主人公になってみたいーー。
平昌2018で銀メダルを獲得した**宇野昌磨**(23)は、世界選手権(2017年、2018年)でも銀メダルに2度輝くなど、自身のフィギュアスケート人生において主要な国際大会で10個の銀メダルを手にしている。
全日本選手権での優勝は4度。そんな宇野でも、オリンピック2連覇中の**羽生結弦や世界選手権を3度制しているネイサン・チェン**(米国)がいる世代の一員であることを本人は認識している。
しかし、宇野には金色に輝く夢がある。
10月に行われたグランプリシリーズ初戦・スケートアメリカを終えた宇野は、Olympics.comのインタビューで「1シーズンでいいから、自分が『主人公』というか、スケートを引っ張る存在になりたい」と口にした。そう、この大会でも銀メダルだったのだ。
「今大会も2位でした。僕はどのシーズンも2位なんですよ。1位になることはほぼない」。自分の成績をこう振り返った宇野は、「1度なってみたら、もっと欲が出るかもしれないですけど」と前置きした上で、スケート界を牽引する感覚を一度味わってみたいという胸の内を明かす。
まだ足りないものがある
東京では11月12〜14日の日程でグランプリシリーズのNHK杯が予定され、宇野は日本のファンの前に姿を現す(羽生は右足関節靭帯損傷のため欠場)。この大会で、宇野は初戦で敗北を喫した**ヴィンセント・ジョウ(米国)と顔を合わせる一方、北京2022**に向けて調子を上げていく。
「(初戦に挑む前の気持ちとして)自分の今年の調子であれば表彰台に乗ることができるんじゃないかな、という意識はあったんですけれども、改めてそれを実現することができ、嬉しいです。ただ、世界のトップ、世界一を争う選手を目指すにあたっては、まだ足りないものがあるんじゃないかなと思いました」
日本は男子シングルのオリンピック出場権を3枠獲得しており、代表権争いは羽生、宇野、世界選手権で銀メダルを獲得した鍵山優真に加え、注目を集める日本男子フィギュアのメンバー入りを目指す多くの挑戦者らの間で繰り広げられる。
ランビエールの影響
宇野はこの5年間、男子スケーターのエリート・グループのひとりとして存在感を発揮してきた。しかし、2019年11月に開催されたグランプリシリーズ第3戦のフランス国際で、当時21歳だった彼は8位という散々な結果で大会を終え、引退の文字が脳裏をよぎった。
「フランス大会でスケートを真剣に辞めようかって考えたときに、(僕には)まじで何もないなって思いました。他のことを今から始めるんだったらスケートをもっかい頑張った方が楽だなって思って。ほんとにそれくらい僕はスケートしかない」
大会の数週間後に宇野の専任コーチとなったのは、同じく銀メダリスト(トリノ2006)の**ステファン・ランビエール**・コーチだ。このふたりの関係が、宇野がそれまで感じていなかった、あるいは不安定とも言えた彼の気持ちを奮い立たせることとなる。
「(ステファンコーチに師事する前は)僕はあと少しでスケートを引退する、と思っていました」。しかし今は、「しばらく辞めるつもりはなく、もっと上を目指したい。ステファンの生徒のひとりとして、大きく名前があがるような、少しでもステファンのためになれたらなと考えています」と、気持ちに迷いはない。
ランビエール・コーチは今年、宇野の代名詞となるであろうフリーの「ボレロ」の振付を担当した。宇野はオリンピック・シーズンとなる今シーズンの目標をこう語る。「フリープログラムを自分の中で難しいものじゃなくする。当たり前に(演技できるように)することが今年のゴールです」。
プライベートの宇野昌磨:犬、YouTube…
コロナ禍の2020年、宇野はYouTubeチャンネルを立ち上げ、彼の生活の舞台裏や日々の出来事、アスリートやファンとのおしゃべり、そして(時には)愛犬の様子などを紹介する。チャンネル登録者数は7万7,000人を超えるまでに成長した。
開設のきっかけはパンデミックの影響で行動が制限されたことや、宇野がSNSアカウントを持っていなかったことにある。宇野自身を表現する手段を、宇野と彼のチームで模索する中、最も簡単な方法は映画つまりYouTubeだろうと考えた。これは、日々の激しいトレーニングから気を紛らわせることにもつながる。
宇野は自分の性格について「スケートしているとき以外は何もかも真面目じゃない。スケートに関わることはすべて真面目なつもりなんですけど。それ以外に関しては適当」と笑う。YouTubeチャンネルはリンク外での宇野昌磨の姿を伝えるいい方法だと考える。
一方、愛犬トロ、エマ、バロンは宇野の日常を支える存在だ。動物はストレスを和らげ、物事を深刻に考えない方法を教えてくれる。
「もともと僕は犬、というか動物全部が超苦手で、飼うときにも『無理無理無理無理』って思ってたけど、『自分の子は違う』って言われて、ほんとにそうだなってわかりました。今は結構可愛いです。どんだけ落ち込んでても、普通に(寄って)来るし、なんか可愛い。それに尽きる」
オリンピックの最初の記憶とインスピレーション
宇野にとって最初のオリンピックの思い出は、バンクーバー2010の男子シングルで銅メダルを獲得した**高橋大輔**の演技を目にしたことだ。
そんな宇野にとって、自身のキャリアに影響を与えた人物は高橋を含めたくさんいるが、その中でも特別な存在がいる。
その人物とは、宇野自身。
「今まで色んな人の意見を聞いてはきたけど、全部自分の中でくだいて、全部自分のものにしてきました。結局僕は昔から他人よりも自分だけを信じる部分が強くて、全部自分でっていうのがあります」
宇野はまさに、映画の主人公を演じているようだ。