三浦璃来・木原龍一 : 魔法のように美しく

 "りくりゅう"こと、破竹の勢いで成長を遂げるペア日本代表の三浦璃来と木原龍一。フィギュアスケートの新たな才能の誕生に、世界が北京2022の銀盤に熱視線を注いでいる。結成わずか2年半のふたりが辿り着いた冬のオリンピックの夢路を追いかける

1 執筆者 Yukifumi Tanaka/田中幸文
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(2022 Getty Images)

**北京2022**を含む今シーズン(2021/2022)は、アスリートたちの様々なドラマが繰り広げられてきた。

そんな中、今、世界の耳目を集めるふたりの日本人ペアがいる。**三浦璃来木原龍一**だ。

"りくりゅう"の愛称で親しまれているふたりは、ペアを組んでわずか2年半も経っていないというのに、息のあったダイナミックな演技で、日本のみならず世界のファンを唸らせている。

特に、2021年10月にアメリカ・ラスベガスで行なわれたグランプリ(GP)シリーズ第1戦では、いきなりの銀メダルを獲得。つづく、日本の氷上で舞った第4戦・NHK杯では3位となり、GP表彰台に連続で上り、その破竹の勢いで成長するふたりの強さを見せつけている。

勢いの止まらない日本の新たな才能の急成長を遂げる姿を追いかけた。

手探りで戸惑いながら

もともと、シングルスケーターとして活動していた木原が、ペア転向を決めたのが20歳の時、2013年1月の出来事だ。ソチ2014までわずか1年足らずというなかで、2012年世界選手権で銅メダルに輝いた高橋成美とパートナーを組むこととなった。

シングルとは違って、ペアに必要な技術やエレメンツは全く異なる。アクロバティックな技はもちろんのこと、なにより、アイスリンクの上で、ひとりではなく、パートナーと息ぴったりのコンビネーションが必要になる。「やったことないものばかりだったので、最初は難しかった」と、戸惑いも多く、手探りの日々だったと、木原はのちに語っている。

それでも、1992年生まれ同士のペアは、GPロシア杯やNHK杯などの国際大会を経験し、着実に成長しながら、ペア日本代表として、目標としていたソチオリンピック出場を叶えた。そして、結成わずか1年足らずのふたりは、ペア個人戦だけでなく、ソチ2014で初めて実施された団体戦にも出場、堂々とした演技を披露したのだ。

「1年前に結成したことを考えると、正直、ここまで来られたのはよかったです 」

- 木原龍一

(2014 Getty Images)

ペアスケーターとしての活動を続けていた木原は、2015年6月、シングルスケーターだった須﨑海羽との結成を発表する。

その年末に行なわれた全日本選手権では、3組中3位の成績だった。しかし、その翌年(2016)は、4組中2位へ浮上。さらに、平昌2018の選考がかかった2017年末の選手権では、ショートプログラム(SP)およびフリースケーティング(FS)両方で1位となり、結成わずか2年半で、完全優勝を達成して、日本一のペアとなった。そして、その成績をもって、平昌オリンピック代表に選出されたのだ。

平昌2018では、団体戦・ペア個人戦の両方に出場。ペア個人戦では、団体戦でマークしたパーソナルベストをさらに上回る点数を叩き出す。しかも、木原は、指や手首を怪我していたにもかかわらず、それを少しも感じさせない演技で、オリンピック期間中でも、その進化を止めることはなかった。

「(プログラムの中で)今までの辛いことも表現したかったので、うまくできたんじゃないかなと思います」

- 木原龍一

(2018 Getty Images)

自力で掴んだ切符

2019年8月、木原は、3度目のオリンピックとなる北京2022を目指し、全日本ジュニア選手権ペア種目で3連覇を果たしていた、三浦璃来との結成を発表した。

9歳の年齢差のあるふたりが、オリンピックへの夢路を歩み始めた矢先、COVID-19が世界を襲い、出場を予定していた世界選手権が中止になるなど、描いた道筋が奪われていく。

しかし、ふたりは、この逆境に挫けることはなかった。

りくりゅうは、結成からすぐに拠点をカナダへ移し、ブルーノ・マルコットと、彼の妻であり平昌2018で団体金メダル、ペア銅メダルに輝いたメーガン・デュハメルの夫婦コーチに師事し、日本には戻らず、猛特訓を続けていた。

