世界陸上競技選手権2023:注目の女子日本代表選手

8月19日開幕の世界陸上2023ブダペスト大会。総勢76名(男子48名、女子28名)の日本代表選手の出場が予定されている。この中から注目の女子選手を紹介したい。

1 執筆者 Hirotaka Hikoi
世界陸上2023注目の女子日本代表選手

8月19日(土)、ハンガリー・ブダペストを舞台に世界陸上競技選手権2023が開幕する。27日(日)の最終日まで、陸上競技49種目において熱戦が繰り広げられる。

来夏のパリ2024オリンピックにつながる今大会では、参加標準記録の達成を見据え、あるいはワールドアスレティックス(世界陸連)のランキングスコア獲得を目指し、選手たちは最高のパフォーマンスを目標とすることに余念がない。

日本代表選手団からは、男子400mの佐藤拳太郎、女子やり投の北口榛花(はるか)を主将として、過去最多規模の総勢76名(男子48名、女子28名)が出場する予定だ。「各選手が最高のパフォーマンスを発揮できるよう準備していこう」と佐藤らは日本代表選手の面々に呼びかけた。

多くの日本代表選手の活躍が期待されるが、今回Olympics.comでは、女子日本代表の中から注目の選手を紹介したい。

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秦澄美鈴:女子走幅跳

女子走幅跳の現日本記録保持者、ワールドランキング10位の秦澄美鈴(はた・すみれ)は、昨年7月の世界陸上オレゴン大会に続いての出場となる。前回大会では、6m39の記録で予選全体の19位に終わり決勝進出を逃している。

今年に入ってからは秦の快進撃が続いている。まず2月12日、アジア室内陸上競技選手権(カザフスタン・アスタナ)で6m64を跳び、室内の日本記録を20年ぶりに更新して大会新記録で優勝した。6月の日本選手権(大阪市長居)では3連覇を果たし、翌7月14日、2023年アジア陸上競技選手権(タイ・バンコク)では6m97をマークし、それまでの日本記録を11cm上回る跳躍で17年ぶりに新記録を樹立している。秦のこの日本新記録は、パリ2024の参加標準記録(6m86)をクリアしており、オリンピック出場権をかけて今大会での活躍が期待されている。

2度目となる世界の舞台で予選突破を目指し集中する中、「7m」のビッグジャンプが見られるかもしれない。

女子走幅跳は次の日程で行われる。

  • 予選:8月19日(土)12:25(日本時間 19:25)~
  • 決勝:8月20日(日)16:55(日本時間 23:55)~

田中希実:女子1500m・5000m

東京2020の女子1500mで田中希実(のぞみ)は、男女を通じ日本選手としてオリンピックでは初めてと言われる決勝進出を果たした。準決勝で出した記録3分59秒19は現在も日本記録である。決勝では8位入賞を果たした。

昨年の世界陸上オレゴン大会では、1500m準決勝で4分05秒79のタイムで全体の15位に終わり決勝進出を逃している。続く5000mでは15分00秒21で14位に入り決勝進出を果たしたが、決勝では12位だった。田中は、同大会で自身3つ目の種目、女子800mにも出場しており、5000m予選の翌日に女子800m予選を走っていたため疲労の心配があったのも事実だ。

今大会では、1500mと5000mに絞っての出場予定だ。今年6月の日本選手権では両種目で史上初の2冠2連覇を果たしている。7月のアジア陸上競技選手権では1500mに出場し優勝した。

女子1500m日本記録保持者である田中のワールドランキングは現在27位。女子5000mでは、2019年世界陸上ドーハ大会でマークした日本歴代3位の記録(14分53秒60)を持ち同22位。今大会では、女子1500mのパリ2024参加標準記録4分02秒50と、5000m の日本新記録となる同14分52秒00を何としても上回りたいところだろう。

3度目の世界陸上へのチャレンジ。8月上旬には、持久系アスリートが高地トレーニングを行う国内拠点のひとつ、湯の丸高原(標高1735m/長野県東御市)で最終調整を行っている。

「どんな状態でも、全力を尽くすスタンスは変えずにやっていきたい」と意気込む。東京2020以降、田中への注目度が高まる中、そのプレッシャーを精神面で克服することができたらより高みが見えてくるに違いない。

女子1500mは、次の日程で行われる。

  • 予選:8月19日(土)13:15(日本時間 20:15)~
  • 準決勝:8月20日(日)17:05(日本時間 24:05)~
  • 決勝:8月22日(火)21:30(日本時間 翌4:30)~

また、女子5000mは次の日程となっている。

  • 予選:8月23日(水)11:10(日本時間 18:10)~
  • 決勝:8月26日(土)20:50(日本時間 翌3:50)~

寺田明日香:女子100mハードル

過去に2度出場した世界陸上(2009年ベルリン大会、2019年ドーハ大会)に加え、3度目となる今大会に9歳児の母であり33歳のベテラン、寺田明日香は挑もうとしている。

寺田は、日本女子100mハードル界のパイオニア的な存在だ。2019年に日本陸上競技史上初の女子100mハードルで12秒台突入となる12秒97を記録。東京2020では日本人選手として21年ぶりに女子100mハードルで準決勝進出を果たした。準決勝では6着となり決勝進出にはならなかったが、日本女子100mハードルのさらなるレベルアップのけん引役となった。

