東京2020オリンピック・スケートボード競技で、若きアスリートたちが日本そして世界に感動と興奮をもたらした2021年の夏。
あれからまもなく2年。選手たちは歩みを止めることなく、日々の練習や国内外での大会、そして自分自身に挑み続けている。
女子パーク種目で銀メダルを獲得した開心那(ひらき・ここな)は、その動きをリードするスケーターのひとりだ。
2008年8月生まれの開は、12歳11ヶ月という日本史上最年少でオリンピック・メダルを首にかけた。当時の身長は146cmだったが、2023年2月に行われた世界選手権に現れた際には、トレードマークの長い髪こそ同じだったものの、身長は165cmを越えるほどに成長していた。
その成長は、競技の面でも著しい。パリ2024オリンピック予選を兼ねたパーク世界選手権が行われたアラブ首長国連邦(UAE)シャルジャでのOlympics.comのインタビューで、開は東京2020からの1年半を振り返り、「今までずっとやってきた技のメイク率も上がったし、クオリティーも上がったかなって思います」とし、「オリンピックで銀メダルを取ったことで、前よりも自信を持って大会で滑れるようになったかな」と自身の変化を語った。
「大会は自分との戦い」
北海道出身の開は、まだ幼かった頃に家族が「親子でできること」を探す中でスケートボートに出会った。開はその魅力をこう語る。
「スケートボードは、年齢とか性別関係なくみんなが楽しんでやれるし、同じ人がいない。一人ひとり個性があるので、そこがかっこいいなって思います。服とかも全部好きなものを着てやれるし、やるトリックも決まっているわけじゃなくて、(それぞれ)自分がやりたいトリックをやる感じなので、決まりがないところがいいですね」
その自由さや個性が尊重されるスケートボード文化はそのまま大会の雰囲気にも反映される。
「スケートボードって自分が『このトリックやる』って決めたやつをメイクしたら周りのみんなが盛り上がるし、褒めてくれる。誰かが決めたら、みんなも自分も『イェーイ』みたいになるので、そういうところがいいです」
スケートボードの大会を見ているとそれは誰もが気づくことだろう。東京オリンピックでは選手同士が互いを称え合う姿が大きく注目された。
だが、競技の上ではライバルでもある。その辺りはどのように感じているのか? 現在地元の中学校に通う開は「ライバル」という言葉に違和感を覚えているような表情を見せ、こう続けた。
「大会は自分との戦いだから、周りは全然気にしていないです」
「例えばこの人がこの技やって勝っているとしても、真似とかはしないで、誰もやっていない技ですごいのをやれるようになりたいなって思っています」
その言葉の通り、開はこの世界選手権・決勝2本目のランでフロントサイドノーズグラインド・リバートを決めて最終的に銀メダルを獲得すると、「大会でやっている人がいない技だったので、出すことができてよかったです」と満足げな表情で笑った。
「Kokona」スタイルを確立したい
自分自身と戦う姿勢は、自分のスタイルを追求することにもつながっていく。
「見ている人からかっこいいって思ってもらえるような滑りをしたい」とさまざまな機会で口にしている開は、憧れのスケーターとしてリジー・アルマントを挙げる。
「自分が世界に行きたいって思った理由のひとつは、リジー・アルマント選手です」
アルマントはフィンランド出身の父とアメリカ合衆国出身の母を持ち、スケートのスタイルはもちろんのこと、フィンランド代表として東京オリンピックに出場した際には、自身もデザインに関わったというユニフォームでパフォーマンスを披露した。
「技をやっていなくても、ただ滑っているだけでもかっこいい『リジー』っていうスタイルがあるから、自分も『Kokona』って分かってもらえるような、そんな自分のスタイルを持った人になりたいなって思っています」
開をはじめ、スケーターそれぞれが自分の個性を大切にしながら自分のスタイルを追求する結果が、時に大会で戦うことになるスケーターへの敬意となり、それぞれが挑戦する技が決まれば、互いを褒め称える空気が自然と生まれてくるのだろう。
「(スケートボードは)終わりがないっていうか、このトリックを決めたら、また次があるみたいな感じで、どんどんいろんなものが出てくるから、そこも飽きないでずっと楽しんでやれるところかなとは思います」と付け加えた。
直近の目標は「パリオリンピックに出ること」
パリ2024オリンピック予選大会の最初の大会に位置付けられた2023年2月の世界選手権で、開はスカイ・ブラウン(英国)に続いて2位で銀メダルを獲得した。
パリオリンピックに向けた思いとして、「これからもパリに向けて予選があるので、毎回上位に入って、まずは日本代表になるのが目標です」と話す。
東京2020では銀メダルを獲得し、数々の国際大会で上位に入る開だが、そこに到達することの難しさも実感している。
「大会って、自分の練習しているところでやるんじゃなくて、まだ滑ったことのないところで、何日間かで合わせて本番を迎える」とした上で、毎回の大会が「ルーティンとかどれくらいできるのかとかもまだ分かっていない」中での戦いだと説明する。
「パリオリンピックに向けての大会は、緊張します。やっぱり難しいです」
そう話す開だが、それを受け入れ「そういう(数日間で合わせる)ことには結構慣れてきているので、それを活かして合わせてやっていきたいなって思っています」と前を向く。
そして最後に「パリオリンピックでスター選手になるのは誰だと思うか」と尋ねてみると、開は恥ずかしそうな笑みを浮かべながら控えめにこう宣言した。
「私かもしれない…です」
開は5月12日〜14日に予定されているエックスゲームズ千葉2023に出場を予定しているほか、5月21日〜28日にはアルゼンチンのサンフアンで、オリンピック予選を兼ねて行われるワールドスケート主催のWSTサンフアン・パーク2023に出場する。