【フィギュアスケート】世界選手権女子シングル:坂本花織が初優勝!浅田真央氏以来の快挙達成

1 執筆者 石川千早弥
坂本花織
(時事通信)

北京2022オリンピック閉幕から約1ヶ月、フランスのモンペリエでISU世界フィギュアスケート選手権が開催された。女子シングルは前半ショートプログラム(SP)を現地時間3月23日、後半フリースケーティング(FS)を25日に実施。日本からは、北京2022と同じく坂本花織(シスメックス)、樋口新葉(明治大学/ノエビア)、河辺愛菜(木下アカデミー)が出場した。

■坂本花織:合計236.09点(1位)

  • SP:80.32点(1位)
  • FS:155.77点(1位)

オリンピック銅メダリストとして出場した今大会。プレッシャーがかかる中でも、SPから圧巻の演技を見せた。ダブルアクセルは出来栄え点(GOE)で満点評価をもらう。他のジャンプも完璧に決め、ステップ・スピンも全てレベル4。遂に80点越えで自己ベストを更新し、キス&クライで中野園子コーチと喜び合った。興奮する坂本を中野コーチが「油断するなよ。わかってる?」と落ち着かせていたシーンも見られた。

2018年のグランプリファイナル、紀平梨花がSPで82.51点の高得点を出した時、坂本は「82点ってすごいね」と口にした。数年後、その80点越えを果たしたのだ。SP直後には「最近FSでノーミスが続いていたので、この流れに乗ってしっかり最後の最後までやりきりたい」と、FSに向けて気持ちを引き締めた。

最終滑走で登場したFSも宣言通り、完璧な演技で会場を沸かせた。演技後は力強くガッツポーズし、こぶしで何度も氷をたたいた。北京2022ではスピンで1つレベルの取りこぼしがあったが、今回はステップ・スピン全てでレベル4を揃えた。GOEがトータル17.58点と、圧倒的な質の高さを見せつけた。

FSでも自己ベストを更新したが、坂本は自分の点数以上に来年の世界選手権の枠取りで日本が3枠取れたことに安堵していた。中野コーチは「今までの花織に勝てたんだからすごい」と、坂本に最高の賛辞を送った。坂本は見事、世界選手権初優勝。日本女子として浅田真央氏以来8年ぶりのことだった。表彰式で『君が代』が流れると、涙を流す姿も見られた。

北京2022が終わって、再びピークを持ってくるのは容易なことではなかっただろう。演技後のインタビューでは、自分に勝てた要因として「今までの練習を信じたのもそうだし、(中野)先生を信じたことも一番大きいと思う」と語った。また、大会にはプログラムの振付をしたブノワ・リショー氏も駆けつけた。直接会って話せたことも坂本の心の支えになったに違いない。坂本は最高の形でシーズンを締めくくった。来季は世界女王としてシーズンに臨む。

■樋口新葉:合計188.15点(11位)

  • SP:67.03点(7位)
  • FS:121.12点(12位)

樋口は4年前、平昌2018シーズンの世界選手権で銀メダルを獲得。今大会の女子シングル出場選手では、唯一の世界選手権のメダリストとして臨んだ。SPの6分間練習の直前には、同じグループで滑る坂本と互いの健闘を誓った。

朝の公式練習でトリプルアクセルが跳べなかったため、SPではダブルアクセルを跳ぼうと決めていたという。その冒頭のダブルアクセルはタイミング合わず、着氷が乱れた。その後は北京2022後に重点的に練習していたコンビネーションジャンプをしっかり決めると、続く3回転フリップも着氷。アクセルでのミスに動揺せず、落ち着いて最後まで滑り切った。しかし、3回転フリップでのエッジエラー判定が響き、SPは7位。演技後のインタビューでは、「今日の分も含め、しっかり集中して気持ちよく終わりたい」と、今シーズン最後のFSに向けて意気込みを語った。

FSではトリプルアクセルやコンビネーションジャンプで転倒。ダブルアクセルがシングルになるなど、ジャンプでミスが続いた。しかし見せ場のステップでは、観客から大きな手拍子が送られた。

キス&クライでは、岡島功治コーチに「気持ちを持っていくのが大変だった」と話すように、国際舞台に何度も立っている樋口でさえ、オリンピック、世界選手権と短期間で2回もピークを持ってくるのは難しかったことだろう。肩を落とす樋口に岡島コーチが「頑張った」と温かい言葉をかけた。しかし、調子が良くなかった中でも、最後まで諦めずに滑り切った。「いつもよりお客さんの声が聞こえましたし、こんなに頑張れるもんなんだなと感じた」と、演技後には感謝の気持ちを述べた。

また、「今回の試合はあまり良くなかったが、今シーズンは成長した1年だったし、モチベーションをどういう風にしたら高められるかを考えながら過ごしてこれたので、絶対に次に生きると思う」と、激動の今シーズンを振り返った。まずは長いシーズンの疲れをゆっくり休めてほしい。そして、また彼女の力強いスケートと、はじける笑顔を見られるのを楽しみにしたい。

■河辺愛菜:合計182.44点(15位)

  • SP:63.68点(12位)
  • FS:118.76点(15位)

北京2022では23位と悔しい思いを味わった。その約1ヶ月後に行われた世界選手権。シニアシーズン2年目の河辺にとって、世界選手権も初出場だった。SPではトリプルアクセルを回避し、ダブルアクセルで臨んだ。予定通り、冒頭のアクセルをきっちり決めると、その後も大きなミスなく滑り切り、演技後は安堵の表情を浮かべた。河辺は演技後のインタビューで、「演技自体は自分の出せるものは全部出せたと思う」と話していたが、ジャンプでアテンションが付いたり、回転不足の判定が取られたりと細かなミスが響き、点数は思うように伸びなかった。

しかし、北京2022でレベル2だったステップは、レベル4の最高評価。スピンも最後の足換えコンビネーション以外はレベル4を獲得した。オリンピックが終わり、ステップやスピンの見直しに取り組んでいた成果が表れた。FSではトリプルアクセルに挑戦し、SP同様、納得のいく演技がしたいと誓った。

FSでは曲が流れるとスピードがぐんぐんと上がり、北京2022の時よりもスピード感が感じられた。挑戦したトリプルアクセルは両足着氷で回転不足を取られたものの、「この大舞台で挑戦できたことが嬉しい」と語った。ジャンプでいくつかミスはあったが、2シーズン続けて滑ったプログラムを情感を込めたスケーティングで締めくくり、フィニッシュポーズ後は小さくうなずいた。河辺の自己ベストからは程遠い点数となったが、転倒しそうになった3回転ループはこらえ、北京2022では1回しか入れることのできなかったコンビネーションジャンプを全て跳ぶことができた。

2シーズン前にシニアデビューするも、新型コロナウイルスの影響で海外での大会での場数を多く踏めなかった。そんな中、17歳でオリンピック・世界選手権と大きな舞台を経験。技術面だけでなく、大会に向けてのピークの合わせ方など、学ぶところが多かっただろう。ダイナミックなジャンプだけでなく、豊かな表現が魅力の河辺。来シーズンどんな成長を見せてくれるか、その活躍に期待したい。

銀メダルはルナ・ヘンドリックス(ベルギー)、銅メダルはアリサ・リウ(アメリカ合衆国)。坂本が1位、樋口が11位で上位2人の合計が13以内だったため、日本は来年の世界選手権の出場3枠を獲得した。

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