テニス4大メジャーであるグランドスラムの第2戦・ローランギャロス(全仏オープン)が、5月30日にフランス・パリで開幕する。全仏オープンは、コートサーフェスがレッドクレー(赤土)で開催される唯一のグランドスラムだ。
2020年の全仏オープンは、新型コロナウイルス感染拡大による延期で秋に開催されたが、2021年大会もコロナの影響を受け、本来の日程より1週間遅れで開催される。
その全仏オープンに、日本テニス界を長年牽引してきた錦織圭(ATPシングルスランキング49位、5月24日付け、以下同)が挑む。2021年ヨーロッパでのクレーシーズンに臨んだ錦織は、ATPバルセロナ大会で3回戦、マスターズ1000(以下MS)・マドリード大会で2回戦、MS・ローマ大会で3回戦という結果を残した。MS・マドリード大会1回戦で、錦織は、カレン・ハチャノフ(大会時23位、ロシア)を6-7(6)、6-2、6-2で破った直後に、現在のツアーレベルでの手ごたえや自信を次のように語った。
ナダルの試合の後からは、結構自信は出てきましたね。その前は、ちょっと一杯一杯なところがありましたけど。今日の試合(ハチャノフ戦)もタフな相手にいい試合はできたと思う。ちょっと大変な相手が続きますけど、自信としては、まぁまぁあるかな。先週ちょっと休んで、テニスができなかった分、また振り出しに戻った感じはしてますけど、(ハチャノフ戦の)後半のテニスができていれば、チャンスはあるかなと思いますね。
錦織が挙げた試合というのは、ATPバルセロナ大会(4月19日の週)での、ラファエル・ナダル(3位・スペイン)との3回戦。試合は1-2(0-6、6-2、2-6)で、2時間20分に及んだ激戦の末錦織が敗れた。「クレーキング」と言われるナダルに対して、25本のミスを犯すものの、22本のウィナーを打ち込んでみせた。
そして、バルセロナの翌週(4月26日の週)に、錦織は、出場を予定していたATPエストリル大会(ポルトガル)で練習中に右足を痛めたため出場を見送っていた。
錦織のグランドストロークの調子は戻っている。錦織のバロメーターの一つであるバックハンドストロークのダウンザラインが試合の随所で決まるようになっているし、ポイント展開の起点になっている。さらに、錦織の最大の武器であるフォアハンドストロークでラリーの主導権を握れることも多く、錦織らしいフォアのウィナーも見られる。
ただ、サーブは引き続き課題となっている。サーブの回転やコースを駆使して相手を攻略するプレースメント勝負になる錦織は、よく戦っているが、トップ10レベルの選手と対戦する時、相手が錦織のセカンドサーブをリターンから強打して攻撃してくる場面が多い。
それが如実に見られたのが、MS・ローマ大会でのアレクサンダー・ズベレフ(6位、ドイツ)との3回戦だった。錦織は、第1セットを6-4で先取したが、第2セットは3-1から、ファイナルセットは4-1からそれぞれズベレフに5ゲーム連取を許して、逆転負けを喫した。ズベレフは、リターンウィナーを一発で奪うわけではなかったが、リターンから攻勢に出てラリーを制した。
さらに、サービスキープがままならなかった錦織とは対照的に、ズベレフは、試合終盤でも時速210km台や220km台のサーブを打ち込んで、リターンの名手である錦織のミスを引き出すサーブ力があった。
これで錦織は、対トップ10選手11連敗となった。錦織のトップ10選手からの勝利は、2018年11月に開催された男子ツアー最終戦・ATPファイナルズでのラウンドロビン(総当たり戦)でのロジャー・フェデラー(当時3位)戦まで遡らなければならない。
ちなみに、現在31歳の錦織が、トップ10選手との対戦する時の印象を語ってくれたが、今もなお、ナダルとノバク・ジョコビッチ(1位、セルビア)は強大な存在になっている。
とりあえず3段階ぐらいに分けると、ナダルとジョコがいて、そこはいつでもあんまりやりたくないんですけど。一番やりたくないのが2人。そこから下はトップ10では同じぐらい。ちょっとやりたくないぐらい。トップ10以降はいつでもいいよ。そんな感じかな。
昨年9月の全仏オープン2回戦で敗退した際、錦織は「結果なんかどうでもいい」と珍しく声を荒げた。当時はまだ手術した右ひじからの復帰過程であり、自分のテニスの感覚を取り戻すことを最優先にしたいがゆえの発言であった。
だが、今の錦織は、もはや復帰過程の選手ではなく、それを理由に結果が出ないという言い訳はもうできない。ジリジリと錦織のランキングは後退しており、トップ50陥落寸前まできている。
ちょっと今回(ローマ)も含め、そんなに試合に勝っていないので、何となく自信という面では、ちょっと今はなかなか目標を掲げづらい。なるべく多く勝てたらという感じぐらいですかね。
こう錦織が語るように、クレーシーズンで思うような結果が残せず、全仏オープンに向けて理想の準備はできなかった。そして、今回の全仏オープンでも、錦織はシード(グランドスラムのシードは32まで)を獲得できず、ノーシードでの出場となる。1回戦で上位シード選手との対戦は避けたいところだが、こればかりは運に身を任せるしかない。何とか一つでも多く勝ってはい上がっていくしかない。
5月17日に自身の公式アプリで、妻の舞さんとの間に第一子を授かったことを発表した錦織は、テニスでのさらなる活躍を誓ったが、果たして、全仏オープンで有言実行できるだろうか。今、錦織に必要なのは大きな結果と大きな自信だが、パリでその両方の獲得を目指す。