やり投・北口榛花を進化させた気持ちの持ち方「いずれできるようになればいい」

2023年の日本陸上界で最も注目される選手のひとり、やり投の北口榛花。コーチとの出会いを通じた気持ちの変化やパリ2024オリンピックに向けた思いをOlympics.comのインタビューで語った。

Kitaguchi Haruka
(Kenta HARADA)

日本グランプリシリーズ、ダイヤモンドリーグがすでに始まり、5月中旬にはセイコーゴールデングランプリ陸上2023横浜、6月に日本選手権、7月にアジア選手権、8月には世界選手権と、陸上競技界ではパリ2024オリンピック・プレシーズンが本格化している。

「本当に自分でも信じられないくらい素晴らしいシーズン。ずっと届かなかったものが一気に手に入ったような、そんなシーズンだった」と北口榛花自身が語った2022年、北口は世界選手権で日本女子フィールド種目初となる銅メダルを獲得し、陸上競技最高峰のリーグ戦・ダイヤモンドリーグでは、最終戦を含む5戦で表彰台に立つ活躍を見せた。

25歳の北口榛花の進化の裏側には何が隠されているのだろうか。

「どの試合でも1番を目標にしていたけど…」

1998年生まれ北海道出身の北口は、東京2020オリンピック翌年の2022年シーズンの進化を自身の言葉でこう分析する。

「東京オリンピックというひとつの舞台を経験して『足元を見て、ゆっくり一歩一歩着実に』と思うことができたからこそ、『トレーニングも焦らず、できなくてもゆっくりできるようになればいい』っていう、そういう気持ちを持つことができました。(それによって)シーズンいっぱい怪我がなくトレーニングし続けられたことが、こういった成績につながったと思っています」

東京2020オリンピックの陸上競技やり投で、北口は日本女子選手として57年ぶりに決勝に進出するという快挙を成し遂げ、決勝では左腹斜筋の肉離れにより12人中12位で大会を終えた。「どうしても1番になりたいという気持ちで準備した」というオリンピックまでの道のりや大会を通じて得た教訓は、「一歩ずつ着実に」前進していくというものだったと北口は話す。

「今まではどの試合でも1番を目標にしていたんですけど、実際、東京オリンピックの前にも世界選手権を経験したりして、まだ自分がトップに行く位置にいないなというのを、悔しいけど感じることができました」

「だからこそ、『じっくり』というか」

「今まで『全部一気にできるようにならなきゃいけない』と思っていたけど、私の競技人生は長いから『いずれできるようになればいい』という風に考えることができた。それですごく気持ちが楽になりました」と北口は続ける。

チェコ出身のコーチから学んだ「休む」ことの大切さ

北口は2019年以降、チェコ出身のデイビッド・セケラック・コーチに師事している。単身チェコに渡り、言葉や文化の壁を乗り越えて練習に励んできたことは北口の行動力を表すエピソードとしてよく知られている。

コーチに師事するようになった2019年には日本記録を2度塗り替え、それが東京オリンピックや昨年の世界選手権での活躍につながっていく。コーチとの出会いを通じて何が大きく変わったのだろうか?

「休んでいいんだなって。これまた休む話なんですけど(笑)」

「でも、『休んでいいんだな』って思えるようになったのが1番変わったかなって思っています」

北口は毎日2部に分けて練習に励んでおり、「(それぞれ)3時間とか2時間半で終わるんですけど、この短い時間、集中していられる時間で練習して、休んで、また集中できる時間(練習を)続ける」。

「それまでの自分はずっと長い時間ダラダラダラダラ練習をしている感じだった」と過去を振り返る北口は、「そういう風に変わったのがとても大きかったと思います」と練習の充実度とその成果を実感する。

「シーズンを終えてから1カ月とか、練習しないで旅行とかしていいという時間を(コーチは)くれるんですけど、そういうことも前の自分はしなかった」

「頑張ったら休んで、その時間に体と心を1回リセットさせることで、次に始める練習にすごく集中できる」

オンオフの切り替えの大切さを実感した北口だが、それまでひたむきに練習に没頭してきた彼女にとって「休みを作る」ことは簡単ではないことも認める。

「コーチから練習(内容)が来るたびに、延々と練習しちゃうようなタイプなので、コーチには『あまり休むのが得意じゃないから、休みは勝手にそっちで入れてください』ってお願いしています」とトレードマークとも言える笑顔で、楽しそうに笑う。

パリ2024オリンピックとプレシーズン

集中力を高めた状態で行われる練習と適度な休息、そして気持ちの面での余裕。そのバランスをうまく取りながら北口は目標に向かって今シーズンも着実に歩みを進める。

「世界中の選手がオリンピックに向けて、これから仕上げていく段階になると思うので、自分もその流れに置いていかれないようにしっかりついていきたいなって思っています」

その言葉通り、シーズン初戦となった4月末の織田幹雄記念国際陸上競技大会、続く木南道孝記念陸上競技大会ではそろって64mを超える投てきで優勝。世界選手権への出場内定も決め、自身の持つ66mという日本記録の更新も期待させるほどの好調ぶりを見せている。

今シーズンの目標としては、2022年の世界選手権で手にしたメダルの色を、2023年の世界選手権では銀色にかえること。そして来年のパリ2024オリンピックで金メダルを首にかけることを思い描く。

「そんな簡単にはいかないとは思いますけど、でも世界の選手とパリで会いたいし、オリンピックってその場所ならではの雰囲気があると思うので、その雰囲気を楽しみたいなって思っています」と笑顔で語った。

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