世界フィギュアスケート選手権の見どころ:羽生結弦が打倒ネイサン・チェンに挑む。紀平梨花は最強ロシア勢への対抗を狙う

練習拠点を海外に移した宇野昌磨のパフォーマンスにも注目

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
主要国際大会6冠の「スーパースラム」という偉業を成し遂げた羽生結弦は、2017年以来の世界選手権制覇を狙う

世界フィギュアスケート選手権が今年はカナダのモントリオールを舞台に開催される。男子は3連覇がかかるネイサン・チェンと、王座奪還を期す羽生結弦による渾身の演技が見どころのひとつだ。女子はグランプリファイナルで表彰台を独占したロシアの3人による高難度の演技に注目が集まる。

「スーパースラム」達成で勢いに乗る羽生結弦が打倒チェンなるか

フィギュアスケートの世界一を決する大会が世界フィギュアスケート選手権だ。

男子シングルは、3連覇を狙う王者ネイサン・チェン(アメリカ)を阻止する選手が現れるのか否かに注目が集まる。

チェンは昨年2019年の大会で圧倒的な強さを示して連覇を果たした。ショートプログラム(以下SP)では、予定していた4回転フリップをさらに難易度が高いとされるルッツに変更し、出場選手のなかで唯一の100点超えを記録して首位発進。フリースケーティング(以下FS)では、羽生結弦がルール改正後の世界最高点となる206.10点をたたき出した直後の滑走順だったが、王者チェンは動じず。4本の4回転を成功させるなどほぼパーフェクトな演技を見せ、羽生を上回る216.02点をマークし、合計323.42点で世界の頂点に立った。2019年のチェンはグランプリファイナルで2位の羽生に43.87点の大差をつけて3連覇を達成するなど、絶対王者の地位をより強固なものにしつつある。

打倒チェンに挑む日本勢は、羽生結弦、宇野昌磨、田中刑事の3名だ。

平昌五輪以降、宿敵チェンに先行されている羽生だが、2月の四大陸選手権はチェンが学業優先のために欠場したこともあり、同大会初優勝を飾った。同大会前にはSPとFSの演目を両方とも平昌五輪で演じた曲に戻す異例の措置を取ったものの、これが奏功して男子シングルでは初となる主要国際大会6冠の「スーパースラム」という偉業を成し遂げた。2017年以来の世界選手権制覇に向け、4回転半ジャンプの実施も視野に入れるなど意気込みは強い。

今シーズンの全日本フィギュアスケート選手権王者である宇野は、練習拠点を海外に移したことを理由に四大陸選手権への出場を辞退。新コーチである元世界選手権連覇のスイス人、ステファン・ランビエール氏の指導を受けながら、今大会に照準を合わせて4回転ジャンプの精度を高めている。世界選手権前最後の実戦となったチャレンジ・カップでは、FPで4回転を3本成功させて優勝を飾り、好調ぶりをうかがわせた。

ロシア勢3人の牙城崩しへ、紀平梨花は4回転に挑む

女子シングルは、今シーズンからシニアに転向したばかりのロシア勢3人によるメダル争いが有力視されている。グランプリファイナルではアリョーナ・コストルナヤが世界最高得点で優勝し、アンナ・シェルバコワが2位、アレクサンドラ・トルソワが3位とロシア勢で表彰台を独占した。

3人はともに世界最強のコーチと呼ばれるエテリ・トゥトベリーゼの門下生だが、それぞれ異なる魅力を持つ。コストルナヤはトリプルアクセルを武器にグランプリファイナルとフィギュアスケート欧州選手権の2冠を達成。シェルバコワはロシア選手権のFPで2種類計3度の4回転ジャンプを跳び、見事国内女王に輝いている。トゥルソワは4回転ジャンプの種類の多さで他を圧倒する。グランプリファイナルでは、4種類5本の4回転を組み込む強気な構成で臨んだ。ジャンプの完成度を高めることができれば、男子トップ選手と同等のスコアを出す可能性も秘めている。

日本勢は紀平梨花、樋口新葉(わかば)、宮原知子の3名が出場する。

ロシア勢の牙城崩しに最も期待がかかるのは、昨年4位と惜しくもメダルを逃している紀平だ。グランプリファイナルでは初挑戦の4回転サルコウで転倒、2度着氷したトリプルアクセルの一つが回転不足となるなど精度を欠き、4位に終わった。しかしその後、全日本選手権で優勝、四大陸選手権では日本勢で男女通じて初となる連覇を達成。今大会では4回転ジャンプを取り入れたうえで精度の高いパフォーマンスを披露し、ロシア勢に対抗する展開を狙う。

強化部長も期待を寄せる三浦璃来&木原龍一ペア

ペアには三浦璃来(りく)&木原龍一、アイスダンスには小松原美里&ティム・コレトが出場する。

三浦&木原ペアは2019年8月に結成したばかりだが、初の国際大会となったNHK杯で5位。全日本選手権を制すると、四大陸選手権では8位の成績を残し今大会への切符を手に入れた。日本スケート連盟の小林芳子フィギュア強化部長も「外国のペアと比べても遜色ない」と期待を寄せる。

懸念は世界規模で感染が拡大している新型コロナウイルス問題だ。韓国・ソウルでの開催が予定されていたスピードスケート・ショートトラックの世界選手権は中止となった。世界フィギュア選手権はカナダが舞台であるため開催の可能性は高いが、北米大陸でも多くの感染者が出ている中国、韓国、日本からこの大会にために移動する関係者、そして観客たちが入国管理規制にかかる可能性はゼロではない。世界のトップスケーターが集う最高峰の戦いであるだけに、無事に開催されることが望まれる。

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