柔道は日本のお家芸であり、オリンピックでは累計84個のメダルを獲得してきた。それだけに国内に強豪選手が多く、本番で表彰台に上がることよりも、代表選手に選出されることのハードルのほうが高いと言われている。改革を進める現在の日本柔道界においては、五輪代表選考も大きく変わりつつある。出場枠や選考の基本となるポイントを紹介する。
各階級とも世界ランク18位以内に出場権
柔道は日本発祥のスポーツであり、1964年の東京五輪で初めて採用された。男子は60キロ、66キロ、73キロ、81キロ、90キロ、100キロ、100キロ超の7階級、女子は48キロ、52キロ、57キロ、63キロ、70キロ、78キロ、78キロ超の7階級に分類されている。
2020年、史上2度目となる東京五輪では、新種目として「混合団体」が追加される。男女それぞれ3人ずつ、合計6人がチームを組んで戦うもの。階級は男子73キロ、90キロ、90キロ超級、女子57キロ、70キロ、79キロ超級を実施し、同じ階級の選手同士が戦うことになる。
2016年度末に国際柔道連盟(IJF)が行ったルール改正も、2020年東京五輪の勝負のポイントとなるだろう。男子の競技時間が1分短縮され、試合時間は男女ともに4分となっただけでなく、技の判定が一本、そして技ありのみとなった。より攻撃的な姿勢が求められる。
東京行きの切符を手にするためには、主に以下のいずれかの条件を満たす必要がある。男女ともに193人の枠があり、合計386人の選手が出場権を獲得する。日本は開催国枠として14人が出場できる。
東京五輪の出場枠
- 開催国枠計=計14人(各階級男女1人ずつ)
- 2020年5月25日付の世界ランキングにおいて、男女それぞれ18位以内の選手×7階級=計252人
- 大陸枠による選出100人(各大陸連盟が上記252人以外のランキング上位の選手を選出。各国1人ずつ)
- 三者委員会招待国枠(ワイルドカード)による選出20人
なお、団体混合戦には、個人戦にエントリーした選手のなかで団体戦に該当する6階級に選手をそろえる国はすべて出場可能となる。
13階級で代表選手決定…男子66kg級は代表決定戦の末、阿部一二三が内定
前述のとおり、日本は開催国枠によって男女各7人ずつの出場権が確保されている。全日本柔道連盟の強化委員会は、従来は最重量級の最終選考会を兼ねていた伝統ある大会であり、2020年4月に体重無差別で争われる4月の全日本柔道選手権を選考対象から外した。改革を進める日本柔道界は、また一つ大きな転換を迎えそうだ。
この決断の背景には、代表選手を早期に決定したいという現場の声がある。東京五輪における柔道競技は、開会式翌日の7月25日から実施されるため、選手やスタッフの準備期間をしっかりと確保したいという思いがあるという。
2019年6月4日に正式に承認された日本代表選考方法では、2019年8月25日から9月1日に実施される世界柔道選手権東京大会の優勝者が下記のいずれかを制した場合、日本代表として出場権を獲得する見込み。
日本代表選手選考1
- 世界柔道選手権東京大会(2019年8月)での優勝(必須)
- グランドスラム大阪大会での優勝(2019年11月)
- 強化委員会で3分の2以上の賛成
日本代表選手選考2
上記の方法で代表選手が決まらなかった階級に関しては、以下の3大会における成績を出場枠が決まる。
- ワールドマスターズ青島(2019年12月)
- グランドスラム・パリ(2020年2月)
- グランドスラム・デュッセルドルフ(2020年2月)
日本代表選手選考3
ここまでの2段階で代表選手が決定しない階級は、以下の大会終了後の強化委員会で選考を行う。なお、代表選手決定には委員の過半数以上の賛成が必要となる。
- 全日本選抜体重別選手権(2020年4月)
【東京五輪代表内定選手】
<男子>
- 60キロ級:高藤直寿(2回目)
- 66キロ級:阿部一二三(初出場)
- 73キロ級:大野将平(2回目)
- 81キロ級:永瀬貴規(2回目)
- 90キロ級:向翔一郎(初出場)
- 100キロ級:ウルフ・アロン(初出場)
- 100キロ超級:原沢久喜(2回目)
<女子>
- 48キロ級:渡名喜風南(初出場)
- 52キロ級:阿部詩(初出場)
- 57キロ級:芳田司(初出場)
- 63キロ級:田代未来(2回目)
- 70キロ級:新井千鶴(初出場)
- 78キロ級:浜田尚里(初出場)
- 78kg超級:素根輝(初出場)
「大陸枠」として100人分の出場枠
近年では日本以外の国もその実力を発揮し始めている。ヨーロッパではフランス、ロシア、オランダ、イタリア、アジアでは韓国、中国、モンゴル、また、中南米ではキューバ、ブラジルなどの国々が台頭中だ。2020年の東京五輪では「大陸枠」として100人分の出場枠が設けられている。
大陸枠の内訳
- アフリカ:男子12人、女子12人
- ヨーロッパ:男子13人、女子12人
- アジア:男子10人、女子10人
- オセアニア:男子5人、女子5人
- パン・アメリカ地域:男子10人、女子11人
2018年5月以降、東京五輪に向けた出場権争いは続いている。「IJFワールド柔道ツアー」と総称される、IJF主催の国際大会(世界柔道選手権、ワールドマスターズ、グランドスラム、グランプリ)での結果がポイントに換算され、獲得ポイントによる世界ランキングによってオリンピックの出場権が決まる。
2016年のリオデジャネイロ五輪で活躍した選手たちも東京行きの切符を手繰り寄せようと奮闘中だ。2019年5月9日に28歳の誕生日を迎えたコソボのマイリンダ・ケルメンディ(女子52キロ級)は、リオデジャネイロ五輪の準決勝で中村美里を下し、コソボ初の金メダルを獲得したスターだ。その後負傷に悩まされたものの、2019年のグランプリ・テルアビブで優勝、グランドスラム・デュッセルドルフではオール一本勝ちで頂点に立った。5月23日時点の世界ランクでは9位につけている。
男子ではフランスのテディ・リネール(100キロ超級)の存在が目を引く。世界柔道選手権では10大会連続優勝、ロンドン、リオデジャネイロ五輪を連覇とその実力は圧倒的。東京五輪へ照準を合わせるために、2018年、2019年の世界柔道選手権は欠場するなど、オリンピック3連覇にかける思いは計り知れない。