3階建ての建物の高さに相当する8メートルを超える高さまで跳び上がり、空中でのアクロバティックで華麗な技を繰り返しては、手に汗を握り見ている人を魅了するトランポリン。オリンピックではシドニー2000で体操の競技のひとつとして正式に登場した。
比較的新しいオリンピック競技であるトランポリン。オリンピックで行われていることは知られていても、競技についてあまり詳しく知らないオリンピックファンも少なくないだろう。
そこで、Olympics.comでは、トランポリンに関する素朴な疑問をいくつか挙げてみた。この競技の醍醐味を知ることができるはずだ。そして、パリ2024オリンピックに向けて活躍する注目の日本選手を紹介する。これで、トランポリンを観戦する面白さや楽しみがふくらむに違いない。
トランポリンについての素朴な疑問
トランポリンの起源は?
中世サーカスの空中ブランコで曲芸師が安全ネットに落ちて弾む様子から誕生したとされるが、スポーツとしてのトランポリンは、1934年にアメリカ合衆国の体操競技選手だったジョージ・ニッセンによって考案された。世界で初めての世界トランポリン選手権は、1964年にロンドンで開催された。
トランポリンが盛んな国は?
日本国内の競技人口は1,500名とされることからそれほど多いとは言えないが、リクリエーションなどとして取り組む人は世界でも少なくないだろう。オリンピックでは、これまで中華人民共和国が表彰台の常連だった。シドニー2000からの過去6大会で授与された36個のメダルのうち、4個の金メダルを含む14個のメダルを獲得している。その中にあって、カナダのロザンナ・マクレナンの活躍は注目に値する。ロンドン2012で金メダルに輝いた後リオ2016でも金メダルを獲得し、この競技を連覇した唯一の選手となった。日本でも、2022年世界トランポリン競技選手権大会(世界トランポリン/ブルガリア・ソフィア)の女子個人で金メダルを獲得した森ひかる、同男子個人で銅メダルを獲得した石川和(やまと)らがオリンピックでのメダル獲得を目指す。
オリンピック競技で使われるトランポリンは?
スチールのスプリングでフレームに固定された約4.3m×2.1mの長方形の合成繊維でできたトランポリンベッドからなり、跳躍するベッド中央部には7cm±3cmの赤十字の表示がある。選手はこの赤十字に着地するよう技や身体をコントロールしながら跳躍を繰り返す。
トランポリンの競技時間は?
10回連続で異なる技を行い、それぞれの得点を合計して順位が決められる。10回の技を演じるのに要する時間はおよそ20〜30秒となる。ただし、技に入る前に行うストレート(伸身)ジャンプは予備ジャンプとして十分な高さに到達するまで行われ、技としては回数に数えられない。
オリンピックで行われているトランポリン種目は?
シドニー2000から導入されたトランポリン競技だが、これまで男女個人種目しか実施されていない。世界選手権などでは、シンクロナイズド(2人チームが並行に置かれた2台のトランポリンで同時に演技する)、団体競技(4人チームがそれぞれ個人競技を行い合計点を競う)、ダブルミニ(体操競技の跳馬に似た競技)、タンブリング(体操競技のゆかのように細長い床を移動しながら連続跳躍を行う)などが行われている。
トランポリンのジャンプの種類は?
トランポリン選手は、頭からつま先まで一直線に伸ばすストレート(伸身)、ひざを抱えて身体を丸めるタック(抱え込み)、身体を腰の部分で2つに折って膝を伸ばすパイク(屈伸)の3種類を基本姿勢として、前方および後方への宙返りを連続して行う。トリフィス(3回前転宙返り)、ミラー(3回ひねりを伴う2回後転宙返り)などが難易度の高い技として知られる。ニードロップ(膝落ち)、シートドロップ(腰落ち)、フロントドロップ(腹落ち)、ピルエット(捻り跳び)、バラニー(前方宙返り1回半ひねり)、ルドルフ(前方宙返り1回半ひねり)、ランドルフ(前方宙返り2回半ひねり)、エイドルフ(前方宙返り3回半ひねり)などさまざまな技があり、競技ではこれら10種目を組み合わせて演技が行われる。10種目を演じた後の着地も静止して終える必要がある。
トランポリンではどのように採点される?
