羽生結弦の挑戦を解説、4回転アクセル

フィギュアスケートの大会において、まだ誰も成功したことのないジャンプ、4回転アクセル。オリンピック2大会連続で金メダルを手にしている羽生結弦が、北京大会で新たな歴史を刻むべく4回転アクセルに挑む。

1 執筆者 Nick McCarvel
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(2021 Getty Images)

**北京2022冬季オリンピック**で、私たちはフィギュアスケートの新たな歴史が刻まれる瞬間を目にすることになるのだろうか。

いろんな意味において、そうなることが予想される。世界最高得点の更新からメダル獲得の瞬間まで、フィギュアスケートが再びオリンピックの舞台を席巻する。中でも気になるのが、4回転アクセル(クワッドアクセル)。オリンピックを含むあらゆる大会で、完璧に決めた選手はまだいない。それが今回のオリンピックで見られるのか?

簡単にいうならば、可能ということだ。なぜなら、オリンピック男子シングルで2連覇中の**羽生結弦**が、北京でその目標を掲げているからにほかならない。

2021年12月に6度目の全日本選手権タイトルを手にした羽生は、大会後、「自分がこの北京五輪というものを目指す覚悟を決めた背景には、やはり4回転半を決めたいという思いが一番強くある」と語っている。

羽生にとって、なぜこのジャンプが重要なのか。なぜそこまで難しいのだろうか。 4回転アクセルの歴史的な意味を探ってみたい。

誰も成功したことのない4回転アクセル

フィギュアスケートにおいてアクセルジャンプは最も難しいジャンプだ。その理由は回転数にあり、他のジャンプとは異なり、唯一、前向きに踏み切り後ろ向きに着氷する。ゆえに、例えばシングルアクセルの場合は1回転半、ダブルアクセルの場合は2回転半するなど、半回転多く回ることになる。

一方で、ファンにとっては見極めが最も簡単なジャンプだ。もしスケーターが前向きで、フリーレッグを振り上げるようにジャンプすれば、それがアクセルである。トウ(つま先)を突いて跳び上がるジャンプではないため、エッジジャンプのひとつとしても知られている。

現在、男子トップスケーターらはトリプルアクセルを跳び、女子やペアではダブルアクセルが一般的だ。世界記録保持者で金メダル有力候補のカミラ・ワリエワ(ROC)など、世界トップクラスの女子選手らはトリプルアクセルを演技に組み込む。

長洲未来(アメリカ合衆国)が平昌2018の団体戦でトリプルアクセルを成功させたことは記憶に新しいが、オリンピックで初めて成功させたのは、羽生のコーチを務める**ブライアン・オーサーサラエボ1984のことである。初めてオリンピックで成功させた女子選手は伊藤みどり**で、アルベールビル1992にさかのぼる。

羽生「4回転半を成功させつつ、その上で優勝」

現在27歳になる羽生が日本人フィギュアスケーターとして初めて金メダルを獲得したのは、19歳で出場したソチ2014のときである。4年後の平昌には、ディック・バトン(1928年、1952年に連続金メダル)以来、初めて2大会連続制覇を成し遂げた。

そして1920年以来、つまり過去100年以上にわたって3大会連続で金メダルを獲得したフィギュアスケーターはいない。

ネイサン・チェン(米国)、宇野昌磨鍵山優真(日本)、ヴィンセント・ジョウ(米国)らと同様に、羽生が表彰台のトップを目指すのは間違いないが、彼は自分の意思をはっきりと宣言している。最優先事項に掲げるのは、4回転アクセルだということ。

前述の会見で、羽生は「もちろん1位を目指してやっていきたいと思います」とコメントし、「ただ、自分の中ではこのままでは勝てないのは分かっています。そして、もちろん4回転半というものへのこだわりを捨てて勝ちにいくのであれば、他の選択肢もいろいろあるとは思います。ただ、自分がこの北京五輪というものを目指す覚悟を決めた背景には、やはり4回転半を決めたいという思いが一番強くあるので、4回転半をしっかりと成功させつつ、その上で優勝を目指して頑張っていきたいと思います」と宣言した。

羽生が口にした「このままでは勝てないのは分かっています」という言葉は、プログラムの内容に応じて付けられる技術点を示している。その難易度の高さから、4回転アクセルは基礎点が高めで、出来栄え点(GOE: Grade of Execution)が加算されれば高得点が見込める。

羽生は12月の全日本選手権のフリープログラムで、4回転アクセルに挑戦。転倒することなく着氷したものの、両足での着氷となり、回転不足によりダウングレードの判定となった。つまり、羽生が試みたクワッドアクセルは、1回転少ないトリプルアクセルの基礎点が与えられ、出来栄え点で減点されたのだった。

歴史に残るジャンプ

羽生は新型コロナウイルスが猛威をふるい始めた2020年3月に、練習の拠点としていたトロントから拠点を日本に移し、4回転アクセルを中心に練習を重ねてきた。オーサー・コーチはこの2年間、映像を通して羽生を指導しており、自分の教え子が北京で歴史を作る可能性があると考えている。

11月に行われたOlympics.comインタビューで、オーサー・コーチは「ゆづは、常に何かに挑戦している」とし、「4回転アクセルは、まだ誰も成し遂げていないことのひとつなので、すごいことだと思います。誰かがやってくれるでしょう。そして、それが彼であることを心から願っています」と語った。

オーサー・コーチは、羽生が追い求める歴史的偉業を自分の歩んだ歴史と重ね合わせる。フィギュアスケートは常に進化しており、1980年代前半、選手らはトリプルアクセルに挑んでいたのだ。

オーサー・コーチは、「実に面白いもので、私は最初にトリプルアクセルを跳んだスケーターのひとりです」と話し、「今、彼は4回転アクセルをやっていますが、彼のトリプルアクセルの美しさはご存知の通りです。彼は高く美しく跳び上がります。しかし、4回転アクセルを成功させるためには、回転しながら跳び上がらなければなりません。単に高く跳ぶのではなく、周りながら跳ぶのです。私たちはそういう話し合いをしてきました。足の使い方を理解して、いかに速く締めることができるかを考えています」。

さらに、「4回転アクセルには少し違ったテクニックも必要ですが、彼なら何とかできる。彼がこれを達成することを願っています。それが彼が掲げる最重要事項ですからね」と付け加えた。

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