東京五輪で混合団体戦が初導入
これまで個人戦のみだったオリンピックの柔道に、2020年東京五輪から新たに導入されることになった団体戦。しかも、過去に世界選手権で行われてきたような、性別で分かれた5人制ではなく、男女3人ずつの6人制で戦うスタイルとなる。すでに世界選手権では、2017年のブダペスト大会から、東京五輪と同じスタイル、ルールで行われている。2018年バクー大会では、日本チームは前年に続く2連覇を果たし、東京五輪での金メダル獲得に弾みをつけた。むしろ、「金を取って当たり前」というプレッシャーに、どう打ち勝つのかが注目されるようになるかもしれない。
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混合団体戦の階級とルール
混合団体戦は男子3、女子3の計6選手で構成される。階級は男子が73キロ以下、90キロ以下、90キロ超、女子は57キロ以下、70キロ以下、70キロ超となり、同じ階級の選手同士が戦う。
試合時間はそれぞれ4分間。一本勝ち、不戦勝、相手の棄権による勝利は10点、技ありでの優勢勝ちは1点、指導差の勝利は0点と規定。決着がつかない場合は、ゴールデンスコア(GS)方式の延長戦を行う。スコアや指導数が相手より多くなった時点で、延長戦はただちに終了する(サドンデス)ため、引き分けはない。6人が終わり、勝利数や得点で決着がつかない場合は、無作為に選ばれた階級区分の選手で代表戦を行う。4チームに与えられるシード権は、6選手の世界ランキングを得点化し、その合計によって決定する。
混合団体の試合順は抽選で決まる。2017年世界選手権で混合団体戦が行われた際、男女各3人が軽量級から順に対戦したが、日本チームは軽量級に世界王者クラスがいるので、早々と勝負がついてしまい、面白みに欠けたことから抽選に変わったという。勝敗が決すれば、後の試合は割愛される。
5人制でも6人制でもずっと強かった日本
男女混合戦が世界選手権で行われたのは、2017年ブダペスト大会と2018年バクー大会だ。いずれも日本が優勝している。
2017年、日本は2回戦でウクライナ、準々決勝でドイツ、準決勝で韓国に5-1で勝利。いずれも5人目までに勝負がついていた。決勝戦はブラジル相手に6-0のストレート勝ちを収め、王者の貫禄を見せつけた。選手は出場順に57キロ級女子・宇高菜絵・芳田司、73キロ級男子・中矢力・橋本壮市、70キロ級女子・新添左季・新井千鶴、90キロ級男子・長澤憲太、70キロ超級女子・朝比奈沙羅、90キロ超級男子・原沢久喜・王子谷剛志。
2018年、日本は2回戦でモンゴルを4-0で下したものの、準々決勝ではアゼルバイジャン相手に、4人目まで2-2、続く5、6人目で勝利して、スコアを4-2とする波乱含みの展開になった。その後の準決勝は持ち直して韓国を4-0で下し、決勝のフランス戦は4-1と圧勝、2度目の優勝を果たした。選手は階級順に57キロ級女子・玉置桃・芳田司、73キロ級男子・立川新、70キロ級女子・大野陽子、90キロ級男子・向翔一郎、70キロ超級女子・朝比奈沙羅・素根輝、90キロ超級男子・小川雄勢・原沢久喜。
2018年ジャカルタ・アジア大会でも混合団体戦が行われた。57キロ級女子からスタートし、階級順に男女交互で戦い、勝敗が決まれば、後の試合を割愛するというスタイルだった。ここでも日本は優勝を収めている。2回戦で韓国相手に3-3と苦戦するも、準決勝で中国、決勝でカザフスタンを4-0で一蹴。選手は階級順に57キロ級女子・玉置桃・舟久保遙香、73キロ級男子・海老沼匡、70キロ級女子・田中志歩・新添左季、90キロ級男子・小林悠輔、70キロ超級女子・山本沙羅、90キロ超級男子・影浦心・王子谷剛志。
男女各5人制で行われていた1994~2015年の世界選手権の戦績は、全12大会中、優勝は男子が6回、女子は5回で、いずれも最多となっている。メダルは男子が10回、女子が11回で、落とした回数はごくわずかだ。過去に優勝した国は、男子がフランス、ジョージア、ロシア。女子がキューバ、フランス、中国、オランダ。東京五輪でもこうした国々が競合相手となってくるだろう。
団体戦2度出場、医師も目指す朝比奈選手に注目
2017年、2018年の世界選手権団体戦の両方に出場している選手は複数いる。このうちの一人が、78キロ超級の朝比奈沙羅選手だ。朝比奈選手は2017年世界選手権で準優勝に終わった悔しさをバネに、2018年は初優勝を果たした。大きな成長を見せた朝比奈選手だが、その存在はかなり異色だ。
現在、柔道の名門校である東海大学4年生ながら、柔道部には所属せずに、駐車場運営会社として知られ、東証一部に上場する「パーク24」の契約社員となり、実業団選手として活動しているのだ。
話はそれだけにとどまらない。朝比奈は柔道をしながら、将来は医師になるという「二足のわらじ」を履こうと勉強しているのだ。これは医師の父、歯科医の母の影響によるものだそうで、「海外ではオリンピックのメダリストから医師に転身する選手も多いが、日本では難しい。自分はその先駆けになりたい」という。現在、医学部専門の予備校に通っていて、大学卒業後に本格的に受験予定だそうだ。
それにしても、医師を目指す勉強と柔道の世界王者とを両立させるのはかなり厳しいはず。それをやり抜こうとする意志の強さは並大抵のものではないだろう。ただ、「柔道は2020年の東京まで」と決めているそうだ。そうすると、東京五輪が最後の大舞台になる。夢に向かってまっしぐらの朝比奈選手に注目したい。