東京五輪のマラソン女子日本代表をめぐる争いは、3月8日に行われる名古屋ウィメンズマラソンがいよいよ最終レースとなる。前田穂南、鈴木亜由子に続く3人目の代表枠に入るのは、現時点で第一候補の松田瑞生(みずき)か、それとも松田の記録を超えるランナーが現れるのか。
2019年の大会では岩出玲亜が日本人トップ
名古屋ウィメンズマラソンは、オリンピックや世界陸上のマラソン代表選考としても歴史のある名古屋国際女子マラソンが前身で、2012年から女性限定1万5000人参加のフルマラソン大会にリニューアルした。2012年の第1回大会より、世界最大の女子マラソンとして「ギネス世界記録」を毎年更新し続け、現在は2018年大会に記録した2万1915人がギネス記録に認定されている。
ナゴヤドームをスタートとフィニッシュの場とし、名古屋市博物館、テレビ塔、名古屋城など名古屋のさまざまな名所を回るコースは、アップダウンが少ないことから好記録を狙いやすい大会としてランナーから好評を受けている。
リニューアル後の歴代優勝者を見てみると、日本勢の優勝は2013年大会の木﨑良子ただ一人。2015年から2017年にかけてはバーレーンのユニスジェプキルイ・キルワが3連覇を果たしている。2019年の大会では岩出玲亜(アンダーアーマー)が2時間23分52秒の5位で日本人トップにつけ、8位に福士加代子(ワコール)、9位に上原美幸(第一生命グループ)と続いた。
名古屋ウィメンズマラソンが人気を誇る理由の一つとして、完走者全員に世界のプレミアムジュエラー「ティファニー』のオリジナルペンダントが贈呈されることも挙げられる。フィニッシュ地点でタキシード姿の男性が一人ひとりのランナーにブルーボックスを手渡す光景は、この大会ならではと言えるだろう。このほか、完走賞として日本メナード化粧品から化粧品、ニューバランスから大会オリジナルTシャツが贈呈される。
3人目の代表は松田瑞生か、それとも……
「世界最大規模の女子マラソン」が売りの名古屋ウィメンズマラソンだが、今年に関しては様式が変わる。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、一定の基準を満たした「エリートの部」のみが開催されることとなった。
ただし、一般ランナーにも異例の代替措置が用意された。専用のスマートフォンアプリを利用した「オンライン ウィメンズマラソン」が実施されることとなったのだ。世界中どの場所からも参加可能で、完走したランナーには完走賞などが送付される。
一般ランナーが実際には走らないことにより、東京五輪女子代表の最終選考レースを兼ねる「エリートの部」は、例年以上に緊張感にあふれた雰囲気で行われることが予想される。東京五輪代表は、2019年9月に開催されたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の結果により、優勝した前田穂南(ほなみ)と2位の鈴木亜由子の2名はすでに内定している。残り一枠は、MGCファイナルチャレンジにおいて定められたタイムを突破したなかで、最上位の記録を出した選手に与えられる。
MGCファイナル設定記録は、2017年夏から2019年春までというMGCシリーズ開催期間の日本人女子選手の最速タイムよりも1秒速く設定された2時間22分22秒だ。最終レースである名古屋ウィメンズマラソンを前にした段階では、1月に行われた大阪国際女子マラソンで松田瑞生(みずき)が2時間21分47秒のタイムを出して優勝したため、第一候補となっている。つまり、今大会で松田の2時間21分47秒を上回る選手が現れれば、そのなかの最上位選手が3人目の代表となる。
最有力の安藤友香は3年前の名古屋で自己ベスト
2月13日、「エリートの部」の招待選手が発表された。そのうち日本人選手は8名いるが、最も高い注目を集めているのが安藤友香(ワコール)だ。安藤の自己ベストタイムは8人のなかで最も速い2時間21分36秒。これは松田がマークした設定突破タイムを11秒上回るうえに、3年前の2017年に名古屋ウィメンズマラソンでたたき出した記録であることから、今大会における地の利もある。
一山麻緒は2019年3月の東京マラソンで、初マラソンながら日本選手トップでフィニッシュした。MGCは6位に終わったものの序盤から積極的なレースを見せていたことから、今大会でも天候次第で好タイムを出す可能性は十分に秘めている。リオデジャネイロ五輪マラソン代表の福士加代子は、1月の大阪国際マラソンを25キロ付近で棄権しており、余力を残して今大会に臨んでくる。また、2019年好走を見せた岩出や2010年の名古屋で日本人4位に食い込んだ前田彩里(ダイハツ)、MGC5位の野上恵子(十八銀行)らもスピードレースに挑む準備を整えている。
今大会の「結果待ち」である松田が悲願の代表切符を手にするのか、それを阻む者が現れるのか――。最後まで手に汗握るレースとなりそうだ。