2008年北京五輪から正式競技として採用された自転車競技のBMXレース。子どものころから競技に親しみ、海外で力をつけたことから、2020年東京五輪でメダルが狙える選手のひとりとして数えられているのが、長迫吉拓(ながさこ・よしたく)だ。国際大会での実績に加えて、前回の2016年リオデジャネイロ五輪に出場経験もある。一時はトラック競技とBMXレーシングの二刀流選手として活躍していたが、今は東京五輪に向けてBMXレーシングに専念しているという。
2018年アジア大会で優勝
2018年8月、インドネシアのジャカルタで開かれたアジア大会で、長迫はBMXクロスで、33秒669のタイムを出し、2位に0.645秒差で勝って、自転車日本勢として初となる金メダルを獲得した。長迫はシーディングラン(準々決勝の組分け)を首位で通過し、モト(3回行われる第1回戦)でも安定した走りで首位をキープ。決勝ではトップに躍り出た第1コーナー前から積極的な走りを見せ、その後も激走を続けて、首位をもぎ取った。
各国選手がレベルを上げてくる中、2016年リオデジャネイロ五輪を経験した選手として、長迫にはプレッシャーがひときわ大きくのしかかっていた。しかし、その重圧をはねのけて優勝したことで、東京五輪に向けてのいいステップが踏めたという。
幼少期からBMXに親しむ
長迫吉拓は1993年9月16日、岡山県の生まれ。BMXに初めて乗ったのは4歳のときだ。父の経営するバラ園の近くにコースがあり、遊びに行ったのがきっかけだったという。すぐ本格的に競技を始め、地元で行われるレースに参加した。海外レース初体験は9歳のときで、ナショナルチームには17歳のときにジュニアリトルで入った。
WCCで特訓、スポンサー探しでは苦労人
2011年には、アジアBMX選手権大会ジュニア部門で優勝、全日本BMX選手権大会エリート・ジュニア混合で優勝するなど、選手としての足場を固めつつ、2012年には18歳でスイスにある国際自転車連合(UCI)に併設されているトレーニングセンター「ワールドサイクリングセンター(WCC)」に拠点を移した。WCCでは約10人の選手でチームを組み、定められたプログラムに基づいた食事やトレーニングをこなし、オフタイムも一緒に過ごしていたという。
長迫は、同年開催のロンドン五輪出場を目指していたが、願いは叶わなかった。その年のうちに帰国し、プロ選手として生きていくために、自ら練習の合間にスポンサーを探し、練習後にはアルバイトに明け暮れる日々を過ごした。2014年、ユニクロという強力なスポンサーを獲得し、2018年にはワールドサイクルセンターに再び拠点を戻した。
また、自身のYoutubeチャンネルでBMXの映像を発信し、競技普及にも務めており、デジタルネイティブ世代のアスリートらしい顔も持つ。
もうひとりの強化A指定選手、中井選手は7歳下
強化指定選手の中にも同じ1993年生まれの選手がいる。しかし、いずれもB指定。長迫とともにA指定となっているのは、7歳下の中井飛馬のみだ。開催国枠はひとつ。同国での最多競技者数は3あるため、中井と出場争いをするかもしれないし、ともに出場することになるかもしれない。
中井も小学生から競技を始め、世界選手権にも出場、海外でトレーニングを積んでいる。テクニックには「同年代でナンバーワン」と強い自信をのぞかせる。2017年には世界選手権 ジュニアエリート 4位で日本人歴代最高位を獲得するなど、結果も上々。年齢差はあるものの、長迫にとって、東京五輪に向けてのライバルと言えるかもしれない。
トラックとBMXレーシングの二刀流
WCCのあるスイスは、冬の間に雪が積もる。長迫は気分転換でトラックの自転車に乗ってみた。そこで楽しさを覚えたことや、タイムもよかったことから勧誘を受けて、本格的にトラックも始めることになった。やがて「自分だけしかできないこと」と二刀流を宣言し、話題づくりにも貢献。トラック競技のチームスプリントで世界選手権へ出場も果たし、「オリンピック2種目出場」という前人未到の大きな目標が競技を続けるモチベーションになっていた。
しかし、2018年のアジア大会でトラックのナショナルチームとして参加できなかったことや、BMXレーシングに専念したいとの気持ちが強まり、長迫は2020年東京五輪のターゲットをBMXレーシングに絞った。ただ、トラック競技をやめたわけではなく、「東京五輪が終わってから、トラックに戻ってくるかもしれない」と公言している。
2018年、日本人初の快挙
主な戦績としては、2011~2015年、2017年にBMXレーシングの全日本チャンピオンを決める全日本選手権で6度目の優勝を果たした。2013年の世界選手権では7位入賞。2014年にはヨーロッパ選手権で表彰台4回、ワールドカップ第3戦タイムトライアルで準優勝。この成績が評価されて、リオデジャネイロ五輪にも出場したが、準々決勝で敗退した。そして、2018年アジア大会での優勝は日本人初の快挙となった。
BMXレース専念で欧米の壁を突破したい
一時は二刀流を宣言していた長迫だが、BMXレーシングへの専念を決めた。今後、彼の走りには、より磨きがかかることだろう。開催国枠で選手ひとりの出場は確保されている。長迫にはすでにそこに入るだけの実力はあるはずだ。2018年のアジア競技大会での優勝は確かに快挙だった。ただ、東京五輪では自転車競技の本場である欧米の選手が長迫の前に立ちはだかってくるだろう。果たしてそこを突破できるかは、今後1年間の仕上がりにかかっている。長迫はどこまで迫れるのか、彼の挑戦を見守ろう。