波乱に満ちた東京2020:トップ選手が次々と姿を消す

東京2020オリンピック開幕から1週間。私たちは、衝撃的な結果や大番狂わせに見舞われている。シモーネ・バイルズやテディ・リネール、ノバク・ジョコビッチ、ナイジャ・ヒューストン、大坂なおみ、桃田賢斗など、世界的アスリートたちが予想外の結果に直面している。

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Teddy Riner
((Photo by Chris Graythen/Getty Images))

今回の大会は、言ってみれば「いつもと違う」可能性を秘めていた。新型コロナの世界的流行によって1年間延期となり、台風も接近するなど、東京2020オリンピックはこれまでとどこか違った。

しかし、この1週間で目の当たりにしてきた衝撃の連続を予想した人はいなかっただろう。テニスコートや体操競技場、プールやスケートボードコースで、スーパースターが次々と姿を消し、選手らが築いてきた記録が湿気を帯びた東京の空に消えていった。そして、東京2020では新たな挑戦者が活躍している。

しかし、私たちはまだ東京2020の中間地点にいる。ここでこれまでの波乱を振り返ってみたい。

バイルズと大坂、ジョコビッチの衝撃

史上最高の体操選手として注目されていたアメリカ代表のシモーネ・バイルズ(24)が、女子団体種目の跳馬の演技後に体育館を後にする様子に、誰もが自分の目を疑ったに違いない。バイルズは「健康上の問題」を理由に団体戦を途中棄権した。

その後、バイルズはタイトルを守ることではなく、精神的なケアに専念することを選択し、個人総合も棄権することを発表した。

状況を見ながら種目別への出場を検討することになるが、金メダルを狙ったバイルズが退場した姿は、今大会の象徴的なイメージとして語り継がれることになるだろう。ちなみに、団体総合ではROCが金メダルを獲得した。

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テニス界のスター、大坂なおみ(23)はオリンピック開会式で大役を務め上げるなど、注目を集めていた。しかし、3回戦でマルケータ・ヴォンドロショーヴァ(チェコ)に敗北を喫してしまった。

試合後、「負けるたびにがっかりするけど、今回の負けは他よりも最悪に感じている」と語った。

その数日後、テニス界で今年1番の衝撃と言える出来事が発生。世界ランキング1位で金メダル獲得を目指したノバク・ジョコビッチ(セルビア)が、準決勝でアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)に敗れた。ジョコビッチは年間ゴールデンスラム(テニス四大大会とオリンピックでの優勝)を逃す結果となった。

ズベレフは「彼には、史上最高の選手だと伝えた」とコメント。「彼が歴史を追いかけ、ゴールデンスラムを狙い、オリンピック優勝を目指していたのは知っているけど、終わればノバクとはとても仲がいいんだ」とし、「もちろん勝ったことは嬉しいけど、ノバクの気持ちはわかる」 と続けた。

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アメリカのバスケ選手とサッカー選手の試練

衝撃のニュースは、注目選手の棄権や敗退ばかりではない。1992年に伝説のドリームチームを結成して以来、多くの人を魅了し続けてきたアメリカの男子バスケットボールチームは、フランスに83-76で敗れて初戦を黒星スタート。アメリカ代表にとってオリンピックでの敗北は、2004年以来、26試合ぶり。

フランスのガード、エバン・フォーニエは、ケビン・デュラントやダミアン・リラードといったNBAのオールスターを擁するアメリカ代表について、「彼らは個々には優れている」とした上で、「しかし、チームとして彼らを打ち負かすことはできる」と語った。

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一方、これまでに金メダルを4個獲得しているアメリカ女子サッカー代表は、女子1次ラウンドでスウェーデンに3-0で完敗。44試合連続の無敗記録が途絶えただけでなく、オリンピックでは史上最大の敗北となった。また、グループステージ3試合での勝利はわずか1試合。不安を抱えながら決勝トーナメントに挑む。

ニュージーランド戦(6-1)でゴールを決め、100試合出場となったアメリカ代表のリンジー・ホランは、「自分たちに腹を立てています」とし、「あの試合での私たちのメンタリティは正しくなかった」とコメントした。

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リネールの3大会連続金メダルの夢、絶たれる

オリンピックで2度優勝した柔道家テディ・リネール(フランス)は、11年間で1度しか負けたことがなく、東京オリンピックの金メダル獲得の最有力候補だった。しかも、その1度の相手で、2020年2月にリネールの無敗記録を止めた影浦心は今回の大会には出場していない。

しかし東京2020のこの1週間で言えることは、衝撃と驚きが「ニューノーマル」であるということ。リネールは、準々決勝で今年の世界選手権銀メダリストのタメルラン・バシャエフ(ROC)と対戦し、敗北を喫した。リネールが日本武道館から去ったとき、私たちが知っている柔道の世界がこれまでと違うものだと感じられた。

