ブレイキンISSIN独占インタビュー「人の記憶に一番刻み込むダンス」でパリへ

1 執筆者 Risa Bellino
「マイナビJDSF ブレイキン ジャパンオープン2022」Bボーイ準決勝:ISSIN vs NORI
(2022 Getty Images)

ブレイクダンスの名で知られる「ブレイキン」。若者のストリート文化に起源を持つ対戦型ダンススポーツとして発展し、2018年のブエノスアイレスユースオリンピックで初登場した後、いよいよ今年、パリ2024でオリンピック新競技として導入される。

ここ数年で急成長を見せ、“ブレイキンの新しい顔”として世界から注目を集める岡山出身の若きブレイカー、18歳のISSINこと菱川一心(ひしかわ・いっしん)。2月の全日本ブレイキン選手権で初タイトルを獲得した彼が思い描くパリへの道について、独占インタビューでOlympics.comに語った。

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全日本はゴールでなく、ここから

「正直次の日くらいからは、余韻はないですかね。自分的にはそれより上のOQSだったりオリンピックだったりを目指しているので」

初の全日本チャンピオンの座を掴んだ後も、その勝利に浸ることはなかった。世界のブレイキンシーンを引っ張っているShigekixこと半井重幸(なからい・しげゆき)との直接対決に勝利したISSINは、まっすぐ前を見据える。

それもそのはず、日本王者として気持ちを新たに翌週福岡で初開催された日米対抗戦「ブレイキン・ワールドマッチ2024」に挑むが、OQSで戦うことになるだろうランキング5位のJeffroことJeffrey Louisと対戦して負けを喫したのだ。「めちゃめちゃ悔しいけど、ポジティブに考えたらこのタイミングでこれがあってよかった」と口を一文字にして頷いた。

いつも背中を追っていた憧れの存在で、目標とするShigekixを初めて超えた全日本においては、「ぼくもシゲキくん(重幸くん)に追いつくことができるようになったな、というところは自信はついたんですけど、スタイルの違いだったりで、シゲキくんを倒したからといってほかのメンバーを余裕で倒せるのかと言われたら全然違うので」と振り返り、「正直シゲキくんを倒したいって気持ちはめっちゃあったんですけど、それはシゲキくんとのバトルのこと。シゲキくんはもっと上の舞台で待ってるので、(その舞台で対戦する相手を)必ず全員倒してやりたいなっていう感じです。最終的には俺が全部取るぞ、と考えています」と笑顔で野心を語った。

パリメダル候補と言われるShigekixを破り、「自信をもって強いと思っていたムーブ(技)で倒すことができたし、その動きをもっとレベルアップさせることができると思ったので。この技とかネタをもっとレベルアップさせたら、もう誰も(自分に)勝てないんじゃないか?という、自信はつきました」と、手ごたえを語る。

その自信を得て、ISSINが次に向かう先は上海だ。

ブレイキンでは、オリンピック最終予選となるオリンピック予選シリーズ(OQS:5月上海、6月ブダペスト)が控えている。日本男子ではすでに、ブエノスアイレス2018ユースオリンピック銅メダリストのShigekixがオリンピック出場枠を獲得しており、各国最大2枠となる出場枠の残り1枠を掴むため、ISSINは最後の大会に挑む(※)。

「OQSに勝つぞ!」「絶対決めてやるぞ!」

オリンピック出場をかけた最終予選は、これまでの大会とは心構えが異なると日本王者は続ける。

「人の記憶に一番刻み込むダンスをして、勝ち負けじゃなくて、見てる人だったり、ジャッジだったり、相手を驚かせたい。当日はたぶん勝敗のことは全く考えていないと思うんですけど、誰よりも良い踊りが出来たときに、おのずと結果が付いてくると思ってるので。この残り少ない2か月ぐらいの練習期間をどれだけ自分のプラスに、成長する期間にできるかって、すごい意識してますね」

※オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。

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自分の最高の踊り、『爆裂』という自分のスタイル

「相手がどれだけ長いムーブをしてきても、自分の持ちネタの一発で会場の空気が変わるような技をバンバンバーンとやって、僕の空気に全部変えることがすごい好きなんです。僕が一回踊ることで会場の空気が変わったりとか、勝敗が一気に変わるところを見てほしいなと思うし、自分もそれを意識していて。やっぱり自分もそういうのがかっこいいと思っていたので、『爆裂』していくところをみんなに見てもらいたいなと思ってます」

その『爆裂』は、ISSIN自身も自分の強みだと認める。

「今年で19歳になるんですけど、自分の若い、今の年でしかできないダンススタイル。変に大人ぶったダンスをしようとするんじゃなくて、今全力でやった時の18歳のISSINの本気のダンスっていうのをしたいなと思っているので。今の歳にしかできないイコール "若さという力を爆発力にかえて戦っていく" のが僕の中での答えだと思ってます」

彼の独創的なムーブのインスピレーションはどこから湧いてくるのか?

「ネタとかって、今日12時間考えるぞって決めたからといってできるわけじゃなくて、その日の頭がさえているタイミングだったり、僕は何か不意にいきなりパッと思いついたりするので、そのアイデアが出てくるタイミングを逃したくない。常にダンスのことを考えて、頭の中でいろんなイメージをして、ああいう技をこう飛んだら面白いな、とか常にいろんなことを考えてます」。日常生活でもアンテナを張り、全てからインスピレーションを得る準備を怠らない。

「ムーブのネタを練習するといろんな失敗があるんですけど、人の失敗を見てインスピレーションを受けることがすごく多いです。その人も失敗するというのは、予期せぬことが起きてる。僕はその予期せぬことを取り入れることがすごい好きなんです。だから、その人の失敗だったり、それこそ自分の練習動画とか常に3時間ぐらい撮ってるんですけど、全部見返して、少しでもいい動きがあったらそこをピックアップして編集して、何か新しい動きを作るっていうのを結構やってますね」

少しのヒントも逃さない彼の貪欲な探求心が、そのスタイルを作り上げている。それは、意外なものからであったりもする。

「僕は、犬からインスピレーションを受けたネタがあって。尻尾を振っているのを足で見立てて、体で前に走って、最後に嚙むっていうのがあるんですけど。何でインスピレーションが沸く、というよりかは、本当にどこからそれがくるのかわからない。そういう部分を逃さないように、常にいろんなものをダンスに見立ててます」。無限大の可能性を秘めたダンススタイルの追求が、彼の原動力なのだ。

「Red Bull BC One World Final 」BボーイISSIN:2022年11月12日アメリカ・ニューヨーク

(2022 Handout)

「常に何が起こるかわからないワクワク感がずっとある」それがブレイキン、と語るISSIN。生き生きした表情で、ブレイキンとの出会いが自分の人生をどう変えてきたか、続けた。

始めたときからずっと楽しい

「もともと人と違うことをやったりとか、みんなに見てもらうっていうのがすごい好きだったので。ブレイキンやってるっていうことは、すごい自分の大好きなものをできてるんだなっていうのはあります。他の競技とかはしたことがないのでわからないですけど、自分の中ではブレイクダンスが一番楽しいと思っていて。世界中の人とバトルして、国境を越えて人種関係なく仲良くなって、友達が作れたりとか。英語を喋れなくてもバトルした後は気づいたら仲良くなって、会話なんかいらないとか。僕はブレイクダンスがめちゃくちゃかっこいいと思ってるので、それをさらに僕がダンスしてどうカッコよくするかだったりとかを考えてます」。自分が魅了されたブレイキンの魅力を、さらに多くの人と分かち合いたいという思いを、熱く語った。

「好きが詰まりまくってるブレイクダンスは、本当に自分の人生を豊かにしてくれた」。彼の人生を変えたブレイキンを、今度は自分の力で世界に発信していくと、野心を抱く。

「マイナビ JDSF ブレイキン ジャパン オープン 2022」3位決定戦:ISSIN対VERO(大韓民国)‐2022年11月19日東京

(2022 Getty Images)

OQSの後に控えるパリオリンピックの舞台で、自分が爆裂するイメージは沸いているか?

