羽生結弦、「オリンピックは特別」記者会見・後編

前人未到のクワッドアクセルに挑み抜き、演技後には「やり切った」と語った羽生結弦が、2月14日に報道陣の前に姿を表し、率直な思いを語った。後編。

HANYU Yuzuru5
(2022 Getty Images)

前編はこちら

挑戦じゃないことなど存在しない

ソチ2014、平昌2018の2大会連続オリンピック金メダリストとして3連覇が期待される中、**羽生結弦**は前人未到の4回転アクセルに挑戦し続けてきた。「王者として守るのではなく挑戦すること」について質問が及ぶと、「王者だからとかじゃなくて、みんな生活の中で何かしら挑戦しているんだと思います」と、自分が特別ではないと強調する。

「それが生きるってことだと思いますし、守ることだって挑戦だと思うんですよね。守ることだって難しいことだと思いますし、大変なんですよ。守るって。家族を守ることだって大変だと思いますし、何かしらの犠牲だったり、時間が必要だったりもします」と、アスリートとしての挑戦だけでなく、多くの人が日常生活の中でさまざまな挑戦に直面している点に触れ、「なにひとつ挑戦じゃないことなんて存在してないんじゃないかな。それが僕にとって4A(4回転アクセル)や、このオリンピックというものにつながった」。

自分が挑戦する姿を通して、「羽生結弦はこんなに褒めてもらえているけど、実は褒められることなのかなって、自分のことを認められるきっかけになったら嬉しい」とすべての人に語りかけるように思いを語った。

自分の生き様と「天と地と」

2月10日のフリーの演技について、表現者として改めて演技を振り返った羽生は、冒頭の4回転半ジャンプで転倒するなどのミスを悔しいと話した反面、「上杉謙信というか、自分が目指していた『天と地と』という物語というか、自分の生き様というか、それにふさわしい演技だったと、冷静に考えても思うんです」と、ミスも含めてプログラムとして満足していることを口にした。

その上で、4回転アクセルを追求していく中で、最終的に辿り着いたのが今回のジャンプだったことやそう感じた背景を、羽生らしくこう表現した。

「(4Aを)目指してた理由は、僕の心の中に9歳の自分がいて、あいつが跳べってずっと言ってたんですよ。ずーっとお前、下手クソだなって言われて練習してて、でも今回のアクセルは褒めてもらえたんですよね。実は9歳のときと同じフォームなんですよ。だから一緒に跳んだんです」

そう感じたことを「自分らしい」と話す羽生は、続けて「ずっと壁をのぼりたいって思っていたんですけど、いろんな方々に手を差し伸べてもらって、いろんなきっかけを作ってもらってのぼってこれたと思っているんですけど、最後に壁の上で手を伸ばしていたのは9歳の俺自身だった」と、9歳の自分と27歳の自分を重ね、「最後にそいつの手をとって一緒にのぼったなという感触があって。羽生結弦のアクセルって実はこれだったんだ」と、納得できるジャンプへと昇華したことを語った。

これから目指すもの

会見の途中、たびたび宙を見つめながら、丁寧にひとつひとつ言葉を選んだ羽生。

今後のオリンピックについて聞かれると、しばらく天井を見つめ、「このオリンピックが最後かと聞かれたら、ちょっとわからないです」とし、「やっぱり、オリンピックって特別だなって思いましたし、怪我してても立ち上がって挑戦するべき舞台って、フィギュアスケーターとしては他にはないので、すごく幸せな気持ちになっていたので、また滑ってみたいなという気持ちはあります」と、4年後の可能性もにじませた。

「2万件のメッセージや手紙をいただいたりとか、今回ボランティアさんもすごく歓迎してくださったりとか、中国のファンの方々も含めて歓迎してくださっているのをすごく感じて、そういう中で演技するのってすごく幸せだなと思いながら、今回滑りました」と感慨深げに話した羽生は、続けて「そんなスケーター簡単にいないよなって思いますし、羽生結弦でよかったなって思いました」と語った。

また今後のゴールや目標については、「これから先、フィギュアスケートをやっていくとして、どういう演技を目指したいかとか、どういう風に皆さんに見ていただきたいかとか、いろんなことを今考えています」と話しつつも、「正直、混乱している」と今の思いを言葉にし、「これからも羽生結弦として、羽生結弦が大好きなフィギュアスケートをきわめていけたらいいなと思います」とした。

最後に、ソチ2014、平昌2018そして今回大会に至るまで8年間オリンピック王者であり続け、その座を維持することができなかったことについて話が及ぶと、「はぁー」とひと息ついた羽生は、「とても重かったし、とても重かったからこそ、自分が目指しているフィギュアスケートというものと、自分が目指している4Aというものを常に探求できたなって思っています」と振り返り、オリンピックでの金メダルのおかげで多くの人に知ってもらい応援してもらえる「今がある」とし、次の言葉で会見を締め括った。

「もちろん3連覇ということは消えてしまったし、その重圧からは解放されたかもしれないですけど、でも僕はやっぱりオリンピック王者だし、2連覇した人間だし、それは誇りを持って、明日の自分が今日の自分を見たときに胸を張っていられるように、これからも過ごしていきたいなと思います」。

もっと見る