旗手・江村美咲がフェンシング日本サーブル初のメダルに挑む! パリ2024
2008年に行われた北京オリンピックで、フェンシング男子フルーレの太田雄貴さんが日本人として初めてオリンピックメダル(銀)を獲得してから16年。日本フェンシング界は着実に進化を遂げてきた。
ロンドン2012では男子フルーレ団体が銀メダルに輝き、リオ2016でのメダル獲得はならなかったものの、次の東京2020では男子エペ団体が金メダルを手にし、日本のスポーツファンを沸かせた。
それはパリ2024オリンピックにも引き継がれることになるだろう。その立役者となるのが、女子サーブルの江村美咲である。
金髪のヘアスタイル、思慮深く落ち着いた口ぶりが印象的な江村は、ブレイキンのShigekix(半井重幸=なからい・しげゆき)と共にパリ2024開会式の旗手に選出され、日本選手団を率いて登場する。オリンピック出場は2度目、現在25歳の江村美咲は、これまでどんな道のりを歩んできたのか。世界選手権2連覇中の江村の競技人生を辿ってみたい。
江村美咲、国際舞台への第一歩
パリ2024オリンピック女子サーブル日本代表の江村美咲は、ソウル1988オリンピックで男子フルーレ代表だった父・宏二さんと、世界選手権のエペ日本代表の経験を持つ母・孝枝さんのもと、1998年に大分県で生まれた。
両親の影響を受けて小学3年生のときにフェンシングを始め、当初は父と同様フルーレに取り組んでいたが、あるサーブル大会の優勝賞品が当時好きだったというキャラクター「ウサビッチ」のジグソーパズルだったことからその大会に出場し、見事優勝。これがきっかけとなり、中学校に入る前にはサーブルに転向した。
2014年に国際デビューを飾った江村は、高校1年生だった2014年にカデット(17歳以下)世界選手権で日本人として初の銅メダルを獲得して南京2014ユースオリンピック出場を決めると、個人戦で4位、大陸別混合団体戦では金メダル獲得に貢献。この年の躍進が江村を世界へと導くことになる。
「15歳のときにカデットのカテゴリーの国際大会で初めて優勝したんですけど、それが世界を視野に入れるきっかけになった。それまでは日本のサーブルが世界で勝てるイメージもなかったし、自分でもその世界をすごく目指したいと本気で思ってはなかったので、そこで少し気持ちが変わった」(2023年7月 Olympics.comのインタビューより)と江村は語る。
江村美咲、東京2020からパリ2024へ
ユースオリンピックの2年後に行われたリオ2016ではオリンピック代表の座に届かなかったものの、2021年の東京2020オリンピックではメンバーに選出され、4年に1度の舞台に立つこととなった。母国開催、自身初めてのオリンピック。活躍するべくひたむきに努力を重ねたが、結果は個人戦3回戦で敗退。団体戦では5位入賞に貢献したものの、本人の中では「悔しさ」が残ったという。
大会後は、「もうちょっと強くなれば自分もオリンピックでメダル取れるぐらいになれる」という思いに突き動かされてがむしゃらに練習に励み、そのせいで一時は自分を失ったことを本人も認める。そんな中、江村はフランス人のジェローム・グース・コーチの指導を受けることになり、「楽しむこと」を学んだ。
「楽しむと言っても、試合をしながら『楽しい!』って思っているわけではなくて、試合前は逃げたくなるし、本気でやって負けるってすごく悔しいし、ショックでもあります。(そうしたことを考えて)楽しくなくなったり逃げたくなったりすると、全力で戦えなくなるんですよ。負けたときが怖くて全力で相手にぶつかることができなくなるんです」
「でも(楽しむことが)できたときというのは、その怖さとか不安もある中で自分と戦いつつ、でも試合中は相手と自分だけに集中していました」
新たな気持ちでフェンシングと向き合った江村は、2022年5月の女子サーブルのワールドカップで、日本女子個人として初めて優勝。同年の世界選手権でも優勝し、世界ランキング1位(日本女子個人では史上初)に上り詰め、2023年には世界選手権2連覇を達成した。
江村美咲「挑戦者の気持ちで」
世界選手権2連覇という偉業に多くの人がオリンピックの金メダルを期待することだろう。しかし、本人の中では「チャレンジャー」だと捉えて、パリまでの大会を転戦してきた。
「東京オリンピックのときよりも周りからの期待とか見られ方が全然変わってて、確かにプレッシャーを感じないって言ったら嘘になるんですけど、でも年間を通して世界選手権以外の試合で負けることの方が多い。自分は挑戦者という気持ちが強いです」(Olympics.comのインタビューより)
パリ2024で目標に掲げるのは「金メダル」。それは日本フェンシング界で日本女子がまだ見たことのない世界である。だが、その前に江村は自分らしく戦うことを誓う。
「応援してくださる方がたくさんいるので情けない試合だけはしたくない。(パリでの)結果はもちろん金メダルを目指しているんですけど、そこに向かうまでに、正々堂々と戦ったり、終わった後みんなに胸を張って会えるような試合をしたいと思います」
江村が出場予定のフェンシング女子サーブル個人は7月28日、女子サーブル団体は8月3日に予定されている。江村が歴史の扉を開く瞬間を見届けたい。
【江村美咲プロフィール】
- 名前:江村美咲(えむら・みさき)
- 生年月日:1998年11月20日(25歳)
- 出身地:大分県
- オリンピック歴:東京2020フェンシング女子サーブル個人13位、団体5位
- 種目:女子サーブル個人、女子サーブル団体
- ソーシャルメディア:Instagram、X
※年齢は2024年7月26日パリ2024オリンピック開会式当日を基準とした。