「もう沸きまくっていますね」。ISSINは間を置かずに答えた。「それこそ常にバトル前とかって、バトル会場で誰よりもぶちかまして爆裂しているところを想像して自分を奮い立たせてバトルしたりするんで。オリンピックに行って、テレビで見てる人とかが立ち上がるくらいまで、いろんなヤバい踊りをするっていう、自分が会場を自分のものにしているっているイメージはめっちゃしてますね。やっぱりそういうのをイメージすればするほど、よっしゃ練習頑張ろう!と思ったりするので」

パリを代表する場所のひとつ、コンコルド広場に特設されるアリーナ、コンコルド・アーバンパーク で、大歓声のなかバトルが行われるブレイキン。その舞台で彼はどんなパフォーマンスを目指すのか?

「やっぱり爆裂したいですね。オリンピックに出たら僕のことを知らない人がいっぱい見てくれるし。自分の “ISSINスタイル” っていうのも世界中の人の目に焼き付けていきたいなと思ってます」

今年3月に高校を卒業したばかりのブレイキン界の新鋭ISSINが、世界に示す彼のスタイル。その挑戦を見届けよう。

※以下、現地時間と括弧内が日本時間。2024年4月17日時点

オリンピック予選シリーズ 2024日程

OQS上海

5月18日(土)

  • 16:15(17:15) Bボーイ予選:プレセレクション
  • 16:15(17:15) Bガール予選:プレセレクション
  • 20:00(21:00) Bガール予選:プレクオリファイヤー
  • 21:15(21:15) Bボーイ予選:プレクオリファイヤー

5月19日(日)

  • 11:00(12:00) Bガール予選:ラウンドロビン
  • 14:45(15:45) Bボーイ予選:ラウンドロビン
  • 18:30(19:30) Bガール準々決勝
  • 19:00(20:00) Bボーイ準々決勝
  • 19:30(20:30) Bガール準決勝
  • 19:45(20:45) Bボーイ準決勝
  • 20:00(21:00) Bガール決勝
  • 20:15(21:15) Bボーイ決勝

OQSブダペスト

  • 開催期間:6月20日~23日。詳細は近日中発表予定

パリ2024オリンピック日程

8月9日(金)コンコルド・アーバンパーク開催

  • 16:00(23:00) Bガール予選
  • 20:00(翌3:00) Bガール準々決勝 第1試合
  • 20:07(翌3:07) Bガール準々決勝 第2試合
  • 20:14(翌3:14) Bガール準々決勝 第3試合
  • 20:21(翌3:21) Bガール準々決勝 第4試合
  • 20:45(翌3:45) Bガール準決勝 第1試合
  • 20:52(翌3:52) Bガール準決勝 第2試合
  • 21:14(翌4:14) Bガール3位決定戦
  • 21:23(翌4:23) Bガール決勝戦

8月10日(土)コンコルド・アーバンパーク開催

  • 16:00(23:00) Bボーイ予選
  • 20:00(翌3:00) Bボーイ準々決勝 第1試合
  • 20:07(翌3:07) Bボーイ準々決勝 第2試合
  • 20:14(翌3:14) Bボーイ準々決勝 第3試合
  • 20:21(翌3:21) Bボーイ準々決勝 第4試合
  • 20:45(翌3:45) Bボーイ準決勝 第1試合
  • 20:52(翌3:52) Bボーイ準決勝 第2試合
  • 21:14(翌4:14) Bボーイ3位決定戦
  • 21:23(翌4:23) Bボーイ決勝戦

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