2018年もいよいよ師走を迎えた。12月2日の福岡国際マラソン(男子)を皮切りに、本格的なマラソンシーズンがスタートする。東京五輪の出場枠は男女ともに3名。そのうちの2枠は、2019年9月15日に開催されるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で決まる。すでにMGC出場権を獲得している安藤友香にとって、約10カ月後に迫った“一発勝負”に向けて、重要なシーズンになる。
中学時代から才気を見せるも、スズキ浜松ACで忍者走法に開眼
安藤友香は1994年3月16日、岐阜県海津市に生まれた。実家から海津市立大江小学校までの距離は徒歩で30分。毎日往復1時間の道のりを歩いて通ったことが、健脚の原点だという。海津市立日新中学校ではハンドボール部に入るも、その後、陸上競技部へ転部。2年生と3年生のときに、岐阜県代表として、皇后盃全国都道府県対抗女子駅伝競走大会に出場するなど、中学時代から、その才能の片鱗を見せている。
高校は陸上競技の名門、愛知県豊川高等学校に進学。2010年の全国高等学校総合体育大会(インターハイ)で、3000メートル走に出場し、18位という記録を残している。また、全国高等学校駅伝競走大会に3年連続で出場。1年生のときは2区を任され、区間2位と健闘し、総合優勝に貢献する。2年生では1区を任されて区間11位、チームは2位で連覇を逃したが、3年生のときは1区を走って3位となり、チームは総合優勝を果たした。
高校卒業後はチームミズノアスレティックに所属しながら母校でトレーニングを続けるも、2013年3月末に新興実業団チームの時之栖(ときのすみか)へ移籍。2014年からはスズキ浜松アスリートクラブに所属する。
2016年3月、イギリスのカーディフで行われた世界ハーフマラソン選手権で、日本人トップの10位と健闘を見せると、オリンピック選考会を兼ねた4月の兵庫リレーカーニバル1万メートル走で、日本人トップの2位という成績を残す。このときに注目されたのが、彼女の独特のランニングフォームだった。両手を下げたまま、ほとんど腕を振らない高速ピッチ走法は、「忍者走り」あるいは「乙女走り」と呼ばれ、現在も彼女のトレードマークとなっている。結局、6月に行われた日本陸上競技選手権大会の1万メートル走で13位、5000メートル走で20位と、満足な結果を残せず、リオデジャネイロ五輪への出場はかなわなかったが、2017年から安藤はフルマラソンにチャレンジすることになる。
現役最速ランナーも世界の壁を痛感、からくもMGCファイナリストへ
2017年3月12日、安藤は同年ロンドンで開催される世界陸上競技選手権大会の代表選考会を兼ねた名古屋ウィメンズマラソンに出場した。自身初のフルマラソンで、一般参加としてのエントリーだった。リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得したユニスジェプキルイ・キルワ(バーレーン)が引っ張るレース展開となる。先頭集団を構成していたスズキ浜松ACの同僚、清田真央や、ヤマダ電機の石井寿美が20キロ地点までに脱落。勝負は、キルワと忍者走法の安藤による一騎打ちとなった。
レースの結果は、終盤にスパートしたキルワが安藤を振り切り、2時間21分17秒で大会3連覇を達成した。一方の安藤は2時間21分36秒の2位でフィニッシュした。これは日本歴代4位のタイムに相当し、初マラソン日本女子最高記録を更新することになった。しかし、8月の世界陸上競技選手権では17位と振るわず。世界との壁を痛感する結果となる。
名古屋ウィメンズマラソンの成績は「ビギナーズラック」と書き立てるメディアがある中で、安藤は2018年1月28日に開催される大阪国際女子マラソンにエントリーする。MGCシリーズの対象レースで、日本人1〜3位に入り、2時間28分以内、もしくは4〜6位に入り2時間27分以内で、MCG出場権が得られることもあり、日本女子の現役最速ランナーである安藤は注目を集めていた。ところが、レースは松田瑞生が初マラソンで優勝を達成。2位は、すでにMGC出場権を獲得している前田穂南が入った。安藤の結果は3位。記録は2時間27分37秒で、からくもMGCファイナリストの資格を獲得した。
トラックレースでスピード強化、照準はMGC、そして東京五輪に
上半身の動きが極端に少ない忍者走法。安藤友香のトレードマークだったが、現在はやや腕の振りが大きくなるなど、新たなフォームの導入に着手しているようだ。それと同時に、MGCファイナリストの資格を獲得してからは、スピードを強化するために、トラックの大会へ積極的に参加している。
4月は、金栗記念選抜中長距離大会の5000メートル走で3位、兵庫リレーカーニバルでは1万メートル走にエントリーして9位、織田幹雄記念国際陸上競技大会では5000メートル走で9位。7月にはホクレン・ディスタンスチャレンジ網走大会に出場し、1万メートル走で3位となっている。
こうしたトラックレースの経験を生かし、来年9月以降に行われるMGCで東京五輪出場権を獲得できるか。現在、MGC出場権を得ているのは、大阪国際女子マラソンで競った松田瑞生、前田穂南。そして、関根花観、岩出玲亜、野上恵子、鈴木亜由子、小原怜と、安藤を加えた8名だ。いよいよ本格的なマラソンシーズンに突入する。安藤の活躍とともに、新たなるライバルの出現にも注目したい。