パリ2024まで2年を切った中、その試金石となり得る重要な大会がウズベキスタン・タシケントで幕を開ける。10月6日に初日を迎える2022年世界柔道選手権大会だ。
日本はTokyo2020において史上最多となる9個の金メダル、合計では12個のメダルを獲得。日本柔道の復活を世界中に印象づけた。そしてそれは同時に、世界のトレンドが再び“打倒日本”へと動いていることを意味する。次回のオリンピック開催国であるフランスを筆頭に、日本に対して特別なモチベーションを持って大会に臨んできていることは間違いないだろう。
日本としても、自らの現在地を知る上で絶好の機会となる。この1年で世界との差を広げたのか、それとも縮まったのか。そして世界との戦いだけでなく、日本人同士でも激しい代表権争いが待ちうける。今大会でも、オリンピック金メダリストと現世界選手権王者、2人の日本人がぶつかる階級がある。
■阿部一二三と丸山城志郎、両雄の明暗やいかに
大会前から大きな注目を集めているのが男子66キロ級だ。代表選手は阿部一二三(パーク24)と丸山城志郎(ミキハウス)の2人。両者はTokyo2020の代表権を懸けた決定戦で、24分にもおよぶ死闘を繰り広げたことでも広く知られている。
その試合を制した阿部一二三はTokyo2020で金メダルを獲得。敗れた丸山はオリンピック直前に開催された世界選手権代表となり、阿部一二三のいない大会を制した。それぞれの大会で世界を制した2人は、2022年4月の全日本選抜柔道体重別選手権大会決勝で再戦。またしても阿部一二三が勝利し、通算成績は阿部一二三の5勝4敗となった。
そして迎える今大会。パリ2024の代表選考も意識する中、直接対決の勝利はなによりものアピールとなるだろう。オリンピックチャンピオンが意地を見せるか、世界王者がリベンジを果たし連覇となるか。両雄の激闘に期待がふくらむ。
■阿部詩、負傷を乗り越え世界へ
兄の一二三とともに、Tokyo2020でオリンピック史上初のきょうだい同日優勝を果たした女子53キロ級の阿部詩(国士舘大学)。オリンピック後はしばらく実戦から遠ざかり、約8カ月後の全日本選抜柔道体重別選手権大会で復帰した。
金メダリストの復帰戦に多くの注目が集まったが、結果は準決勝棄権。オリンピック後に両肩の手術を受けており、不安を残す中での強行出場だったことを明かした。そのような状態で初戦を突破したのはさすがの一言。世界選手権代表に選出されたのも、大会を制した白石響(環太平洋大学)ではなく阿部詩だった。
国際舞台には、7月中旬のグランプリ・ザグレブ大会で復帰した。順調な回復ぶりを見せ、初戦から3試合連続で1本勝ち。決勝でも48キロ級でTokyo2020金メダリストのディストリア・クラスニキ(コソボ)に一本勝ちを収め、復帰戦を圧巻の優勝で飾った。“前哨戦”での戦いぶりからも、今大会に向けた調整はうまくいっていると見ていいだろう。2019年以来、3度目の世界チャンピオンに向けた視界は良好だ。
■逸材・斉藤立が世界選手権デビュー
男子60キロ級の髙藤直寿(パーク24)、男子81キロ級の永瀬貴規(旭化成)、女子78キロ級の濵田尚里(自衛隊体育学校)といったオリンピック金メダリストたちや、Tokyo2020銀メダルの渡名喜風南(パーク24)と現世界選手権女王の角田夏実(了徳寺大学職)がぶつかる女子48キロ級など、実績十分な選手たちも優勝候補として大きな期待が懸かる。
彼らとは対照的に、今大会で世界選手権初出場を飾る楽しみな選手がいる。男子100キロ超級の斉藤立(国士舘大学3年)だ。
斉藤はロサンゼルス1984、ソウル1988とオリンピック2連覇を達成した偉大な柔道家、斉藤仁を父に持つ20歳。ジュニア時代から将来を嘱望され、2018年のロシアジュニア国際大会、日本ジュニア体重別選手権大会を制した。2021年11月にはグランドスラム・バクー大会でシニアの国際大会初優勝を飾った。
そして大きな注目を浴びたのが体重無差別で日本一の柔道家を決める全日本柔道選手権大会。準決勝でTokyo2020代表の原沢久喜(長府工産)を破り、決勝では2021年の世界選手権を制した影浦心(日本中央競馬会)に勝利した。史上初となる、親子2代での全日本選手権優勝の快挙も成し遂げている。
全日本チャンピオンの称号をひっさげ、世界選手権に乗り込む斉藤。ロンドン2012、リオデジャネイロ2016で2連覇、世界選手権10度の優勝を誇るテディ・リネール(フランス)は怪我のため欠場となったが、Tokyo2020金のルカシュ・クルパレク(チェコ)、銀のグラム・ツシシビリ(ジョージア)といった強敵が立ちはだかる。パリ2024を目指す斉藤にとって、世界での立ち位置を計る絶好の機会。豪快な柔道で世界に立ち向かう姿を楽しみにしたい。