パリに向けて再スタート! 競泳・代表選手選考会を振り返る

執筆者 Chiaki Nishimura
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Reona Aoki (L) and Satomi Suzuki celebrates qualifying for the Paris 2024 Olympic Games after competing in the Women's 100m Breaststroke Final
写真: 2024 Getty Images

3月17日の幕開けから最終日の24日まで、スポーツファンの胸を熱くした「競泳国際大会日本代表選考会」。

最初のパリ2024オリンピック競泳日本代表内定者が決まった2日目には、ベテラン・瀬戸大也が本命種目といえる男子400m個人メドレーで代表内定を逃すという波乱に見舞われた一方で、同種目、女子100mバタフライで高校生の松下知之、平井瑞希がそれぞれ優勝して内定を決め、池江璃花子もこれに加わるなど、大会序盤から熱いレースが繰り広げられた。

一発勝負のこの舞台で、代表内定を決めた選手がいる一方、派遣標準記録の壁に苦戦した選手もいる。前者はパリへのスタート地点に立ち、後者はパリへの旅にピリオドを打った。

7月26日に開会式を迎えるパリオリンピックまであと4ヶ月。ここでは8日間にわたった競泳国際大会日本代表選考会を振り返ってみたい。

なお、オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。

池江璃花子、3大会連続の代表内定「高校生ぶりに、レースが楽しみでワクワク」

大会2日目の3月18日に行われた女子100mバタフライで、池江璃花子が2位で派遣記録も突破し、優勝した17歳の平井瑞希とともにパリ2024オリンピックの日本代表に内定した。

2019年に白血病と診断され、闘病生活を経て東京2020オリンピック前にプールに戻ってきた池江は、同大会ではリレー種目のみに出場。個人種目での出場内定は16歳だったリオ2016オリンピック以来となり、自身3度目のオリンピック日本代表内定となった。池江は自身のソーシャルメディアアカウントで「やっと15歳の自分を超えられた。4年かかった」とその喜びを綴った。

池江は、代表内定を狙った50m自由形、100m自由形ではそれぞれで優勝するも派遣記録に届かなかったが、100mバタフライの準決勝では復帰後の自己ベストとなる57秒03を記録。昨年10月から拠点をオーストラリアに移し、有力選手を指導するマイケル・ボール・コーチに師事した池江は、100mバタフライについて「(この先)56秒台はすぐに出ると思うので、自分のレースが楽しみになった。今までは、100mの怖さだったり、そういうものと戦っていた。久しぶりに、高校生ぶりに、レースが楽しみでワクワクして、何秒出るんだろうっていう気持ちになって、 そういう気持ちを取り戻せたっていうことが、自分の中で大きい収穫だったかなと思います」と声を弾ませた。

最年長33歳・鈴木聡美、2大会ぶりの代表内定に歓喜

大会3日目の3月19日に行われた女子100m平泳ぎでは、ロンドン2012オリンピックでメダル3個を首にかけた鈴木聡美が2大会ぶりの代表内定。「諦めないで挑戦する」ことの意味を多くのファンに示した。

1991年1月生まれの鈴木は今年33歳を迎えた。33歳でのオリンピック出場は、リオ2016オリンピックの舞台に32歳で立った松田丈志を上回り、日本において歴代最年長のオリンピック競泳選手となる。鈴木は今回の大会で平泳50m、100m、200mの3冠を達成。オリンピック女子平泳ぎ種目の100mと200mの両方で代表に内定した。

ロンドン2012オリンピックの200m平泳ぎで銀メダル、100m平泳ぎで銅メダル、リレーで銅メダルを獲得した鈴木は、リオ2016では2種目に出場したもののどちらも決勝進出はならず、東京2020では代表の座を掴むことはできなかった。長い競泳人生の中では、競泳を諦めることが頭をよぎったこともあるという。パリ2024オリンピックでの鈴木の活躍に注目が集まる。

なお、今大会で2種目内定を決めたのは鈴木と、松元克央(かつひろ)のふたり。「カツオ」の愛称で知られる松元は、男子100mバタフライ、男子200m自由形で代表に内定した。

また、鈴木と同様、2大会ぶりとなるのは平泳ぎの元世界記録保持者・渡辺一平。東京2020代表選考レースで苦汁を飲まされた渡辺は、今大会の男子200m平泳ぎで優勝(2分6秒94)。2022年世界選手権の同種目で銀メダルを獲得した花車優(はなぐるま・ゆう)とともに代表に内定した。