1年間の休養期間を経て今年5月には東京2020直前に出した自己ベスト(当時の日本記録12秒87)を更新し、12秒86のタイムで日本歴代2位となった。6月の日本選手権決勝では、4名が12秒台を出したハイレベルなレースを制し見事5度目の優勝を果たしている。7月のアジア陸上競技選手権でも準優勝して好成績を残し、ワールドランキングのスコアを重ね今大会の代表権を獲得した。

寺田の現在のワールドランキングは29位。今大会でパリ2024の参加標準記録である12秒77を突破したいと意気込む。ハイレベルなレースが予想される世界陸上では、準決勝、決勝と駒を進めるごとにその可能性が高まってくるだろう。

女子100mハードルは、次の日程で行われる。

  • 予選:8月22日(火)18:40(日本時間 翌1:40)~
  • 準決勝:8月23日(水)20:40(日本時間 翌3:40)~
  • 決勝:8月24日(木)21:25(日本時間 翌4:25)~

北口榛花:女子やり投げ

女子やり投げワールドランキングで現在、堂々の1位の北口榛花。2022年7月の世界陸上オレゴン大会で日本女子フィールド種目史上初の銅メダル(記録63m27)を獲得。陸上競技の最高峰リーグ戦と言われるダイヤモンドリーグ(DL)で、今季2勝を達成し、今大会の金メダル候補の筆頭に挙げられる。

今年、6月2日の日本選手権では、59m92という記録で2位に終わり3連覇を逃したものの、同月9日のDLパリ大会で65m09の今季自己最高、同世界2位の好記録をマークし優勝を果たした。

やり投げ大国チェコのデービッド・セケラクコーチの指導を受け、トレーニングの見直しや肉体改造に取り組み、その後、調子を上げてくる北口。6月30日のDLスイス・ローザンヌ大会で強豪ひしめく中、2位(63m34)となっている。

さらに、7月16日のDLポーランド・シレジア大会で、北口は67m04を投げ、自身の日本記録(66m00)を4年ぶりに1m以上大きく更新し、今季世界最高をマークして優勝。この記録は、パリ2024の参加標準記録(64m00)を上回っていることから、今大会でメダル獲得を達成すれば代表選手選考の内定を得ることができる。

また、67m04の日本新記録は、東京2020の金メダル記録の66m34、昨年の世界陸上オレゴン大会の優勝記録66m91をも上回る。北口自身「メダル獲得と日本記録の更新」を目標として今大会に臨んでいることから、2大会連続メダル獲得への大きな期待がかかる。

東京2020ファイナリストであり、世界陸上3大会連続出場となる北口。日本代表選手団の女子主将として日本陸上競技界を引っ張る。パリ2024を真っ直ぐ先に見据え、ブダペストの空に特大のアーチが描かれることだろう。

女子やり投は、次の日程で行われる。

  • 予選A:8月23日(水)10:20(日本時間 17:20)~
  • 予選B:8月23日(水)11:55(日本時間 18:55)~
  • 決勝:8月25日(金)20:20(日本時間 翌3:20)~

松田瑞生:女子マラソン

「競技人生、最後の挑戦」と掲げ今大会に挑戦するのは、昨年の世界陸上オレゴン大会で9位(2時間23分49秒)に入り、同大会女子マラソンで日本人最高位となった松田瑞生(みずき)だ。現在ワールドランキング42位の松田は、今年3月の東京マラソンで6位(日本人1位/2時間21分44秒)となり、ジャパンマラソンチャンピオンシップシリーズのシリーズⅡ(2021年11月~2023年3月)でチャンピオンに輝き今大会への出場権を得ている。

「なにわの腹筋女王」と異名を取る松田だが、その鍛え上げられた筋肉以上に今大会へ臨む決意は固いかもしれない。

昨年1月の大阪国際女子マラソンで大会新記録となる自己ベスト(2時間20分52秒)で優勝。この結果により、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ/パリ2024女子マラソン日本代表選考レース)への出場権を獲得している。今大会で3度目の世界陸上(初出場となった2017年ロンドン大会では女子10000mに出場)となるが、パリ2024出場権をかけたMGC(10月15日)までちょうど50日しか間がなく、ブダペスト大会後の調整が大きな課題となるだろう。

しかし、松田は「最後の挑戦」と位置づけ両レースでベストを尽くすことを誓ったその先にパリ2024オリンピックをしっかりと見据える。

女子マラソンは、ブダペスト中心部北東にある英雄広場をスタートした後、ユネスコ世界遺産に認定されている美しいブダペストの市街地を巡る1周約10kmを4周回し、英雄広場のフィニッシュに戻るコースとなる。8月26日(土)7時(日本時間 14時)、英雄広場に号砲が鳴り響き、女子マラソンが始まる。

ここでは注目の女子日本代表選手5名を紹介したが、その他にも23名の女子代表選手が19日から始まる今大会に望みをかける。決勝進出、入賞、メダル獲得、パリ2024出場権獲得など多くの願いとともに女子日本代表選手28名が挑むことになる。彼女たちの9日間の熱戦に注目したい。

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