井上監督による大復活、メダル量産に期待
2016年のリオ五輪では、金2、銀1、銅4と、全階級でメダルを獲得した男子柔道。その前の2012年ロンドン五輪が、金メダルゼロと惨敗だっただけに、地元・日本で開催される次の東京五輪に向けて活気づく結果となった。根性論を排し、選手に寄り添った指導で、低迷する日本男子柔道を、わずか数年で立て直したのは、2000年シドニー五輪100キロ級で金メダルを獲得した井上康生監督だ。井上監督は東京五輪でも男子代表監督の続投が決まっており、メディアの取材に対して、「全日本監督としての成功とは、東京五輪で目標とする金メダルを全選手が獲得すること」と意気込む。柔道はオリンピックの前半(7月25日~8月1日)に開催されるため、日本選手団金メダル第1号となることと、金メダルの量産が期待されている。
階級と体重差の規則
男子の階級は、60キロ級(超軽量級)、66キロ級(軽軽量級)、73キロ級(軽量級)、81キロ級(軽中量級)、90キロ級(中量級)、100キロ級(軽重量級)、100キロ超級(重量級)に分かれ、それぞれトーナメント方式で争われる。柔道が初めて正式な競技種目となった1964年の東京五輪では、軽量級(68キロ以下)、中量級(80キロ以下)、重量級(80キロ超)、無差別のわずか4階級だった。その後、選手の体格が大きくなり、同じ階級でも体重制限の上限が増えて、現在の分け方に落ち着いた。
階級の体重差はいわゆる階差数列だ。隣り合った数字の差が1つずつ増えていくということ。男子の場合、まず最軽量級の60キロに「6」を足して66キロ。次に66キロに「7」を足して73キロ。次は「8」を足して81キロ、「9」を足して90キロ……という具合だ。
お家芸にふさわしい輝かしい戦績
柔道男子は、これまでの五輪で金メダル28個、銀メダル10個、銅メダル14個の計52個を獲得している(女子は金11個、銀9個、銅12個の計32個、男女では計84個)。また、「一本を取る柔道」にこだわってきた。男子で全試合を一本勝ちした選手は、1984年ロス五輪の山下泰裕、1992年バルセロナ五輪の吉田秀彦、シドニー五輪の井上康生ら6選手(女子は2人)。
オリンピック競技の中でも、日本の選手がメダルを量産する柔道では、記録だけでなく、記憶に残る名選手も多い。記録を残した選手といえば、60キロ以下級でアトランタ、シドニー、アテネと連続で金メダルを3個獲得した野村忠宏氏だろう。野村氏は現在、柔道大会のナビゲーターやテレビのワイドショーコメンテーターを務めており、知名度も高い。
記憶に残った選手としては、「平成の三四郎」と呼ばれ、1992年のバルセロナオリンピックで金メダルを獲得した古賀稔彦選手ではないだろうか。試合直前に、柔道の名門、世田谷学園高校の後輩であり、ともに代表としてオリンピックに参加していた吉田秀彦選手との乱取り中に、左膝を大けがしてしまったが、痛み止めを打って決勝に臨み、死闘の末に勝利。先に金メダルを獲得していた吉田選手と抱き合う姿は国民の感涙を誘った。
また、現在はテレビタレントとしても活躍している篠原信一氏もその一人だろう。シドニー五輪の決勝戦、内股すかしで相手を背中から畳にたたきつけ、誰もが一本勝ちを確信したその瞬間、「世紀の大誤審」で銀メダルに終わった。日本側の猛抗議でも判定は覆らず、多くの国民が虚脱感に覆われる中、篠原選手は一言「弱いから負けた」の言葉を残した。
阿部兄妹はそろっての「金」となるか
さて、今回の注目選手を挙げるとすれば、まずは66キロ級の阿部一二三選手だろう。兵庫県出身、2018年10月28日現在、日本体育大学3年生の21歳。2017年にハンガリー・ブダペストでの世界柔道選手権大会に、初出場で初優勝を果たしたことで、一気に知名度を上げた阿部選手は、続く柔道グランドスラム東京2017で、2大会連続3度目の優勝を飾った。
6歳で柔道を始め、中学生のころにはメキメキと頭角を現し始めた阿部選手は、才能というよりも努力の人だという。小学生のころから、消防士の父より受けた体幹トレーニングで、背負い投げや袖釣込腰など、豪快かつスピード感ある技を得意としている。
高校生のとき、プレッシャーに負けてリオデジャネイロ五輪出場の機会を逃した。この悔しさをバネに、大学進学後は快進撃を続ける。52キロ級女子の阿部詩選手は3歳年下の妹。東京五輪では史上初の兄妹そろっての出場と、メダル獲得に多くの柔道ファンから、大きな期待が寄せられている。
もう一人は100キロ超級の王子谷剛志選手。大阪府出身、2018年10月28日現在、旭化成所属の26歳。2017年の柔道グランドスラム・パリで優勝、モロッコ・マラケシュでの世界柔道無差別選手権で3位、2018年に入ってからは柔道グランドスラム・デュッセルドルフで2位と世界で知名度を上げている。
シドニー五輪金メダリストで、現・男子監督の井上康生氏に憧れて柔道を始めたという。2010年、高校3年生のときにモロッコで開催された世界ジュニア柔道選手権大会で初優勝し、世界一を獲得した。大学卒業後は不完全燃焼が続き、2016年リオ五輪への出場を逃したが、その後の鍛錬で、気持ちを前面に押し出した試合運びを心掛けるようになり、得意の大外刈を軸に、絞め技や抑込技など、細かい技術に自信を持つようにもなり、精神面と技術面で大きく成長を遂げた。
このほか、リオ五輪金メダリストの男子90キロ級・ベイカー茉秋選手、73キロ級・大野将平選手に加え、2017世界選手権チャンピオンの橋本壮市選手、リオ五輪銅メダリストの男子73キロ級・海老沼匡選手、そして、バルセロナ五輪の銀メダルリストでその後プロレスラーに転身した小川直也さんの息子で100キロ超級の小川雄勢選手なども注目だ。