イリア・マリニンが語る、4回転アクセルと羽生結弦、そしてオリンピック

4回転アクセルを成功させたフィギュアスケーターのイリア・マリニン。その偉業は大きな話題となったが、本人は長期的な計画の中で落ち着いて技を磨く。17歳のマリニンが、ミラノ・コルティナ2026オリンピックを含めた今後の計画や羽生結弦についてOlympics.comに語った。

1 執筆者 Nick McCarvel
Ilia-Malinin
(2022 Getty Images)

フィギュアスケーター、**イリア・マリニン**には立ち止まって喜ぶ時間はなかった。

2004年生まれ17歳のマリニンは、今シーズンの初めに行われたUSインターナショナルクラシックで4回転アクセルに挑み、フィギュアスケート史上初めてそのジャンプを成功させ、新たな歴史を刻んだ。

それは彼のスタイルの一部になっていると言っても過言ではない。シニアでの初のフルシーズンとなった今季、記録を塗り替えるようなジャンプでフィギュアスケートの新しい壁を破ろうとしている。

「今こうして歴史の中にいることがまだ信じられません…現実味がない」

Olympics.comのインタビューに応じたマリニンは、4回転アクセルについて「着氷することさえ、まったく予想していませんでした」と語ると、「転倒するか、ステップアウトするかと思いましたが、踏ん張れたことはワイルドでクレイジーでした。でも、演技は続いていたので、あまり興奮はできませんでした」と続けた。

この歴史的な出来事は、9月に米ニューヨーク州レークプラシッドで開催されたチャレンジャーシリーズで起こり、世界ジュニア王者はその数週間後、今度はボストンで開催されたフィギュアスケート界の大舞台、グランプリシリーズ6大会のひとつであるスケートアメリカで、再びそれを成し遂げたのだ。

「今シーズン起こったことは、まだ(自分の中で)処理しきれません。本当にたくさんのことがありました。そして、楽しみなことがもっともっとあります」

彼はこの週末(11月25日、26日)、フィンランドのエスポーで今シーズン2度目のグランプリ大会に臨み、12月にイタリアのトリノで開催されるグランプリファイナルの出場権獲得を目指す。

「僕は自分自身に挑戦し、限界を超えることが本当に好きなんです。それはある意味、僕の中の無謀な部分でもあります。それがどこからくるのかわからないけど...おそらく自分自身からきているのだと思います」

羽生結弦の影響を受けた4回転アクセル

4回転アクセルは革新的なジャンプだ。アクセルジャンプでは、選手は前向きに跳び上がって後ろ向きに着氷するため、4回転アクセルでは実質4回転半まわることになる。

トーループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツなど、他のジャンプで4回転を跳ぶ選手はいるが、4回転アクセルに成功した選手はこれまでにいなかった。しかし昨シーズン、オリンピック2連覇中だった羽生結弦が、北京2022オリンピックで4回転アクセルに挑み、脚光を浴びることになった。

羽生はあと一歩のところまで近づいた。マリニンはその姿を見つめていた。

「彼に成功してほしいと思っていました。というのも、彼がそのために努力をしていたからです。彼が本当に初めの成功者になりたいと思っていることが伝わってきました」とマリニンは羽生について語る。

「彼が僕に与えてくれたインスピレーションは、多くの人が認めてくれていると思います」

「彼からインスピレーションを得たこと、彼のおかげで4回転アクセルを跳ぶことができたということを示したい」

歴史的なジャンプと、スケートアメリカでの優勝(史上最年少での優勝)の後、マリニンは、現オリンピック王者、ネイサン・チェンやオリンピックに2度出場した**ヴィンセント・ジョウ**など、同胞の選手たちから祝福のメッセージを受け取った。

今週末のエスポー大会でこのジャンプに挑戦するかどうかは未定だが、彼はこのジャンプをトレーニングの中心に据えておらず、今後もそうするつもりはないと言う。

ボストンで行われた大会で、他に4つの4回転ジャンプを成功させたマリニンは、「アクセルだけに集中するのはやめようと思っています。プログラムはそれだけではないので、それらのジャンプに集中しています。アクセルは今年の最大の関心事ではありません。でも、やっぱり楽しいし...プログラムに加えることができるのは嬉しいことです」と語った。

そして、「(アクセルは)うまく決まれば、多くのポイントを得ることもできます」と続けた。

家族の伝統

バージニア州レストンを拠点とするマリニンは、オリンピック・フィギュアスケーターの両親のもとに生まれた。ロシア出身で、ウズベキスタンの選手として活躍した、タチアナ・マリニナロマン・スコルニアコフである。

母マリニナは1998年のグランプリファイナルで優勝し、その年の初めに行われた長野オリンピックでは8位に入賞。一方、父のスコルニアコフは長野オリンピックと4年後のソルトレークシティ2022に出場した。

息子マリニンは、ネイサン・チェンや多くのオリンピアンを指導するラファエル・アルトゥニアン・コーチと南カリフォルニアで多くの時間を過ごしているが、両親からの指導も受ける。

そしてミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックで、家族の伝統を受け継ぎたいと考えている。

「両親にとって、オリンピックはとても特別な瞬間だったと思います。両親からもらった最高のアドバイスは、オリンピックはとても楽しい経験であり、(そこに到達するために)一生懸命に努力しなければならないということです」

「そして、最終的にそれを達成し、オリンピックに出場することができれば、考え方が変わる。 僕はオリンピックに出場することに集中しています。両親に喜んでもらいたいし、オリンピックに出場するという家族の伝統を受け継ぎたいと思っています」

次の冬季オリンピックは2026年。十分な時間があることを認識しているマリニンは、4回転アクセルやそのほかの要素など、一歩一歩落ち着いて前進したいと考えている。

イリア・マリニンの成長、そして5回転ジャンプ?

昨シーズンの全米選手権で素晴らしいパフォーマンスを披露したマリニンは、北京オリンピックの代表入りを目前にしていたが、シニアの国際舞台での経験が限られていたことから、選出には至らなかった。

2022年の世界選手権は彼にとってシニア初の世界選手権で、9位に入賞した。こうした経験やジュニア時代の優勝経験は、彼自身の成長に影響を与えているとマリニンは言う。

「全部のジャンプに成功することだけがすべてではありません。自分も観客も楽しめるようにしなければなりません。そこに、パフォーマンスや観客とのやりとりが生まれると思います」

マリニンはオフシーズンの大半をプログラム構成要素の得点・芸術性を高めることに費やし、4回転アクセルを含む技術力を強化した。彼はネイサン・チェンなどのプログラムを手がけた振付師、シェイ・リーン・ボーンとも共同作業を行った。

自分のプログラムでは、「遊び心を持って、とにかく楽しみたい」とマリニンは語る。

少し前までは絶対に不可能だと考えられていた5回転に、次は挑戦するのだろうか?

「今シーズンは、4回転ジャンプを完成させようとしています。それによってジャンプが簡単で安定したものになり、回転数を増やす余裕が出てきます」とマリニンは言う。「そういったことを頭の片隅に置いておくようにしたいと思っています。というのも、今やっていることを考えると、可能性があるように思えるからです」と付け加えた。

「もちろん今シーズンに集中していますし、世界選手権やすべての大会が終わった後、(5回転に)挑戦するかもしれません。全力を尽くしてみるかもしれませんし、ちょっと試してみるかもしれません」。

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