2018年のブエノスアイレスユースオリンピックで初登場し、日本では2019年から全日本選手権が開催され、国内外で急速に知名度を上げてきたブレイキンが、いよいよ8月9日~10日に、パリ2024でオリンピック新競技としてデビューする。
1カ国あたり男女それぞれ最大2枠の出場枠となるブレイキンは、Shigekixこと半井重幸(なからい・しげゆき)が、アジア競技大会で一足先にパリへの内定を決めたため(※)最後のチャンスとなるオリンピック予選シリーズ(OQS)で獲得できるBボーイ日本代表の座は残り1枠となる。
その5月16日〜19日の上海大会と6月20日〜23日のブダペスト大会OQSに出場するのは、ジャパンオープン2023を制したHiro10(大能寛飛=おおの・ひろと)と、今年の全日本選手権でShigekixを抑えて初優勝したISSIN(菱川一心=ひしかわ・いっしん)だ。
小中学生の頃から互いに刺激し合い、高め合ってきたふたりの目指すオリンピック出場への道のりについて、ISSINのインタビューに続き、Hiro10が、一人のみが獲得できるパリの切符への想いについて、Olympics.comインタビューに語った。
※オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。各競技の出場資格に関する公式資料はこちら。
2月の全日本ブレイキン選手権で初の決勝進出を果たしたHiro10は、同年代で切磋琢磨してきたISSINとの頂上対決の経験を活かし、さらなる強化を進め、オリンピック最終予選に向けて準備している。
「確実にあの大会(全日本選手権)の時よりは強くなっていると思います。細かいところとか、詰めが甘かったところを詰めたりとか、単純に新しい動きが増えたりとか、あの時は完成度が低かったけど今は高いとか。やっぱり(OQSは)レベルが違うんで。気持ちを入れてやっていきたい」
予選大会を通じてオリンピック予選シリーズ(OQS)の出場資格を得た男子ファイナリストは、世界で40名。その中からオリンピック出場枠を獲得できるのは7名となる(日本最大1枠)。
Hiro10は「(プレッシャーを感じると)僕は自分のベストのパフォーマンスができないって自分でも分かってるんで、あんまりプレッシャーには感じず、今までやってきたことを全てそこで出し切れるようにやっていきたいですね」と、意気込んだ。
親友だけどライバル「どっちが行っても恨みっこなし」
「いや、やっぱ…何というか、過酷ですよね」
大好きなブレイキンを通じて培ってきた友情と絆。世界が認めるブレイカーに成長したHiro10とISSINが、一枚の切符を競い合うことになる。
「僕はISSINのことをダンサーとしても友達としてもめっちゃリスペクトしてるし、ISSINも僕のことをそう思ってくれていると思うんですよ。親友やけどライバルだし、どっちかしかいけないっていうのはすごいきついなって思いますね」と頷きながら想いを語ると、「でも僕らではもう何も変えられないんで。ISSINとも話してるですけど、どっちが行っても恨みっこなしというか。どちらかが行くか、どっちも行けないか」と続け、「ただ、後悔だけはしたくなくて。もっとあの時頑張っとけば行けたのかな、とかは絶対に思いたくないんで。本当に後悔しないように頑張って、その結果ISSINが行ったとしても、僕はもういいと思ってるんです」と力強く口にした。
オリンピックを目指すことの意味
Hiro10は、「オリンピックを目指すことによって、この出来事が僕をめちゃくちゃ強くしてくれたんですよ」と、これまでの自分を振り返る。
「それだけで、やっぱオリンピック目指した意味は絶対にあるし、オリンピック(を目指したこと)でいろんな経験ができたんで、もう満足というか。でも満足はまだしてないというか…」と横に首を振りながら、はにかんで笑った。
しかし、Hiro10のパリ出場へのモチベーションは、常に高いわけではなかったという。「正直なこと言うと、去年の5月にカナダであった『インターナショナルシリーズ 』に出るまでは、僕はオリンピックを目指してなかったんです。形だけというか、目指してますって言ってたんですけど、実際奥深くでは無理だろうなって思ってたんです」
彼に転機が訪れたのは、そのカナダ・モントリオールでの大会だった。Hiro10はこの大会で、のちにアジア王者となるBボーイWingにこそ破れたものの、自身のキャリアハイとなる3位に入り、2週間後のマドリードの大会でも3位表彰台に。さらに2週間後のアジア選手権では5位のShigekixに続き6位入賞を果たした。
「そこで一気に切り替わったというか、本気でオリンピック目指そうと思ったんです。それでここまで来れたんで、もうそれだけで意味があったなって。でも、ここまで来たからにはオリンピックに絶対に出たい。人生を変えたいんで。頑張ります」と気合いを込めた。
スポーツとしてのブレイキンと、カルチャーを併せ持つアスリートを目指す
人生を変えたいと思える目標に出会えたHiro10は、ブレイキンの魅力をこう語る。
「まず、楽しいんです。その楽しいブレイキンをやることによって、自分の人生が明るくなったのを感じるし、人と沢山繋がれるんですよ。ブレイキンが一つの言語というか。日本の人だけじゃなくて、海外の人ともめちゃくちゃ繋がれるんです。自分の人間力も上がったと思っていて。成長したなって。ブレイキンが自分の人生のレベルを上げてくれたなって思いますね。これからもどんどんそういうことが起きていくんだろうなって思います」