選手は必ず10種目の異なる跳躍を連続して演技しなければならない。技の難しさや出来栄え、跳躍の高さ、滞空時間などから審判員によって採点される。トランポリン競技は、高度な技術だけでなく、絶対的な正確さも要求される競技である。採点は、次の4つのポイントから行われる:技の難しさを表す難度点(Dスコア/回転数やひねりの難易度によって加点される)、技の華麗さを表す演技点(Eスコア/跳躍時の姿勢や身のこなし、安定性によって20点満点から減点される)、技をどれだけ移動せずに成功させたかを表す移動点(Hスコア/着地点が赤枠のジャンピングゾーンから外れるとそのたびに10点満点から減点される)、演技の高さを表す跳躍時間点(Tスコア/トランポリンの下に設置されている跳躍時間測定器によって滞空時間1秒につき1点加点される)。
回転やひねりを加えながらトランポリン中央に毎回着地するのは難易度が高く、トランポリンベッド以外に触れるとそこで演技が終了する。トランポリンは体操の競技のひとつだが、男女によって種目やルールが異なる体操競技や新体操と違い、男女ともに同一ルールで行われる。
トランポリンの競技はどのように行われる?
オリンピックでのトランポリン競技では、男女それぞれ16名(国・地域ごとに最大2名)が出場し予選と決勝を行う。予選では、10種目の異なる跳躍で構成された第1演技と第2演技を行い、合計点の上位8名が決勝に進出することができる。1度の演技で競う決勝では、予選で使用した種目を含め、選手は自由に演技を構成することができる。予選ではEスコアとTスコアの比重が大きく、決勝ではDスコアの比重が大きくなるため、決勝の結果が予選の順位と異なる場合もある。
トランポリンでは音楽を使う?
体操競技(女子ゆか)、新体操、アーティスティックスイミングなどの演技が採点される競技では、音楽が使われることが多い。トランポリンでは演じる種目が10種類と決められていることもあり音楽は使用されない。しかし、トランポリンではリズム感がとても重要だ。例えば、選手は演技中に口笛のような音を出すことがある。これは呼吸法のひとつとして、技のリズムを取る目的で行われている。
トランポリン選手はどうして靴下を履くのか?
トランポリン競技では裸足で演技することが認められていない。体操競技のゆかや跳馬では、裸足で演技する選手は多い。トランポリン競技では、テープを編み込んだメッシュ状のトランポリンベッドに着地する際に足の指や爪を痛める可能性があるため靴下の着用が義務付けられている。
トランポリンの周りに立つスポッターとは?
スポッターは、トランポリンの周囲に立って選手が失敗をして落下しそうな際に援助をする役割を担う。トランポリンの4コーナーに立つ大会側の係員に加え、選手の指名したスポッターはトランポリンの両側の真横に防護マットを持って立つ。選手が危険な状況でマットを投入するが、この時点で競技は終了となる。
トランポリンの観戦マナーは?
選手の演技中にコーチが声をかけると減点となるため、応援であっても演技中は静かに見守ることがマナーとされる。声援を送るなら選手がトランポリンベッドに上がる前か、演技終了後がよいだろう。
パリ2024をかけた戦いが始まる:世界トランポリン2023注目の日本選手
2024年11月9日~12日、イギリス・バーミンガムで世界トランポリンが開催される。ここがパリ2024の出場枠をかけた最初の戦いとなる。男女各上位8人に入れば所属する国内オリンピック委員会(NOC)が男女それぞれ最大1枠を獲得することができる。
東京2020代表の森ひかるは、昨年の世界トランポリン2022(ブルガリア・ソフィア)女子個人で金メダルを獲得した。2019年の世界トランポリン(東京)でも優勝しており、今大会での連覇に期待がかかる。2022年世界トランポリン男子個人で銅メダルを獲得した石川和(やまと)にも注目だ。
また、今回の世界トランポリンの国内代表選考会で優勝した19歳、西岡隆成(りゅうせい)にも期待がかかる。西岡は、2021年世界トランポリン(アゼルバイジャン)では銀メダルを獲得している。同じく国内代表選考会で優勝した東京2020代表の佐竹玲奈(れいな)の活躍も注目される。
その他、2019年世界トランポリン女子個人で銀メダルの土井畑知里(どいはた・ちさと)、東京2020代表の堺亮介、宇山芽紅(めぐ)らの演技にも期待したいところだ。
なお、オリンピック各国代表の編成に関してはNOCが責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。