フェンシング・江村美咲「挑戦者の気持ちで」、見延和靖「フランスの観客を沸かせたい」
7月26日の開会式が刻一刻と迫る、パリ2024オリンピック。
東京2020の男子エペで日本初の金メダルを獲得したフェンシング競技では、日本代表選手として男女フルーレ団体、女子サーブル団体、男子サーブル個人、男子エペ団体、女子エペ個人に出場するの18人が選出された(※)。
フェンシングと深いつながりを持つフランスで開かれるこの大会に、日本代表のフェンサーたちは緊張と期待を胸に準備を進めている。
男子エペ団体オリンピック金メダリストの見延和靖、世界選手権女子サーブル個人2連覇の江村美咲がOlympics.comのインタビューに応え、大会への思いを語った。
※オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。
見延和靖「会場で一体感が生まれるような試合はフランスでしかない」
パリ近郊のサン・モールで5月17日〜19日に行われた男子エペのワールドカップの会場で、東京2020金メダリストの見延にマイクを向けると、「前回、東京オリンピックの団体戦で優勝したけれども、チームのメンバーが変わっているので、その面で準備を進めているところです」と言葉にした。
パリ2024に向けて男子エペでは、見延のほか、5月現在の世界ランキングで3位の加納虹輝(かのう・こうき)、そして2024年のワールドカップ個人戦で表彰台に2度立っている山田優(まさる)、リザーブには古俣聖(こまた・あきら)が選出されている。
見延は「オリンピックまでには100%の準備が整うと信じています」と力強く続ける。
パリオリンピック直前に37歳の誕生日を迎える見延は、ベテラン選手のひとりであることを自覚すると同時に「フィジカル面で衰えを感じるところがある」と認めるが、「経験を活かして、うまい戦術や試合の組み立てなどができるようにはなっている。パリオリンピックでは面白い試合が見せられるのではないかと思います」と力を込めた。
Team Japan 🇯🇵 took the team title of the Saint-Maur Men's Epee World Cup by beating Team France 🇫🇷 44-43 in the final🤺@FJE_fencing #Fencing #FIE #FencingWorldCup #Epee #SaintMaur #Paris #France
— FIE (@FIE_fencing) May 19, 2024
📸 #BizziTeam/ Andrea Alegni pic.twitter.com/hdcLTSIjne
パリでの男子エペ団体の目標は連覇を達成すること。その目標に向けて、フランス代表チームに注目する。東京オリンピックでは準々決勝でフランス代表を下し、最終的に日本史上初めて表彰台の頂点に立った。
「(団体戦では)ディフェンディングとして迎えるオリンピックになりますが、プレッシャーというものは一切感じていません。今回のライバルは間違いなく自国開催であるフランス代表チームになると思います。前回(東京オリンピックで)は私たち日本チームが勝っているので、向こうはすごく気合いを入れて大会に臨んでくると思いますが、僕たちもディフェンディングとしてではなく、チャレンジャーの精神を持って大会にぶつかっていきたいと思います」
見延に話を聞いた翌日のワールドカップ男子エペ団体戦で、日本代表は決勝でフランスを下して表彰台に立ったが、決して油断できる相手ではない。そうした緊張感を持つ一方で、歴史的にフェンシングと深いつながりを持ち、競技に精通しているファンも多く存在するフランスでの試合に、いちフェンサーとして胸を膨らませている。
「フェンシングの発祥はフランスという風に言われています。フェンシングの共用語もすべてフランス語なので、今回の試合(ワールドカップ)もすごくお客さんが盛り上がっています。会場で一体感が生まれるような試合はフランスでしかないと思っています」
「その国でプレーできるということに特別な思いがあるので、そこで僕のプレーでフランスのお客さんを沸かせられるような、そういったプレーをしていきたいと思います」と語った。
W杯ブルガリア大会🇧🇬
— 江村美咲 (@11misaki20) May 20, 2024
個人戦3位🥉: 団体戦5位
オリンピック前最後のW杯は久しぶりに内容の良い試合ができたと同時に、まだまだミスも多くもっと精度を上げていけると感じました。
今回もたくさんの方々にお世話になりありがとうございました🙏🏻
©︎日本フェンシング協会/Augusto Bizzi/FIE pic.twitter.com/7Atao9hffQ
江村美咲「サーブルのダイナミックさを楽しんでもらいたい」
一方、女子フェンシングを牽引し、サーブル個人で世界選手権2連覇中の江村美咲は、「1年半以上左足の甲を痛めていて、練習をちゃんとできずに試合ばっかりやる時期が続いていて、今もまだ痛かったりするんですけど、ちょっとずつ動けるようになってきました。今まで足をかばって足が止まっちゃったりとかしてあまり動けてなかったので、基礎的なところからしっかりしていきたいなと思います」と、自分の体と向き合いながら準備を進める。
江村はリオ2016オリンピックにリザーブとして参加し、東京2020では個人13位、団体5位。その後の世界選手権で日本選手初の2連覇を達成した。しかし、本人の中では「チャレンジャー」だと捉えて世界を転戦している。
「東京オリンピックのときよりも周りからの期待とか見られ方が全然変わってて、確かにプレッシャーを感じないって言ったら嘘になるんですけど、でも今日(グランプリ・ソウル大会)も実際メダルを取れなかったですし、年間を通して世界選手権以外の試合で負けることの方が多い。自分は挑戦者という気持ちが強いです」
江村がそう話した5月4日〜6日のグランプリ・ソウル大会ではメダル獲得こそならなかったがサーブル個人で5位に入り、その前に行われた3月のワールドカップ・ベルギー大会では準優勝、5月17日〜19日のワールドカップ・ブルガリア大会では銅メダルを獲得した。
「応援してくださる方がたくさんいるので情けない試合だけはしたくない。(パリでの)結果はもちろん金メダルを目指しているんですけど、そこに向かうまでに、正々堂々と戦ったり、終わった後みんなに胸を張って会えるような試合をしたい思います」
パリ2024オリンピックのフェンシング競技は、オリンピック開会式翌日の2024年7月27日〜8月4日の9日間で行われる。
会場となるのは、ガラス張りの天井を特徴にエレガントな雰囲気を持つグラン・パレ。江村は以前、Olympics.comのインタビューで「(オリンピックでは)会場や演出に関してすごく期待してます。グラン・パレで試合をやるんですけど、2010年に世界選手権がそこであったらしくて、その試合に行った誰もが『今までで一番すごい演出だった。一番すごい試合だった』っていうんです。なので、それがオリンピックだったらどれだけかなと思って楽しみです」と期待を寄せている。それは多くのフェンサーの共通する思いだろう。
期間中、多くの人がフェンシングの世界に触れることになる。フェンシング・サーブルの見どころについて、江村はこうアドバイスする。
「サーブルは特にフェンシングを知らない人からしたらどっちが勝ったかっていうのがわかりにくい種目でもあって、正確に見ようとしたら難しいと思うんですけど、フェンシングの中でも一番迫力があってスピーディーなのがサーブルなので、そのダイナミックさとか試合展開の早さとかを純粋に楽しんでくれたらいいなと思います」
「見て感じるのは難しいかもしれないんですど、そのすごい早い試合展開の中で、実はいろんなことをお互いの選手が考えて、戦術の駆け引きがある。騙し合いをたくさんしているというのを意識しながら見たら面白いかなと思います」と語った。