スケートボードデビューとサーフィンのワイプアウト

待望のオリンピックデビューを果たしたスケートボード。男子ストリート種目では、ナイジャ・ヒューストン(アメリカ)が世界ランキング1位として挑んだが、結果は7位。世界王者である堀米雄斗が金メダルを獲得した。

ヒューストンは、「Yuto [HORIGOME] is insane(雄斗は常軌を逸している)」と世界中のスケーターらが使う表現で堀米を称え、「These guys on the podium are so f********** good!” (表彰台の彼らは、とても素晴らしい!)」と、スケートボーダーらが共通する仲間意識を示した。

女子ストリートでは、世界チャンピオンのパメラ・ロザとベテランのレティシア・ブフォーニ(ともにブラジル)が、日本代表で10代の西矢椛(金メダル)、中山楓奈(銅メダル)、ブラジルの13歳、ライッサ・レアウ(銀メダル)に敗れ、惜しくも表彰台を逃した。

日本人としてオリンピック史上最年少の13歳で表彰台に上がった西矢と、16歳の銅メダリスト中山は、「スケボーに年齢は関係ない」と語った。

サーフィンのオリンピックデビュー戦が行われた釣ヶ崎海岸サーフィンビーチのでは、アメリカのアイコンであるジョン・ジョン・フローレンスのメダル獲得が期待されたが、コロヘ・アンディーノに敗れ、表彰台を逃した。

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ラケットの打撃、ウクライナ柔道の衝撃

男子テニスの元世界ランキング1位のアンディ・マレー(イギリス)がシングルスを棄権したことはは、イギリスのファンを動揺させたに違いない。男子ダブルスの準々決勝では、ジョー・ソールズベリーと組んでクロアチアのイワン・ドディグとマリン・チリッチと対戦したが、敗れる結果となった。

また、世界ランキング3位のステファノス・チチパス(ギリシャ)が、男子シングルス3回戦でウゴ・アンベール(フランス)に敗れた。

女子世界ランキング1位のアシュリー・バーティ(オーストラリア)が、衝撃的な逆転劇に見舞われたことにオーストラリアのファンは胸を痛めただろう。バーティはスペインのサラ・ソリベス・トルモに敗れた。

バーティは試合後、オーストラリアのテレビ番組で、「タフな一日でした。残念な一日でした。それが正直な気持ちです」とし、「この大会で、いいパフォーマンスをすることを望んでいました。今日は私の日ではありませんでした」と話した。

またバドミントンでは、男子第1シードの桃田賢斗が1次リーグ第2戦で38位のホ・グァンヒ(韓国)に敗れた。決勝トーナメント進出を逃した。

柔道家ダリア・ビロディド(ウクライナ)は48kg級の準決勝で渡名喜風南に、一本負けを喫した。3位決定戦でシラ・リショニー(イスラエル)と対戦し、銅メダルが確定した後、涙で畳を降りた。

銅メダルを手にし、悔し涙を見せたビロディドは、「オリンピック金メダルを夢見ていました。たくさん練習して、時にはもがき苦しんで......」と悔しさを滲ませ、「このことは誰にも言っていません。私の歩んできた道のりがいかに困難であったかを見ていた親しい人たちだけが知っています。すべてはオリンピック金メダルのために頑張ってきました」と話した。

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英国、日本、インドの苦痛

英国代表のテコンドー選手でウェールズ出身のスーパースター、ジェード・ジョーンズは、英国女子初のオリンピック金メダル3個を目指して東京2020に出場したものの、57kg級1回戦でキミア・アリザデ(難民選手団)に敗れた。

「感情のジェットコースターに乗っているような気分」と、試合後のジョーンズ。「少し良くなったと思ったら、また悪くなる。頭の中で、どうすればよかったのかを考えています。怖がらずに、もっと攻めていればよかったと思います」と話した。

日本がソフトボールで勝利し、2年連続13年ぶりにオリンピックの金メダルを獲得したことは、衝撃ではないものの、3度の金メダルを獲得しているアメリカ代表にとっては、またしても痛手となった。

一方、史上最高の男子体操選手のひとりであり、オリンピックでメダル7個を獲得している内村航平も予選で敗退。男子体操界のヒーローは鉄棒から落下し、自身の東京オリンピックでの戦いを終えた。

内村は、「もう前みたいに練習してきたことをそのまま出せる能力はないんだなと。大舞台でこそ出せていたのに」などと語った。

女子ボクシングで金メダルを目指すインドの期待の星で、世界選手権を6度制し、ロンドン2012銅メダリストのメアリー・コムは、イングリッド・バレンシア(コロンビア)に僅差で敗れ、準々決勝進出はならなかった。

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