日本人として初めて、2022年と2023年の世界フィギュアスケート選手権で連覇を成し遂げた現王者の宇野昌磨。今シーズン氷上に立つとき、シニアクラスで国際大会にデビューして10年目の節目を迎える。
「彼はとても若く見えます。実際に若いのですが、男子スケート界の中ではベテラン選手のひとりです」と、宇野のコーチであり、トリノ2006の銀メダリストであるステファン・ランビエール氏は、2024年10月、Olympics.comとの独占インタビューで話した。
「彼が持っている成熟ぶりとこれまでの経験を考えると、彼のキャリアのひとつの章を締めくくるのには今がよいタイミングだと感じています」とランビエール氏は言う。「これからも新たなシーズンに臨んでいくことになりますが、彼の成熟、彼のスケート、そして、人としての彼自身の存在がはっきりした今はちょうどよいタイミングなのです」
北京2022の男子シングルスで2度目のメダルを獲得して以来、宇野のチームは1シーズンごとに集中したアプローチで臨んでいるとランビエール氏は説明する。競技からいつかは引退するといった確かな計画はなく、むしろ今に集中するというアプローチで宇野の最大限の力を導き出している。これによって、過去2シーズンで出場した全ての国際大会で優勝し世界選手権では2度の王座を獲得している。
「昌磨は常にチャレンジャーでした」とランビエール氏は振り返る。「世界タイトルの連覇を狙った時も、羽生結弦選手やネイサン・チェン選手と競い合っている時も、彼は常に競技を愛していました。彼は自分自身を追い込むことがとても好きなのです」
宇野昌磨のフリープログラム「ひとつの章の締めくくり」
2019年以来、宇野をコーチングするランビエール氏は、2021年から振り付けを担当している宮本賢二氏の手がけたフリープログラム(スケーティング)の2部構成「Timelapse」「Spiegel im Spiegel(鏡の中の鏡)」に宇野のスケート人生のひとつの「章」が表現されていると話す。
「私が提案したこの音楽を聴いて思い描いたことは、ひとつの章の締めくくりを迎えたようなイメージでした」とランビエール氏は明かした。「フリー後半は彼のキャリアの全てが体現されています。彼は長年にわたって世界中を駆け巡ってスケートをしてきましたが、私はこれらの年月を映し出し、多くの成功と素晴らしい瞬間で満ちた彼のスケート人生を表現するこの一章に敬意を表したいと思いました」
「フリー前半は、彼の競技人生の中のいくつもの場面を写したフォトアルバムであり、その美しい瞬間を回顧させます」とランビエール氏は続けた。
「この章に続きがあるのかはわかりませんが、これが今のイメージです。昌磨は、本当に長年にわたり競技を続けてきており、すでに2度のオリンピックを経験しています」
ショートプログラムは、映画「Everything Everywhere All at Once(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)」からの選曲で、ランビエール氏自身が振り付けを担当した。ランビエール氏は、今シーズンもまた、宇野にとって自分自身の内面に向き合い、自分が何を求めているのかを見つける旅になるだろうと語った。
「彼は自分が求めていること、自分の考え、そして目標にどうやって向かっていけばよいのかということに少しずつ気づくようになりました」とランビエール氏は説明する。
ステファン・ランビエールにとって宇野昌磨の指導は「光栄」なこと
全てが予定通りに進むと、これからは宇野にとって忙しい2か月間となる。今シーズン初戦となる11月10日~12日開催のグランプリシリーズ第4戦中国杯に出場の後、同24日~26日にはグランプリシリーズ第6戦NHK杯に出場する予定となっている。
また、それらの結果次第で、12月7日~10日に北京で開催されるグランプリファイナル(宇野は現チャンピオン)に出場し、同月後半には全日本フィギュアスケート選手権で6度目の優勝を狙う。
このような多忙なスケジュールの中で、時が経つにつれて宇野が自覚してきたことは、自分は自分自身と競い、自分自身のために競っているということだった。
「彼は今、ジャンプや表現、スケート、パフォーマンスについて、何を達成したいのかを理解しています。そして、そこへ彼を導くことができたのは私にとって光栄なことです」
「彼は、技術的にも芸術的にも自分自身のスケートを向上させるために何を求め、何を必要としているかを明確に把握し、それらにうまく集中することができるようになりました」とランビエール氏は話した。「彼は、自分が求めていることに気づき、そのために一生懸命に努力しています。彼の頭の中のイメージは非常に明瞭です。彼を指導することはとても光栄なことです。彼はとても強い意志を持って前進しています」
「彼が新しいプログラムをどのように発展させ、競技でそれらをどう披露するかを見るのが楽しみです。また、彼がベストを尽くすために、前進し、改善し、最善を尽くす過程を見ることも楽しみにしています」
コーチと選手は章の同じページにいるようなものだろう。
先月、中国杯の準備のために国内の練習拠点である愛知県豊田市の中京大学のリンクで練習を行った宇野は、ランビエール氏が確信していた通り、彼自身の気づきを明瞭に話している。
「今シーズンはジャンプと表現力に全力を注ぎたい。日に日に成長を感じながらやることができている」と宇野はテレビの取材に応じた。
「日々の練習に成長を感じるということはまだ改善の余地があるということ。自分が繰り返し見たいと思える演技がしたい」
「シーズンが終わるころには名残惜しいと思えるプログラムにできたらなと思っています」と宇野は話した。