【スキージャンプ】北京五輪|小林陵侑と髙梨沙羅、男女のエースが金メダルを狙う

1 執筆者 宮本あさか
Ski Jumping
(Getty Images)

◆男子:小林陵侑、金メダルに最も近い男

2大会ぶりの日本人メダル獲得どころか、1998年長野五輪以来6大会ぶりの金メダルさえ、現実的に手に届く距離にある。1月中旬の時点で、日本の小林陵侑は、2021/22シーズンの男子スキージャンプ・ワールドカップ総合首位に君臨。平昌はノーマルヒル7位で終えた25歳が、堂々たる優勝候補の大本命として、北京の空に羽ばたく。

小林は平昌の翌シーズンに大きな飛躍を遂げた。開幕2戦目で人生初のワールドカップ勝利を飾ると、そのまま全28戦中13勝をもぎ取った。年末年始にドイツとオーストリアで2戦ずつ行われる伝統のジャンプ週間では、史上3人目の全勝優勝「グランドスラム」を達成。シーズン末には、日本人男子として史上初めてのワールドカップ総合優勝を果たした。

不振の時も過ごした。昨季は開幕から19戦連続で表彰台どころか、トップ7以上に入れなかった。本戦2本目にさえ進めないことも。しかし、2021年2月13日、第20戦ザコパネ大会で、約1年2カ月ぶりの勝利。同時にコーチであり、日本の「レジェンド」でもある葛西紀明の保持する日本男子最多ワールドカップ17勝に並び……わずか6日後にはあっさり追い抜いた。

勝ち方を思い出した小林は、再び勝利街道を突き進む。今季は開幕から1月中旬までの全14戦で、すでに6勝。ジャンプ週間も4戦で3勝をさらい取り、自身2度目の王者となった。ワールドカップ優勝回数は、早くも男子ジャンプ史上8位タイの25回にまで伸ばしている。史上最多53勝を誇るグレゴア・シュリーレンツァウアーが、昨秋に31歳で現役から退いてからは、小林の勝利数の前には自動的に「現役最多」の枕詞もつく。

そんな小林の快進撃を、果たして誰が食い止められるだろうか。小林と同い年25歳のノルウェー人、ハウヴォル=エグナー・グランルードは、昨季序盤に突如として実力を開花し、そのままワールドカップ総合優勝に輝いた。今季も変わらぬ好調さを持続しているが、2位止まりが多いのは、小林が完全復活したせいだ。同じノルウェーのマリウス・リンドヴィクは、今年に入ってから2連勝を含む5大会連続表彰台と、凄まじく調子を上げている。

やはり、今季2勝の実力者カール・ガイガー(ドイツ)や、12月のワールドカップ初優勝以来安定して好成績を積み重ねるヤン・ホール(ポーランド)、さらにワールドカップ総合優勝2回、世界選手権個人優勝3回のシュテファン・クラフト(オーストリア)もまた、手強いライバルとなりそうだ。ソチと平昌とで計3つの金メダルを獲得したカミル・ストッフ(ポーランド)は、丸1年勝利から遠ざかっている上に、年頭のトレーニング中に足首を痛めた。出場にさえ黄信号が灯る。

日本男子3人目の個人金メダリストを目指す小林と共に、佐藤幸椰、小林潤志郎、そして人生5度目の五輪参戦となる伊東大貴の3選手も北京五輪の代表入り。ベテランの伊東は、ソチ五輪では団体戦銅メダルのメンバーでもあった。長野の日の丸飛行隊が日本中に感動をもたらしたように、この冬も男子団体戦、さらには五輪初採用となる男女ミックスの混合団体で、日本の素晴らしいチームワークを期待したい。

◆女子:髙梨沙羅、金メダルへ3度目の挑戦

生まれて初めての金メダル。これこそ女子スキージャンプ界の開拓者として、ほぼあらゆる栄光をつかみとってきた髙梨沙羅が、人生3度目の五輪で追い求めるもの。

ワールドカップデビューを果たした15歳で、早くも1勝目を手に入れた。あれからちょうど10年。勝利数は男女通してジャンプ史上最多の61勝に伸びた。シーズン総合優勝は、女子最多の4度を数える。

特にソチ五輪シーズンは、ワールドカップ全18戦中15勝。その他3戦も表彰台乗りと、凄まじい強さを誇った。ところが肝心の大舞台では、強い追い風に翻弄され4位に泣いた。海外勢の急激な躍進で、平昌五輪のシーズンを迎える頃には、以前ほどは勝てなくなった。それでも変わらぬ実力と長い経験とで、髙梨は日本女子ジャンプ界に初めての五輪メダルをもたらした。

もちろん、銅メダルに満足などしていない。「今度こそ金メダル」と宣言し、改めて4年間戦い続けてきた。試行錯誤を繰り返し、ジャンプのスタイルやフォームに変更を重ねたという。時には勝てない日々も続いた。そして2022年1月1日。髙梨は実に約11ヶ月ぶりの勝利をもぎ取った。北京五輪まで約1ヶ月という最高のタイミングで、調子と自信を取り戻した。

北京で髙梨が金メダルをつかみ取るためには、手強いライバルを退けなければならない。圧倒的な優勝候補筆頭に上げられるのは、20歳のマリタ・クラマー(オーストリア)だ。昨年急速に頭角を現し、今季は1月中旬までの9戦で4連勝含む5勝を上げている。

そのクラマーの連勝を止めたのは、昨季のワールドカップ総合覇者ニカ・クリジュナル(スロベニア)だった。17歳で初出場した平昌五輪は7位止まりだったが、4年後の今年はいよいよ成熟期を迎えた。

また、スロベニアは今季序盤にワールドカップ初優勝を飾り、その後も安定して高い成績を続けているエマ・クリネッチや、いまだ未勝利ながら今季は6位以下に落ちたことのないウルサ・ボガタイと、個人、混合団体ともに強力なメンバーが揃っている。髙梨と同い年の25歳で、平昌では髙梨よりひとつ上の銀メダルを手にしたカタリナ・アルトハウスも、今シーズン変わらぬ強さを示し続けている。

日本からは混合団体で世界選手権優勝を経験している伊藤有希を筆頭に、岩渕香里、勢藤優花という頼もしい五輪経験者たちも、揃って北京入りの予定だ。

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