9歳からブレイキンをはじめ、10年のキャリアを積んで世界レベルまで上り詰めたHiro10は、成長と共に自分のブレイキンのスタイルが変化してきたと言う。
「昔はダイナミックとかパワームーブ、キレ・スピードみたいな感じだったんですけど、今はそれも含めてフリースタイルみたいな感じです」
渡米して現地のBボーイと一緒に練習した経験が、これまでの考えを一新させた。
「昔は全部決めてたんですよ。1から10までやること。それを頑張ってその大会で出すみたいな。でも今は(自由なスタイルが)自分はすごくいいと思っていて。それの方がBボーイらしいし、アスリートはしないというか。やっぱ自分はいつまでもBボーイでありたいし、そのカルチャーもすごい好きだし」
ストリートカルチャーと自由な独自のダンススタイルが起源であるブレイキンの根本とするところを残しつつ、進化したスタイルを追求したいとHiro10は続ける。
「二刀流になりたいです。スポーツとカルチャーを併せ持つアスリートに」
競技者の一面とBボーイの一面の両方を融合させたアスリートになることが、彼の目指す新境地だ。
「おばあちゃん絶対喜ぶと思う」
両親からのサポート、祖父母やチームメイトからの応援に「すごいパワーをもらえる」と感謝するHiro10は、「普段の大会の結果とか、自分の納得いくようなダンスができたとかもあるんですけど、やっぱりみんなのために頑張りたいです」と語る。
2024年元旦に能登半島地震に見舞われた石川県出身のHiro10は、同県に住む祖母が被災し、避難所生活を強いられた。そんな時に実感したのが、ブレイカーとして活躍することで自分にできる恩返しだ。「自分がブレイキンを頑張ることによって、たくさんの人に元気を与えられるっていう、その手段にもなり得るブレイキンのすごさというか、そのブレイキンの偉大さに気づかされたなっていう感じですね」と気持ちを込めた。1月6日に行われたジャパンオープンでの勝利は、まさに祖母に勇気と力を与えた。
オリンピックに出場することで「おばあちゃん絶対喜ぶと思うし 、やっぱ絶対に一番初めのブレイキン競技には出ておきたい」とパリを見据えるHiro10は、その登竜門となるOQSに向けて、「緊張とかよりも楽しみの方がすごい大きいですね。別に出られなかったとしても失うものはない。がむしゃらに頑張ってたら今ここの位置に立ってるんで、今までやってきたことを信じて、全力で頑張りたいです」と熱く語ってくれた。
親友と挑む、オリンピックへの道。ダンスバトルの熱戦の行方に注目しよう。
オリンピック予選シリーズ 2024日程
※以下、現地時間と括弧内が日本時間。2024年4月17日時点
OQS上海
5月18日(土)
- 16:15(17:15) Bボーイ予選:プレセレクション
- 16:15(17:15) Bガール予選:プレセレクション
- 20:00(21:00) Bガール予選:プレクオリファイヤー
- 21:15(21:15) Bボーイ予選:プレクオリファイヤー
5月19日(日)
- 11:00(12:00) Bガール予選:ラウンドロビン
- 14:45(15:45) Bボーイ予選:ラウンドロビン
- 18:30(19:30) Bガール準々決勝
- 19:00(20:00) Bボーイ準々決勝
- 19:30(20:30) Bガール準決勝
- 19:45(20:45) Bボーイ準決勝
- 20:00(21:00) Bガール決勝
- 20:15(21:15) Bボーイ決勝
OQSブダペスト
- 開催期間:6月20日~23日。詳細は近日中発表予定
パリ2024オリンピック日程
8月9日(金)コンコルド・アーバンパーク開催
- 16:00(23:00) Bガール予選
- 20:00(翌3:00) Bガール準々決勝 第1試合
- 20:07(翌3:07) Bガール準々決勝 第2試合
- 20:14(翌3:14) Bガール準々決勝 第3試合
- 20:21(翌3:21) Bガール準々決勝 第4試合
- 20:45(翌3:45) Bガール準決勝 第1試合
- 20:52(翌3:52) Bガール準決勝 第2試合
- 21:14(翌4:14) Bガール3位決定戦
- 21:23(翌4:23) Bガール決勝戦
8月10日(土)コンコルド・アーバンパーク開催
- 16:00(23:00) Bボーイ予選
- 20:00(翌3:00) Bボーイ準々決勝 第1試合
- 20:07(翌3:07) Bボーイ準々決勝 第2試合
- 20:14(翌3:14) Bボーイ準々決勝 第3試合
- 20:21(翌3:21) Bボーイ準々決勝 第4試合
- 20:45(翌3:45) Bボーイ準決勝 第1試合
- 20:52(翌3:52) Bボーイ準決勝 第2試合
- 21:14(翌4:14) Bボーイ3位決定戦
- 21:23(翌4:23) Bボーイ決勝戦
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オリンピック予選シリーズのライブ配信情報
オリンピック予選シリーズ(OQS)の全種目は、Olympics.comのオリンピックチャンネルで配信が予定されている。※配信予定は変更する可能性がある