※女子フィギュアスケート、およびフィギュアスケート団体戦の成績は全て暫定扱いとなる。
誰にとっても決して簡単ではなかった戦いを、冷静かつ完璧な演技で、17歳のアンナ・シェルバコワ(ROC)が勝ち取った。11カ月前の世界選手権に続いて、北京の氷の上でも光り輝く金メダルを手に入れた。
ショートプログラム(SP)は細部まで精緻なエレメンツを心がけた。今大会5選手がプログラムに組み込んだ3回転アクセルこそ、シェルバコワは跳ばないものの、難度の高いコンビネーションジャンプを得点が1.1倍になる後半にしっかり成功させた。
なにより優美な気品あるパフォーマンスで、演技構成点で高い評価を得た。技術点だけならSP3位の坂本花織の方が0.35点上回ったが、演技構成点では逆にシェルバコワが0.71点リード。トータル80.20点の2位で、フリースケーティング(FS)へ進出する。
FSではさらにプログラムの完成度を増した。ほかのROC女子と比べれば、確かに4回転は「わずか」1種類2本のみかもしれない。ただ全てのジャンプを完璧に飛び、高い加点を確実に手に入れた。細やかで丁寧なステップやスピンは当然のように全てレベル4。FSに進出した25選手中、全エレメンツをノーミス・レベル4でやり遂げたのは、シェルバコワただ1人だけだった。
技術点は100.49点と、自身初の100点超えを成し遂げたのだとしたら、演技構成点も75.26点と抜きんでた得点で評価された。重々しく厳粛な「レクイエム」も、曲調が一転し「巨匠とマルガリータ」の妖しく艶のある雰囲気も、17歳シェルバコワは見事に表現してみせた。もちろんFSの175.75点はパーソナルベスト。SP、FSの合計でも255.95点と、これまでの自己最高を14点以上も更新した。
シェルバコワがいわゆる「トータルパッケージ」で金メダルに輝いたのだとしたら、17歳のアレクサンドラ・トゥルソワ(ROC)は、男子並みの4回転ジャンプを武器に銀メダルをもぎ取った。いまだ公式戦で成功させたことのない3回転アクセルさえも、SPでは恐れずに挑戦した。結果は転倒と回転不足とで、大きく点数を失った。
しかし4位で臨んだFSで、トゥルソワはさらなる挑戦へと突き進む。それが4回転ジャンプ5本を組み入れること。男子でも北京2022では2人しかトライしなかった、まさに超が付くほどの難構成だ。全てを完璧に飛びこなせたわけではなかった。転倒もあった。それでもトゥルソワは勇敢に4種類5本を飛び、技術点で106.16点と凄まじい数字を稼ぎだした。これは男子なら3番目に値する高得点だ。
FSだけなら1位の成績だった。177.13点と自身としては最高の、世界では2人目に高い得点を記録。総合得点は251.73点と、やはり自己ベストを大幅に塗り替えた。トゥルソワはSP4位から2位へとジャンプアップし、同門シェルバコワと金銀を祝った。
ROC女子たちの4回転攻勢にも負けず、坂本花織は見事に銅メダルを持ち帰った。スピードに乗った切れのあるジャンプと、正確なスケーティングスキル、さらには独特な世界観を醸し出す振り付けとで、極めて完成度の高いプログラムを2本そろえた。SP、FSともに自己ベストを並べ、合計233.13点で堂々3位。日本女子としては、バンクーバー2010銀の浅田真央氏以来となる、オリンピックメダリストとなった。
今大会では5選手が3回転アクセルを飛んだが、SP、FSともに完璧に成功させたのは樋口新葉、ただ1人。オリンピック全体の歴史においても伊藤みどり氏、浅田氏を含む史上5人目の快挙だった。やはりトータルスコアで自己ベストを更新し、5位で晴れやかに初めてのオリンピックを締めくくった。また、人生初の大舞台となった河辺愛菜はジャンプに苦しめられ、23位に終わった。