瀬戸大也、本命逃すも200m個人メドレー死守

大会2日目の400m個人メドレーでまさかの展開に見舞われたのが瀬戸大也だ。

瀬戸はドーハで行われた2024年世界選手権、福岡で行われた2023年世界選手権、さらにはリオ2016オリンピックの400m個人メドレーで銅メダルを獲得していたが、今回の大会では代表内定の条件のひとつ、派遣記録を突破できなかった。

その衝撃は本人だけでなく、ファンの心も暗くしたことだろう。だが、気持ちを切り替えて臨んだ200m個人メドレーでは強さを見せつけて代表内定。「完璧なレースができたかなと思う」とし、「(1分)56秒台にのったので、この時期はこれで勘弁してください。ここからしっかり上げていきます」とコメント。「夏に向けて、ここから自分の得意なゾーンになっていく」と話した瀬戸は、3度目のオリンピックとなるパリ2024では「自己ベストを出してメダル獲得を目指す」ことを誓った。

東京2020メダリストの本多灯、大橋悠依が見せた意地

瀬戸にとって不本意な結果で終わった400m個人メドレーでは、同種目の実力者である本多灯(ほんだ・ともる)が予選で敗退するなどの波乱も見られ、「一発勝負」の厳しさを選手たちに突きつけた。

本多はアジア競技大会の400m個人メドレーで金メダルを獲得するなどの実力を持つが、18日午前中に行われた予選では10位に沈み、敗退した。2月に行われた世界選手権の直前に足首を負傷していた本多は、本来のパフォーマンスを発揮するための練習ができていなかったものの、200mバタフライでは意地を見せる。東京2020で銀メダル、2024年の世界選手権では金メダルを獲得した「本命」の200mバタフライでは派遣記録を突破し、2位で代表に内定した(優勝は寺門弦輝。オリンピック初代表内定)。

一方、東京2020オリンピックで個人メドレー2冠を達成した大橋悠依(ゆい)は、今大会の400m個人メドレーで高校生の成田実生(みお)や谷川亜華葉(あげは)に及ばず4位で代表内定を逃したものの、東京オリンピック以降、本命種目として取り組んできた200mでは派遣記録を突破して優勝。パリ2024日本代表に内定した。

「(代表内定に)決まっていく人もいれば、努力していた人が間近で代表落ちしていくのを見て、すごく苦しかったです。自分もそういう風になるかもしれない立場でもあって、最後の最後に全部自分の力を出したと思って終われるか、それとも自滅して自分のチャンスを逃すのか、どういう風に終わりたいかと思ったときに、やっぱり自分のできる全部を出し切りたいと思って過ごしてきました」と語った。

日本競泳界を長年牽引してきた入江陵介(右)は、男子200m背泳ぎ決勝後、パリ2024日本代表に内定した19歳の竹原秀一の勝利を称えた=2024年3月22日、競泳国際大会代表選考会(東京)

写真: 2024 Getty Images

派遣標準記録という壁

大橋が話すように、代表内定をつかんだ選手もいれば、思い通りの結果を得られなかった選手もいる。

設定された派遣標準記録は、過去の大会の予選または準決勝で10位以内に入る記録をもとに設けられている。一発勝負の舞台でその壁を越えるのは簡単ではない。

瀬戸や本多らが苦戦を強いられただけでなく、競泳界の顔として長年日本チームを盛り上げてきた34歳の入江陵介は、男子100m背泳ぎで内定条件のひとつとなった「2位以内」でフィニッシュしたものの、もうひとつの条件「派遣標準記録を突破」できなかった。200m背泳ぎでも3位となり、5大会連続のオリンピック出場は絶望的となった。そんな入江はレース後、男子200m背泳ぎで代表内定を決めた19歳の竹原秀一(ひでかず)を笑顔で称えた。

また3大会連続のオリンピック出場を目指した男子自由形の塩浦慎理(しおうら・しんり)や、ロンドン2012からの4大会連続出場を目指した渡部香生子(わたなべ・かなこ)もそれぞれ派遣記録を突破できなかった。

代表に内定した選手たちは敗れた選手たちの思いを味方につけ、パリ2024を目指す。直近の世界選手権2大会において日本競泳チームは世界の舞台で影を潜めているが、ここからが正念場といえる。瀬戸が「夏は任せてください」と宣言したように、選手たちがパリ2024でさらに飛躍する姿を楽しみにしたい。