エネルギーが必要になることもあります。それをこの本から得られます。3回読みましたが、いつも気持ちややる気がたかまります」。