パリ2024まであと20カ月余り。英リバプールで開催された世界体操競技選手権2022で6チーム(男子3、女子3)が大会への出場権を獲得し、オリンピック体操競技の展望が少しずつ見え始めている。
9日間の大会日程を終え、リバプールに舞ったチョークの粉が消え去った今、この大会を振り返り、大会が私たちに教えてくれたこと、そしてパリでどんなことが起こるのかを探ってみよう。
橋本大輝とチャン・ボヘンが魅了する男子個人総合
世界選手権を前に、多くの体操ファンが**橋本大輝(21)と中華人民共和国のチャン・ボヘン**(22)の戦いに胸を膨らませていた。
東京オリンピック金メダリスト vs 2021年世界選手権の王者。
橋本とチャンは、男子体操界において最も魅力的なライバル関係となりつつある。1年前に北九州で開催された世界選手権で、オリンピック金メダリストとして臨んだ橋本は、オリンピックに続く世界選手権での王冠を射程圏内に収めていたものの、緊迫した決勝戦の末にわずか0.017点差でチャンがそれを阻んだのである。
初優勝を狙う橋本と、2連覇に挑むチャンの戦いはリバプールでも激しさを極めた。最後の種目となった鉄棒を終え、最終的に0.433点差で橋本に軍配が上がった。競技後には互いを称え合った偉大なライバル同士の戦いは、2024年のパリオリンピックまで続くことだろう。
6大会連続優勝のチームUSA女子
アメリカ合衆国の女子チームは、いとも簡単に6大会連続の団体優勝を達成してみせ、その存在感を改めて世界に知らしめた。
オリンピックで7個のメダルを獲得しているシモーネ・バイルズや東京2020の個人総合金メダリストのスニサ・リーは、ともに今後の競技計画を明らかにしておらず、ふたりが不在となる中、チームUSA女子はその偉業をやってのけたのである。
今回メンバーとして名を連ねたのは、東京2020のゆか種目で優勝したジェイド・キャリー、団体銀メダリストのジョーダン・チャイルズ、2021年世界選手権の個人総合銀メダリストのリアン・ウォンというベテランたちのほか、世界選手権デビューとなったシャイリース・ジョーンズとスカイ・ブレイクリー。
チャイルズは種目別・跳馬の決勝後にOlympics.comのインタビューに応じ、「チームUSAにとって、これはまだ始まりにすぎません」とし、「私たちは前に進み続け、強くあり続けます。私たちの中にある多くのもののために努力し、成長し続けるつもりです。2024年には、間違いなくすごいことになるでしょうね」と語った。
熾烈を極めた女子団体の銀、銅メダルの争奪戦
圧倒的な強さを誇るアメリカ合衆国の女子チームにどの国が続くのか。上位3チームに与えられるパリ2024の出場権を巡り、女子団体決勝では最後の最後まで先の読めない緊迫した戦いが繰り広げられた。
最終的に表彰台に立ったのは英国とカナダだったが、メダル獲得まであと1歩のところにいたチームは少なくない。
例えば日本は銅メダルに近い位置にいたものの、最後の段違い平行棒で深沢こころが落下し、またイタリアもチームリーダーのマルティナ・マッジョが最初の種目となった段違い平行棒で落下するなどのミスに見舞われた。
さらに、最終的に4位となったブラジルは、オリンピックに2度出場しているフラヴィア・サライヴァが予選で負傷し、団体決勝では段違い平行棒のみに出場。その事実がブラジル女子チームに重くのしかかったことは言うまでもない。
アメリカ合衆国の女子チームを除いて女子団体の勢力図は見えてこないが、パリ2024が1年8ヶ月後に迫る今、女子団体戦は今後ますます興味深いものになることは間違いない。
レベッカ・アンドラーデが歴史を刻む
ブラジルのレベッカ・アンドラーデが国際大会でシニア・デビューしてから7年、彼女は自国の歴史を刻み続けている。
アンドラーデはリバプールでの個人総合でシャイリース・ジョーンズやジェシカ・ガディロワ(英国)を抑えて金メダルを獲得。世界選手権の個人総合での金メダルはブラジル初、そして同種目のメダルは2個目(2006年にジャジ・バルボサが銅メダルを獲得した)。
23歳のアンドラーデは、大会前に世界最高の女子体操選手であることを自称していたが、大事な場面でそれを証明した。東京2020オリンピックの跳馬でブラジル初の女子体操金メダルを獲得した彼女にとって、これは歴史に残る瞬間となった。アンドラーデは、東京2020の個人総合でアメリカ合衆国のスニサ・リーに次いで銀メダルを獲得しており、南米出身の選手として初めてオリンピック個人総合でメダルを手にした。
こうした偉業の背景に、2015年、2017年、2019年に前十字靭帯を断裂するなどの怪我があったことも忘れてはならない。アンドラーデはその苦難を乗り越えた今、最も才能ある体操選手のひとりとして輝きを放っている。
勝負強さを見せた中華人民共和国
リバプールでの予選を見る限り、中華人民共和国の男子チームは本調子ではない状態で大会に乗り込んできたように感じられ、男子団体決勝は日本の逃げ切りかと思われた。
しかし大会5日目の11月2日に行われた決勝で、赤いユニフォームに身を纏った彼らは予選の成績を大きく上回り、一方の日本は失速した。
中華人民共和国チームのパフォーマンスはロンドン2012オリンピックを彷彿させるもので、同大会で彼らは予選を6位で通過し、団体決勝では4点差で圧勝してみせたのである。彼らを決してあなどってはいけないことを、多くの人が学んだ。
個人総合で3位となった谷川航は、団体決勝後「中国はあの予選をして、今日の演技をしてくるところに勝負強さを感じた。それに対して僕たちはいくつか失敗が出てしまった。ここぞというところで決める力は大切だと思う」とOlympics.comに語った。
団体優勝を目標に大会に挑んだ橋本は、「(負けたことにより)金メダルの価値が上がった」と来年の世界選手権、そしてパリオリンピックに向けた思いを力強く語った。