常に進化し続けるフィギュアスケートの世界では、次に何が起こるか予測することが難しい。たとえば、2023~24年シーズンにカロリーナ・コストナーがアシスタントコーチ兼振付師として鍵山優真のチームに加わることを誰が予想しただろうか。
4度のオリンピアンであるイタリアのコストナーは、ソチ2014冬季オリンピックの銅メダリスト、2012年の世界チャンピオンであり、その魅力的な芸術性と世界トップクラスの表現力で知られている。
20歳の鍵山は、北京2022で銀メダリストとなり、今後のさらなる活躍が期待されているが、2022~23年シーズンの大半は左足首の怪我のために不本意な成績で終えている。
2人は今年、鍵山のセカンドマーク(芸術性)のさらなる発展に焦点を当ててチームを結成した。その効果はすぐに現れた。鍵山は今シーズンのグランプリ(GP)フランス杯で3位、11月のNHK杯では優勝を果たし、12月のGPファイナルでは銅メダルに輝いた。
「こんなに素晴らしく才能のあるスケーターと私の経験と専門知識を共有できることは、私にとって大きな喜びであり名誉です」と、コストナーは今シーズンの初め、Olympics.comとの独占インタビューで語った。
「彼はとても一生懸命に取り組み、集中しています」と彼女は付け加えた。「彼はスケートを愛しています。彼は毎日小さな目標を設定し、それを達成し、改善しようと努力していることが見て取れます。彼を見るたびに大きな進歩を遂げていることがわかります」
「カロリーナコーチと組んでからは表現だったり、スケーティングだったりを主に教えてもらっています」と、鍵山は独占インタビューで語った。
「今まではジャンプなどの技術的な部分しか練習はしてこなかったのですが、今シーズンはミラノ(ミラノ・コルティナ2026オリンピック)まで世界と戦っていくためには、もっと表現だったり、スケーティング(を強化すること)が必要になってくると思います」
「もっと総合力を高めていけたらいいなと思っています」
鍵山優真「そういう美しいスケートというのが自分の理想」
「カロリーナコーチは現役時代からスケーティング、表現力がすごく美しいスケートをしていました」と、鍵山は話す。
「僕もそういう美しいスケートというのが自分の理想としているスケートでもあるので、そういったところを教えてもらえてすごくうれしい」
2人は、コストナーが2006年以来、鍵山が2021~22年のオリンピックシーズン以来、一緒に取り組んできた著名な振付師ロリ・ニコルを通じて出会った。
「私とロリにとって、有望なスケーターと一緒に取り組むことは長い間の夢でした」と、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックの大会アンバサダーでもあるコストナーは話した。
「私は優真に、彼の競技、特に彼のスケートの芸術的な部分を手伝ってほしいと頼まれました。私の役割はジャンプを除く全てです」
「今日の競技ルールを考えると、全体のプログラムを見るためには異なる視点を持ち、異なる意見を持つことが非常に重要だと思います。それにより、最善の戦略と最善のプログラムを見つけることができます」とコストナーは言う。
鍵山にはスケートのバックグラウンドがある。彼の父親でありヘッドコーチの鍵山正和は1990年代初頭に全日本選手権で3連覇しており、アルベールビル1992とリレハンメル1994の2度の冬季オリンピックに出場している。
彼のジャンプ技術は、シニアで知られるようになる前のローザンヌ2020ユースオリンピックで金メダルを獲得するのに役立ったが、彼の芸術的な進歩が今では彼の最大の焦点となっており、これはGPファイナルの優勝者であるイリア・マリニンも同様である。
カロリーナ・コストナー「彼はこのことに責任を果たそうとしています」
2024年3月のISU世界フィギュアスケート選手権モントリオール大会が4年サイクルのオリンピックまでの中間点となり、マリニンと鍵山は、シングルスで2度のオリンピックメダリストであり、2度の世界チャンピオンである宇野昌磨と共にトップの座を争うことになるだろう。
今日の男子スケートは、マリニンが彼の唯一無二の4回転アクセルで脚光を浴びているように身体的な側面が注目される。しかし、同時に芸術的な側面も大きい。10年以上前のパトリック・チャンや羽生結弦のような選手たちを振り返ると、このスポーツはスケーターに4回転ジャンプを次々と成功させるだけでなく、プログラム全体とそれに伴う細部の全てへの献身的な表現を求めている。
だからこそ、鍵山のためにコストナーがいる。
「スケーターがアーティストになるのは一晩で起こるものではありません」と、彼女はOlympics.comに語った。
「それは長いプロセスであり、誰もが異なる道を辿ります。しかし、最も重要なことは、優真自身の成長です。彼が自分の個性と自分自身を自らのスケートに投入し、トレーニングと全ての準備に責任を持つこと、彼が選択するスケートに責任を持つことが重要です」と、コストナーは断言する。
彼女は続けて、「私は、彼が自分自身の問題や不快に感じることに対して自らで解決策を考え出すところに感激しています。彼と一緒に最高のスケートを見つけようとするプロセスは本当に素晴らしいことです」と喜びを表現した。
鍵山は、今年のGP第6戦で2021年以来の優勝を果たし、大阪の多くのファンの前でNHK杯の金メダルを獲得した。プログラム曲「Rain, In Your Black Eyes」を使用した彼のフリースケートは、振付のニコルとコストナーのタッチであふれ、彼のパフォーマンスへの献身をこれまで以上に表現した。
「私の目には、彼は全てを進歩させることができるように見えます」と、コストナーは記者たちに言った。「彼に、自身の感情の描写に取り組んでほしいと思います」
「彼は自分がどこに立っていて、どこを改善したいのかをとても明確に意識していると思います。彼はこのことに責任を果たそうとしています。彼は自分の性格と個性を彼のスケートに投入しています。それはとても素晴らしい瞬間です」と、彼女は付け加えた。
コーチとしてのカロリーナ・コストナーのこれから
2018年に出場した世界選手権を最後に競技から離れたコストナーにとって、今はコーチとしての新たなスタートと言えるかもしれない。
「全く分かりませんし、想像もできません」と彼女は笑顔で言った。
「私にとって想像しないことが最善だと思っています。私はスケートが大好きです。この難しいスポーツに取り組む全ての人がベストチャンスを見つけることを願っています」と彼女は話した。「もし私が彼らの努力を少しでもサポートできたのであれば、それはとても大きな使命を果たしたことになるでしょう」
コストナーは今もなおフィギュアスケートにとても積極的に取り組んでいる。彼女はミラノ・コルティナ2026の大会アンバサダーの役割を担っており、また、エキシビションショーでスケートを披露している。
過去2シーズンでは、正式なパートナーシップではなかったが、若きスケーター、イザボー・レヴィト(アメリカ合衆国)にアドバイスをしていた。
現在36歳のコストナーにとって、彼女の使命は明確でシンプルである。彼女は、フィギュアスケートが彼女に与えてくれたものを伝えていきたいと思っている。
「私が持っているスケートとその知識を伝え共有することができるということは、私がこれまでに獲得したどんなメダルよりも価値があるのではないでしょうか」と彼女は最後に話した。
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