「バドミントン全体として、野球とかサッカーみたいに盛り上がってくれたらいいな」
東京2020オリンピックのバドミントン混合ダブルスで、日本代表選手として初めてオリンピックでのメダルを獲得した渡辺勇大(ゆうた)&東野有紗ペア。結成から10年以上が過ぎたふたりは、日本バドミントン界の歴史を切り開き、さらに未来の世代につながる「レール」を伸ばそうとしている。
渡辺&東野はOlympics.comのインタビューの中で、パリ2024オリンピックでの金メダル、さらには「バドミントン全体を盛り上げたい」という思いを語った。
プレッシャーが良い緊張感に
パリ2024オリンピック出場をかけ、バドミントン選手たちは2023年5月1日〜2024年4月28日の期間でランキングポイントを重ねている。「わたがしペア」の愛称で知られる渡辺&東野ペアは、2023年10月3日現在の「Road to Paris」世界ランキングで4位に立つ。
ここまでの戦いを振り返った渡辺は、「非常に良いスタートを切れていると思う。どの大会でも『優勝を目指すという』のが僕らのスタイルなので、かなりいいペースでオリンピックレースというものを楽しめているかなと思います」と、パリに向けて順調に準備を進めていることを語る。
直近9月のチャイナオープン(スーパー1000)では準々決勝でフランスのペアに敗れたが、9月の世界選手権では3位、7月に東京で開催されたジャパンオープンの決勝では、当時「Road to Paris」ランキング1位だったデチャポル・プアバランクロー&サプシリー・タエラッタナチャイ(タイ)を相手に逆転勝利をおさめて優勝。バドミントンの面白さを多くの人に伝えた。そしてふたりは、1982年のジャパンオープンに混合ダブルスが導入されて以来、日本人として初めて表彰台の頂点に立ったのである。
「(オリンピックレースが始まった5月以降)表彰台に上がれていたけど、優勝はできていなくて、やっとジャパンオープンで日本の皆さんの前で優勝できたのはすごく嬉しかったです」と、東野は振り返る。
東京2020では銅メダルに輝き、世界選手権では4大会連続で表彰台。ジャパンオープンでは日本のファンの期待に応えるかのように金メダルを獲得してみせた。
日本バドミントン界の混合ダブルスの歴史を切り開く存在として、重圧を感じることもあるのだろうか?
渡辺は、「もちろんどの試合もプレッシャーを感じていますけど、それが良い緊張感になっています。まったくのノンプレッシャーで試合をしてしまうと、どうしでも自分が浮ついてしまう。ある意味、一定のプレッシャーとか、期待値があるというのはすごくいいことかなと思ってます」と、重圧をポジティブに捉える。
とはいえ、ふたりの中でプレッシャーを感じやすいのは「僕ですね」と渡辺。
「僕は感情が表に出やすいというか、起伏が激しいので、先輩に声かけてもらって『大丈夫』って言ってもらったりとか、『ゆっくりでいいよ』とか言ってもらって気持ちをコントロールすることはあります。自分ではなかなかできないので、先輩にコントロールしてもらっているっていう感じではあります」
そう明かす渡辺の横に東野は座り、肯定するでも否定するでもなく優しい表情を浮かべる。
「野球とかサッカーみたいに盛り上がってくれたらいいな」
今後の目標については、「一番はオリンピックで金メダルを取りたいです」と東野。そこまでの道のりの中でも、メダルを獲得することではなく、各大会で優勝を積み重ねることを目標にする。
「やっとジャパンオープンで優勝できた。最近2位とかベスト4とかばっかりなので、優勝できていない大会で優勝したい」
東野の言葉に続いて渡辺は、「あとは、日本でもっとミックスダブルスが流行ったりとか、バドミントン全体として、野球とかサッカーみたいに盛り上がってくれたらいいなと。そのレールを作る、少しでもレールを伸ばせるような存在になったらいいなと思ってます」と、勝利の先に日本バドミントン界の未来を思い描く。
現在開催中のアジア競技大会では、9月28日からバドミントン競技が始まっている。混合ダブルスは10月2日の1回戦からスタートし、10月5日に準々決勝、6日準決勝、7日決勝を迎える。
わたがしペアを含む世界トップのペアが何組もエントリーしており、準々決勝、準決勝、決勝と進むにつれ、熱い戦いが繰り広げられることになるだろう。
アジア競技大会のバドミントン競技では1966年大会から混合ダブルスが行われるようになったが、これまでに日本代表選手が優勝を飾ったことはない。メダル獲得者を見てみても、日本代表選手の名前は1970年バンコク大会で銅メダルを手にした小島一平さん&栂野尾悦子(とがのお・えつこ)さんペアただ1組。
わたがしペアは10月4日現地時間午前11時にスタートする2回戦が初戦となり、リノフ・リファルディ&ピタハニンチャス・メンタリ(インドネシア)と対戦する。2回戦、準々決勝と勝ち上がれば、10月6日の準決勝では「Road to Paris」ランキング1位、世界ランキング3位の中華人民共和国代表フェン・ヤンジー(馮彥哲)&ファン・ドンピン(黄東萍)と当たることが予想される。
その先でわたがしペアが金メダルを獲得することになれば、日本バドミントン界の新たな歴史を刻むことになる。ふたりの活躍を見届けたい。