テニス4大メジャーであるグランドスラムの第2戦・ローランギャロス(全仏オープンテニス)の女子シングルス決勝で、バルボラ・クレイチコバ(WTAランキング33位、チェコ、大会時、以下同)が、第31シードのアナスタシア・パブリュチェンコワ(32位、ロシア)を6-1、2-6、6-4で破り、ノーシードながら初優勝を飾ると共に、グランドスラム初タイトルを獲得した。
全仏OPシングルス出場3回目のシニアコバは、ダブルスでは、2018年にカテリナ・シニアコバ(チェコ)と組んだ女子ダブルスで初優勝しており、ダブルスプレーヤーのイメージが強かったが、当の本人はそれを良しとしていなかった。
今季、全仏OP直前の前哨戦・WTAストラスブール大会でツアー初優勝を成し遂げたばかりのクレイチコバは、その好調を維持したまま、全仏OP3回戦で第6シードの選手を破るアップセットを演じ、さらに準決勝では対戦相手にあったマッチポイントをしのぎ3時間18分の激戦を制して、初のグランドスラム決勝進出を果たした。
決勝でクレイチコバは、冷静なプレーでボールをコントロールして、グランドスラム出場52大会目で初の決勝進出を果たした29歳のパブリュチェンコワを前後左右に動かしてミスを誘った。
惜しくも準優勝に終わったパブリュチェンコワは、左ひざを痛めていたものの最後までプレーして次のように決勝を振り返った。
「サーブを打った後、左足を着地する時に痛みがあった。今日やれることは全てやった。最も大事なことは、自分自身を信じることだと思います」
25歳で初のグランドスラムチャンピオンになったクレイチコバは、満面の笑顔で優勝トロフィーを高々と掲げた。
「とてもうれしい。夢がかないました。ここで優勝することを夢見ていた。精神的にうまく対処できたことが本当にうれしい。一番のキーだったと思います」
クレイチコバは、サイコロジストを頼ったことによって、テニスコート上でパニックにならなくなったという。“コートに立って、楽しめ。そして、ナーバスになった時には、やるべきことをシンプルに”というアドバイスを受けて、見事実践しながら結果に結びつけた。
大会後、WTAランキングを自己最高の15位へ上昇させたクレイチコバは、シニアコバと組んだ女子ダブルスでも2回目の優勝をして単複2冠となった。女子選手の単複2冠は、2000年のメアリー・ピアス(フランス)以来の快挙だ。そして、ダブルスのWTAランキング1位へ返り咲いた。
■ジョコビッチが5年ぶり2度目の優勝!グランドスラムタイトル19個に
男子シングルスでは、第1シードのノバク・ジョコビッチ(ATPランキング1位、大会時、以下同)が、第5シードのステファノス・チチパス(5位、ギリシャ)を6-7(6)、2-6、6-3、6-2、6-4、2セットダウンからの大逆転で破って、5年ぶり2度目の優勝を果たした。
2セットダウンになって追い詰められたジョコビッチの頭の中では、片や”もうできない、終わった”という声があったが、もう一方で、“まだできる”と自分自身を叱咤激励する声があったという。第3セット以降、驚異的な守備力と攻撃に転じる早さを発揮したジョコビッチは、本来のプレーを取り戻し、1回もチチパスにサービスブレークを許さなかった。
初めてグランドスラム決勝の舞台に立った22歳のチチパスだったが、4時間11分に及ぶ5セットで敗れて、グランドスラム初優勝まであと1歩及ばなかった。ただ、ATPランキングは自己最高の4位に上がった。
「3セット取って、勝たなければいけない。2セットでは本当に何の意味にもならない。今日は負けたけれど、自分のゲームを信じることができる。近いうちに、グランドスラム優勝に到達できると強く信じています」
全仏OP2回目の優勝によって、ジョコビッチは、グランドスラム4大会全てで2回以上優勝するダブルキャリアグランドスラムを達成した。男子史上では、ロッド・レーバー(オーストラリア)とロイ・エマーソン(オーストラリア)以来3人目の偉業で、1968年のオープン化(プロ解禁)以降では初めての快挙となる。
「この功績をとても誇りに思います。たぶん自分のプロテニスキャリアで過ごした功績や経験の中で、トップ3に入るかな」
さらに、グランドスラムタイトル数は19個(史上3位)となり、ロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダル(スペイン)の20個まであと1個と迫った。
「2人のグランドスラムの記録に到達することが、“ミッションインポッシブル”だとは決して思っていなかった。僕は、やり続けるし、追いかけることを続けるだろう。同時に、自分自身の真なる道を切り開いていくだろう」
男女共に全仏OPが終わると、グラス(天然芝)シーズンが始まり、グランドスラム第3戦・ウィンブルドン(イギリス・ロンドン、6月28日~7月11日)へと続いていく。
そして、ジョコビッチには同一年内に全てのグランドスラムとオリンピックを制した選手に与えられる称号“年間ゴールデンスラマー”になれる可能性が残されている。
「あらゆることが達成可能だ。この道のりは、とてつもないもの。ゴールデンスラム達成に良いポジションにある」
果たしてジョコビッチは、ウィンブルドン、Tokyo 2020(東京五輪)、USオープンで優勝して、これまで男子では誰も成し遂げたことのない年間ゴールデンスラムを達成できるのか。34歳にして、最大の挑戦が始まろうとしている。