毎年、世界中で800レース以上のマラソンが開催されているが、そのうち6大会のみがワールドマラソンメジャーズの称号を得ている。その6大会とは、東京マラソン、ボストンマラソン、ロンドンマラソン、ベルリンマラソン、シカゴマラソン、そしてニューヨークシティマラソンだ。
これらのマラソンは、世界でも最も有名で人気の高い大会ばかりで、市民ランナーとエリートランナーが同時に、各地の名所からなる42.195 kmを駆け抜ける。
マラソンメジャーズ大会のひとつにでも参加することは、多くのランナーにとっての夢であり、中には、1大会の完走メダルだけでなく、6大会全ての完走メダルの獲得に情熱を注ぐランナーもいる。6大会全てを走破すると、「シックススター」の称号を得ることができ、ワールドマラソンメジャーズ本部から完走証とシックススターメダルが授与され喜びは絶大だ。
エリートランナーに注目すると、ワールドマラソンメジャーズの各大会では長年にわたり世界記録が破られては塗り替えられている。現在の男子マラソン世界記録(2時間1分9秒)は、2022年のベルリンマラソンでケニアのエリウド・キプチョゲによって樹立された。一方、女子の世界記録(2時間14分4秒)は、2019年のシカゴマラソンで同じくケニアのブリジッド・コスゲイによって達成されている。
さぁ、ワールドマラソンメジャーズの各大会をチェックしよう!
東京マラソン
ワールドマラソンメジャーズの中で、1年の最も早い時期に開催される東京マラソンは、3月の第1日曜日に行われている。初開催は2007年。ワールドマラソンメジャーズの中では最も新しい大会で、2012年に加入した。
東京マラソンのコースを走るランナーは、新宿の東京都庁前をスタートし、大都心のビル群を駆け抜け、途中、浅草雷門、東京スカイツリー、銀座、増上寺、東京タワーなどの名所を巡り、東京駅前の行幸通り皇居近くで42.195kmの旅を終える。
初代チャンピオン(2007年)は、男女それぞれ、ケニアのダニエル・ジェンガと日本の新谷仁美(にいや・ひとみ)。
数字で見る東京マラソン
男子コースレコード
- 2時間2分40秒 エリウド・キプチョゲ(ケニア、2022年)
女子コースレコード
- 2時間16分2秒 ブリジッド・コスゲイ(ケニア、2022年)
男子車いすコースレコード
- 1時間21分52秒 鈴木朋樹(すずき・ともき/日本、2020年)
女子車いすコースレコード
- 1時間40分0秒 喜納翼(きな・つばさ/日本、2020年)
参加者数(2023年)
- 38,000人
ボストンマラソン
ボストンマラソンは、伝統的に4月の第3月曜日、アメリカ合衆国の愛国者の日(Patriots’ Day)に開催される。
世界で最も古い毎年恒例のマラソン。アテネ1896オリンピックでのマラソン競技に刺激を受け、1897年に初めて開催された。
当初は、男子のみ参加することができたが、1966年にロベルタ・ギブが飛び入りで出走。非公認ながら3時間21分40秒で完走したことで女子の参加も認められた 。実際には、女子選手の記録が、公式に認められるようになったのは1972年のことである。
ボストンマラソンのコースでは、ランナーはホプキントン州立公園からスタートし、アシュランド・クロックタワー、ネイティック文化地区、コース途中の難所「心臓破りの丘」の麓にあるジョニー・ケリー像(ボストンマラソンを61回完走して2回優勝し、2004年に亡くなったジョニー・ケリーを称える記念碑「Young at Heart」)などの多くの名所を走り、コプレイスクエアのフィニッシュラインを目指す。
男子の初代チャンピオン(1897年)、米国のジョン・J・マクダーモットは2時間55分10秒で完走。女子の記録が公式に認められた1972年、米国のニーナ・クシックが優勝している(3時間10分26秒)。
数字で見るボストンマラソン
男子コースレコード
- 2時間3分2秒 ジョフリー・ムタイ(ケニア、2011年)
女子コースレコード
- 2時間19分59秒 ビズネシュ・デバ(エチオピア、2014年)
男子車いすコースレコード
- 1時間18分3秒 マイセル・フグ(スイス、2017年)
女子車いすコースレコード
- 1時間34分19秒 マニュエラ・シャー(スイス、2019年)
ボストンマラソンで樹立された男子世界記録
- 2時間25分39秒 徐潤福(ソユンボク/大韓民国、1947年)
ボストンマラソンで樹立された女子世界記録
- 2時間22分43秒 ジョーン・ベノイト(米国、1983年)
