北京オリンピックが行われた2021-2022年シーズン。フィギュアスケートの鍵山優真はグランプリシリーズ2戦で優勝し、2022年2月の北京オリンピック、翌月の世界選手権で銀メダルを獲得した。
それは次のシーズンで世界の頂点に立つための布石のようにも思われたが、夏に左足首を故障し、国際舞台からの長期離脱を余儀なくされた。
鍵山が怪我の治療に充てた昨シーズンは、日本代表の宇野昌磨がパフォーマンスに磨きをかけ、グランプリファイナルを制して世界選手権2連覇を達成。アメリカ合衆国では当時17歳だったイリア・マリニンが、羽生結弦さんが追い求めていた4回転アクセルを成功させた。一方、グランプリファイナルには日本から4選手が出場権を掴み取り、宇野と山本草太がワンツーフィニッシュを飾った。
今季のグランプリシリーズ・フランス大会後に行われたOlympics.comのインタビューで、鍵山は「試合を見ている中でハイレベルな戦いが繰り広げられていたので、すごいなっていう風に思っていました」と、前シーズンを振り返った。
鍵山は怪我が完治しない状態で昨年12月の全日本選手権に挑んだが結果は8位。それは焦りにつながることがあったかもしれない。しかし、「怪我で休んでいる間も前向きな気持ちで、『怪我を治してやる』っていう強い気持ちでやっていました」と続ける。
そうした経験や思いは、今シーズンの心構えにもつながっていく。
「焦ることなく小さな積み重ねが大事だと思っているので、1日1日大切にしながら練習を積み重ねて、今は4回転もしっかり取り戻せて万全な状態です」
「自分が1年間休んでいて、みんなとの差もあるので、そこを今シーズンは詰めていけるように、もっともっと努力して頑張りたいなと思います」
さらに鍵山は他の競技でオリンピックを目指すアスリートからも刺激を得た。10月にはバレーボール男子日本代表「龍神NIPPON」の試合観戦に訪れたことを自身のソーシャルメディアを通じて報告。
石川祐希、西田有志、髙橋藍、宮浦健人らとツーショット写真を投稿し、「大迫力なプレーとオリンピック決定の瞬間を目の前で見ることができてとても感動しました」とつづると、「僕も観ている人に感動を与えられる選手になれるように頑張ります!」と誓った。
カロリーナ・コストナーをコーチに迎えて
鍵山といえば、父親でオリンピアンでもある元・フィギュアスケーターの鍵山正和氏と二人三脚で競技に取り組んできた。今季はメインコーチの正和氏に加え、オリンピック銅メダリストで元・世界女王でもあるイタリアのカロリーナ・コストナー氏をコーチに迎え、指導を仰ぐ。
「カロリーナコーチと組んでからは、体の使い方だったりとか、リンクカバー(リンクの使い方)のことだったりとか、曲の目線の使い方だったりとか、そういったところを細かく教えてもらっています」
「カロリーナコーチは現役時代から表現力がすごくて、美しいスケートをしていた。そういう美しいスケートは自分の理想としているスケートでもあるので、そういったところを教えてもらってすごく嬉しいです」と鍵山は続ける。
一方、コストナー氏もOlympics.comのインタビューの中で鍵山のスケートに対する姿勢について触れ、「彼は毎日のように小さな目標を立てて、成長しようとしています。久々に会うと大きな成長を遂げていることもあり、私たちが話し合ったことをうまく自分のものにしています」と称えた。
「スケートにおいて、一夜のうちにアーティストが誕生することはありません。長いプロセスの中で、みんなそれぞれ違う道を辿ります。最も重要なことは、彼が成長しているということです。彼は、彼の個性と彼自身をスケートに取り入れ、責任を持って練習や準備、スケートに関する選択を行っています。満足のいっていないことに関して、彼自分自身で解決策を見つけてくるのは、とても頼もしいことです」
1年半ぶりの国際大会となったシーズン初めのチャレンジャーシリーズ・ロンバルディア杯ではショートプログラム、フリースケーティングともに1位で優勝を飾ると、グランプリシリーズ復帰戦となったフランス大会では3位で表彰台に立った。
2020年のローザンヌユースオリンピックで金メダルを獲得した鍵山は、北京2022で銀メダルに輝き、次の冬季オリンピックであるミラノ・コルティナ2026を見据える。
「今までは、ジャンプや技術的な部分しか練習してこなかったんですけれども、ミラノ(オリンピック)に向けて世界と戦っていくためには、もっともっと表現だったりとか、スケーティングっていうものも必要になってくると思う」
「そういった総合力を高めていけたらいいなと思っています」
新しい鍵山優真、新しい挑戦
鍵山は昨シーズンと同様、ショートプログラムの曲はイマジン・ドラゴンズの「ビリーバー(Believer)」で、振付は、羽生さんの作品も手掛けてきたシェイリーン・ボーン氏が担当する。
「ショートプログラムは今までやったことがないジャンルや動きをしてみたいという思いから、『ビリーバー』という曲を選びました。振付はシェイリーン・ボーン先生にお願いしました。きびきびとした動きだったりとか、アクロバティックな動きもすごく入っているので、そういったところが新しい挑戦になっているのではないかなと思います」
一方のフリーの曲は、エツィオ・ボッソの「レイン、イン・ユア・ブラック・アイズ(Rain, in Your Black Eyes)」で、振付はローリー・ニコル氏が担当した。
「フリーはクラシックの音楽なんですけど、後半につれてどんどんどんどん盛り上がっていくプログラムなので、そういったところの強弱や、表現を見てもらえたらいいなって思っています」と説明した。
グランプリシリーズでは、まもなくグランプリファイナル前の最後の大会となるNHK杯(11月24日〜26日)を迎える。第4戦の中国大会で2位となった宇野をはじめ第1戦スケートアメリカで4位となったニカ・エガーゼ(ジョージア)が名を連ねる。
「グランプリシリーズは2戦とも、ショート、フリーをしっかりそろえて表彰台に登ることがまず目標なので、今大会(フランス大会)はフリーで少しミスがあって悔しい思いをしたんですけれども、次のNHK杯でもっともっといい演技ができるように頑張りたいと思います」
「グランプリファイナル(12月7日〜10日/中国)も目指しているので、そこに向けて今まで以上に努力をしていきたいなと思います」 。