そして2021年3月、久々の出場となる国際大会は、北京2022の出場枠のかかった世界選手権だった。総合成績で10位となり、三浦と木原は、自分たちの力で北京2022ペア出場枠「1」を日本へもたらしたのだ。ちなみに、この大会の時、三浦は口の中を怪我しており、治療器具を口にはめたまま滑っていたというから、さらに驚きだ。

これは単なる序章で、ふたりの快進撃はここから始まる。

見逃せないふたり

2021年春の世界選手権後、入国規制によりカナダへ戻ることができなかった三浦と木原は、日本でリモートの指導を受けながら、オリンピックシーズンの準備を進めていた。

そして、東京2020が閉幕し、夏の暑さも落ち着く頃、コーチの待つアイスリンクへ、そして、今シーズン最初の戦いの場所となるカナダへと飛び立った。

2021年9月、オータムクラシックインターナショナル(カナダ・ピエールフォン)に出場し、SP・FSともに1位のスコアをマークして、完全優勝を飾る。ISU(国際スケート連盟)公認の国際大会において、日本代表ペアが金メダルを獲得するのは初めてのことだった。

そして、北京2022を控えたGPシリーズ初戦のアメリカ・ラスベガス。

りくりゅうは、唯一のアジア人ペアとして参加し、SPで72.63のスコアを出し、暫定3位につける。つづくFSでは135.57をマークして、総合成績208.20を獲得。並み居る欧米勢をおさえて最終2位となり、「ちょっと出来過ぎ」だという銀メダルを、笑顔で首にかけた。

GPシリーズにおけるペア種目で、日本代表が表彰台に立つのは、2011年以来10年ぶり、また39年の歴史を誇るGPアメリカ戦で日本人ペアが表彰台に上がるのは初の快挙となった。

さらに、その3週間後、GPシリーズ第4戦のNHK杯では、SPで73.98とパーソナルベストを更新、FSでも135.44をマークして、前回スコアを上回る209.42を記録、総合3位となって、2大会連続でGP表彰台に上った。そして、会場に詰めかけた多くのホームファンとその喜びを分かち合った。

りくりゅうの目を瞠る急成長は、日本のみならず海外からの注目も集めている。特に、ふたりの演技終了後のスマイルに、多くの海外ファンやメディアが、心を奪われているのだ。

第1戦のFSでは、スロウ3ルッツに失敗して、三浦が壁に激突してしまうアクシデントがあったのだが、すぐに立ち上がり、まるで何事もなかったかのように、次のエレメンツのサイドバイサイドジャンプを華麗に成功させた。CBC(カナダ放送協会)は、ふたりのリカバリーが「目を疑うほどに」素晴らしく、とにかく楽しそうにスケートをする日本人ペアの笑顔がとても印象的で、「確実に見逃せないふたり」と評した。

また、木原とともに、アメリカでのトレーニング経験をもつエラッジ・バルデ(カナダ)は、第1戦直後のOlympics.comのインタビューで、りくりゅうの演技について「魔法のようで美しかった」と振り返り、オリンピックの舞台で戦うふたりの姿を楽しみにしていると語った。

昨日を越えて、今日もいい日に

そして、ふたりは今、北京2022の日本代表に選出された。

「私にとってのはじめてのオリンピック。辛いこともうれしかったことも共に乗り越えてきたチームと、この大きな舞台にたてること、本当にうれしく思います。今シーズンは結果ではなく過程を大切にしてきたので、オリンピックでも変わらず『今日もいい1日だった』と思えるよう精いっぱい頑張りたいと思います」

- 三浦璃来(北京2022に向けたコメント・日本オリンピック委員会より)

「過去2回のオリンピックでは、自分に自信を持って試合に出場することができませんでした。今回の北京オリンピックでは、自分に自信を持ち、試合に出場したいと思います。また、シーズン前半戦同様『過去の自分達に勝つ』をテーマに走り抜けたいと思います」

- 木原龍一(同上)

あの数分という短い演技時間の中だけでも、ふたりの進化を感じてしまう。

昨日を越えて、今日もいい日になるように、ふたりの笑顔は、北京のアイスリンクでキラキラと輝いている。

(2022 Getty Images)

北京2022フィギュアスケートのペア・ショートプログラムは2月18日19:30(北京時間18:30)、フリースケーティングは2月19日20:00(北京時間19:00)に実施される。

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