参加者数(2022年)
- 30,000人
ロンドンマラソン
ロンドンマラソンでは、これまでに7回、世界記録が誕生した。世界でも屈指の高速を誇るコースのひとつである。1981年に初めて開催されたこの大会は、メルボルン1956オリンピック、陸上3000m障害金メダリスト、クリス・ブラッシャーが創設に貢献した。彼は、1979年にニューヨークシティマラソンを完走し、マラソン創設に向けて意欲を高めていた。
ランナーは、イギリス帆船カティサーク、観覧車ロンドン・アイ、ビッグベン、ロンドン塔など、ロンドンの魅力の詰まった魅力的なコースを堪能するだろう。そして、バッキンガム宮殿から続く通りザ・マルのフィニッシュゲートがランナーたちを待ち受けている。
ロンドンマラソンが初開催された1981年の男子レースは、めったに見ることのない同着フィニッシュという劇的なものだった。この時、米国のディック・ビアズリーとノルウェーのインゲ・シモンセンは、雨の中の2時間を超える激闘の末、最後は手をつなぎ、2時間11分48秒で同時にフィニッシュテープを切り、お互いの健闘をたたえ合った。この年の女子レースで優勝したのは、地元期待の選手、43歳のジョイス・スミス。彼女は翌年のレースでも優勝している。
数字で見るロンドンマラソン
男子コースレコード
- 2時間2分37秒 エリウド・キプチョゲ(ケニア、2019年)
女子コースレコード
- 2時間15分25秒 ポーラ・ラドクリフ(イギリス、2003年)
男子車いすコースレコード
- 1時間26分27秒 マイセル・フグ(スイス、2021年)
女子車いすコースレコード
- 1時間39分52秒 マニュエラ・シャー(スイス、2021年)
ロンドンマラソンで樹立された男子世界記録
- 2時間5分38秒 ハーリド・ハヌーシ(米国、2002年)
ロンドンマラソンで樹立された女子世界記録
- 2時間17分1秒 メアリー・ケイタニー (ケニア、2017年)
- 2時間17分42秒 ポーラ・ラドクリフ(イギリス、2005年)
- 2時間15分25秒(*) ポーラ・ラドクリフ(イギリス、2003年)
- 2時間21分6秒 イングリッド・クリスチャンセン(ノルウェー、1985年)
- 2時間25分29秒 グレテ・ワイツ(ノルウェー、1983年)
*男女混合レース
参加者数(2022年)
- 40,000人
ベルリンマラソン
世界で最も高速を誇るコースを走りたければ、マラソンメジャーズの中ではベルリンマラソンをおいて他に選択肢はないだろう。ベルリンマラソンでは、これまでに、男子で9回、女子で3回、合計12回の世界記録が誕生した。特に、現在の男子世界記録、2時間1分9秒はケニアのエリウド・キプチョゲによって2022年に樹立されたものだ。
9月最後の週末に開催されるベルリンマラソンのフラットで高速なコースは、ティーアガルテン公園内のジーゲスゾイル(勝利の塔)前をスタートして、再びティーアガルテン公園に戻り、有名なブランデンブルク門をくぐり抜けたところでフィニッシュとなる。地元のパン職人、ホースト・ミルデによって創設され、初開催の1974年、西ドイツのギュンター・ハラス(2時間44分53秒)とユッタ・フォン・ハッセ(3時間22分1秒)が男女それぞれ優勝を果たしている。
数字で見るベルリンマラソン
男子コースレコード
- 2時間1分9秒 エリウド・キプチョゲ(ケニア、2022年)
女子コースレコード
- 2時間15分37秒 ティギスト・アセファ(エチオピア、2022年)
男子車いすコースレコード
- 1時間21分39秒 ハインツ・フライ(スイス、1997年)
女子車いすコースレコード
- 1時間36分53秒 マニュエラ・シャー(スイス、2018年)
ベルリンマラソンで樹立された男子世界記録
- 2時間1分9秒 エリウド・キプチョゲ(ケニア、2022年)
- 2時間1分39秒 エリウド・キプチョゲ(ケニア、2018年)
- 2時間2分57秒 デニス・キプルト・キメット(ケニア、2014年)
- 2時間3分23秒 ウィルソン・キプサング・キプロティチ(ケニア、2013年)
- 2時間3分38秒 パトリック・マカウ・ムショキ(ケニア、2011年)
- 2時間3分59秒 ハイレ・ゲブレセラシェ(エチオピア、2008年)
- 2時間4分26秒 ハイレ・ゲブレセラシェ(エチオピア、2007年)
- 2時間4分55秒 ポール・テルガト(ケニア、2003年)
- 2時間6分5秒 ロナウド・ダ・コスタ(ブラジル、1998年)
ベルリンマラソンで樹立された女子世界記録
- 2時間19分46秒 高橋尚子(日本、2001年)
- 2時間20分43秒 テグラ・ロルーペ(ケニア、1999年)
- 2時間34分48秒 クリスタ・ヴァーレンシエック(西ドイツ、1977年)
参加者数(2022年)
- 40,000人
シカゴマラソン
シカゴマラソンは1977年に創設され、当初はわずか4,200人のランナーが参加したに過ぎなかったが、今では世界最大規模の大会に発展を遂げている。現在、40,000人近くのアマチュアランナー、エリートランナーが集い、風の町シカゴのストリートを駆け抜け、42.195 kmにチャレンジする。レースのスタートとフィニッシュはシカゴ中心部のグラントパーク。コース途中、シカゴの町で最も愛されている3つのスタジアム、リグレー・フィールド(野球)、ユナイテッド・センター(バスケットボール、アイスホッケー)、ギャランティード・レート・フィールド(野球)を通るため、スポーツファンにはたまらないだろう。
ベルリンマラソンやロンドンマラソンと同様に、世界有数の高速コースとしてシカゴマラソンにも歴史に残る記録が刻まれている。特に、2019年にケニアのブリジッド・コスゲイが樹立した女子マラソン世界記録、2時間14分4秒はよく知られている。この現在の女子世界記録は、シカゴマラソンが初開催された1977年に、ドロシー・ドゥーリトルが女子レースで優勝した時のタイム、2時間50分47秒よりも45分以上早いものだった。その年の男子優勝者はダン・クレーター。タイムは2時間17分52秒だった。
数字で見るシカゴマラソン
男子コースレコード
- 2時間3分45秒 デニス・キメット(ケニア、2013年)
女子コースレコード
- 2時間14分4秒 ブリジッド・コスゲイ(ケニア、2019年)
男子車いすコースレコード
- 1時間26分56秒 ハインツ・フライ(スイス、2010年)
女子車いすコースレコード
- 1時間39分15秒 タチアナ・マクファデン(米国、2017年)
シカゴマラソンで樹立された男子世界記録
- 2時間5分42秒 ハーリド・ハヌーシ(モロッコ、1999年)
- 2時間8分5秒 スティーブ・ジョーンズ(イギリス、1984年)
シカゴマラソンで樹立された女子世界記録
- 2時間14分4秒 ブリジッド・コスゲイ(ケニア、2019年)
- 2時間17分17秒 ポーラ・ラドクリフ(イギリス、2002年)
- 2時間18分47秒 キャサリン・ヌデレバ(ケニア、2001年)
参加者数(2022年)
- 40,000人
ニューヨークシティマラソン
世界最大のマラソンと言えば、ニューヨークシティマラソンであることに間違いはない。2022年にはおよそ50,000人のランナーが摩天楼を駆け抜けた。ニューヨークシティマラソンが誕生した1970年当初は、わずか127人のランナーがスタートし、完走したのは55人に過ぎなかった。この時、ゲーリー・ムールケ(米国)が2時間31分38秒で優勝した。
その翌年、ベス・ボナー(米国)が当時の女子マラソン世界記録、2時間55分22秒で初代女子優勝者となっている。
1976年、ニューヨークの5つの行政区を全て通る新しいコースが導入された。スタテンアイランドをスタートし、世界的に名の知られるセントラルパークがフィニッシュ会場となる。コース途中、ランナーは5つの橋を渡るが、橋の急坂がランナーを苦しめる。一方で、世界的に有名な観光スポットを通るコースは魅力的だ。
これまでに4つの女子マラソン世界記録が樹立されている。1978年から1980年まで3年連続で記録を塗り替えたノルウェーのグレテ・ワイツの功績は驚くべきものだ。
数字で見るニューヨークシティマラソン
男子コースレコード
- 2時間5分6秒 ジョフリー・ムタイ(ケニア、2011年)
女子コースレコード
- 2時間22分31秒 マーガレット・オカヨ(ケニア、2003年)
男子車いすコースレコード
- 1時間25分26秒 マイセル・フグ(スイス、2022年)
女子車いすコースレコード
- 1時間42分43秒 スザンナ・スカロニ(米国、2022年)
ニューヨークシティマラソンで樹立された女子世界記録
- 2時間25分42秒 グレテ・ワイツ(ノルウェー、1980年)
- 2時間27分33秒 グレテ・ワイツ(ノルウェー、1979年)
- 2時間32分30秒 グレテ・ワイツ(ノルウェー、1978年)
- 2時間55分22秒 ベス・ボナー(米国、1971年)
参加者数(2022年)
- 47,000人