BMXフリースタイル注目選手、日本のシーンの未来をダイナミックなトリックに託す

東京五輪で日本勢のメダル獲得はなるのか?

バイシクル・モトクロスと呼ばれ、オートバイのモトクロスの影響を受けてアメリカで誕生した20インチの小径車BMX。このBMXにまたがり、起伏のあるコースで着順を競うレースに対して、2020年東京五輪で初めて導入されるフリースタイル・パークは、曲面やスロープを複雑に組み合わせたコースで、さまざまな技を披露し、体操競技のようにその技の難易度や独創性などを基準にした点数を競う。エクストリームスポーツのひとつに数えられ、X Gamesの種目としても有名だ。欧米ほど自転車競技が広がっていない日本において、まだまだBMXは、マイナースポーツということは否めないが、東京五輪で活躍が期待される有望選手もいる。

空中でのアクロバティックな技は見応え十分

自転車は18世紀末にヨーロッパで生まれ、貴族たちにスポーツとして楽しまれるようになり、やがて競技として確立された。アメリカでも普及し、第1回となる1896年のアテネ五輪から正式競技として、ずっと実施されてきた。言ってみれば、陸上競技や競泳と同じぐらいに伝統のあるスポーツなのだ。

1990年代以降、自転車競技は矢継ぎ早に、「改革」と「種目の追加」が行われ、同時に注目度が高まった。1992年バルセロナ五輪からプロ選手の参加が可能になり、1996年アトランタ五輪からはマウンテンバイクが導入された。さらに2000年シドニー五輪ではトラック種目に日本発祥のケイリンが、2008年北京五輪からはBMXレースがそれぞれ種目に加わる。2020年東京五輪ではトラック種目でマディソンが、BMX種目でフリースタイル・パークの追加が決定した。

その中でもBMXは、ファッションや音楽との親和性が高い都市型スポーツとして若者から人気を集めている。平らな場所での連続したトリック(ジャンプ、空中動作、回転技など)を行う「フラットランド」、ランプやクォーターパイプなどを使用して、空中でのトリックを行う「バート」、ジャンプ台などのセクションが設置されたエリアで、トリックを決める「パーク」の3種類の競技に細分化されている。今回東京五輪で採用されたのは、「パーク」のみとなっている。

選手たちは、ジャンプ中に縦回転の「バックフリップ」や、横回転の「360」などに挑戦し、自転車だけを回転させる「テールウィップ」や、ハンドルを回す「バースピン」など、難しい技を組み合わせたパフォーマンスを披露。採点では難易度、完成度、高さ、コンボ数、着地の安定性などが重視される。

東京五輪の出場資格は、2018年11月から2020年5月までに開催される世界選手権の中から、上位3大会のポイントの合計によるランキングなどをもとに、男女それぞれ8人が選出される。日本は開催国枠として、男女それぞれ1人が割り当てられているため、男女とも9人でメダルを争うことになる。やはり、国内で広く認知され、人気を集めている欧米諸国の代表選手に分があることになるが、2018年10月時点の国別世界ランキングで、日本人選手は女子が3位、男子が7位につけている。日本が本格的にメダル争いに加われるのか、そして、出場枠を増やせるかどうかは、今後の「伸びしろ」にかかっていると言えるだろう。


若手からベテランまで、今後のシーンを担う注目株が続々

現在、日本自転車競技連盟が東京五輪に向けて強化選手に指定しているのは、中村輪夢、高木聖雄(たかぎ・としお)、西昂世(にし・たかせ)、大霜優馬、大西勘弥、上田崇人の男子6選手と、女子は大池水杜(おおいけ・みなと)だ。この中で、注目度が頭ひとつ抜けているのが、男子最年少エリートライダーとして国内トップスキルを持つ中村と、女子ではライバル不在のポジションにまで上り詰めた大池の両選手だろう。今回は中村に続く注目の5選手、高木、西、大霜、大西、上田を紹介しよう。

高木聖雄(たかぎ・としお)

1989年生まれ、岐阜県出身。無類の自転車好きで、ジャンプなどハードな乗り方をし続けたせいで、自転車が壊れてしまうほどだったそうだ。14歳のときに、新しくBMXを購入したことから、その魅力にはまった。練習を重ねて、17歳で日本のプロクラスに昇格。2010年からは海外での修行やコンテストに取り組み、腕を磨いて、2011年の全日本コンテストで初めて優勝し、その後、4年連続で日本人チャンピオンに。2014年にはアメリカのシリーズコンテストで準優勝となり、プロクラス昇格を果たした。2015年からは国際大会に積極的に出場し、2018年にはKoastal JAM オープンクラスとChamploo Game 2018でそれぞれ優勝している。

西昂世(にし・たかせ)

1989年生まれ、三重県出身。中学2年生のときに、友人からBMXを紹介されたことで興味を持った。毎日のように乗って遊んでいたが、短大に進学した19歳のときに出会ったプロライダーに刺激を受け、競技として取り組むようになったという。自動車整備士として働きながら、自宅敷地内に全国からライダーが訪れるほど本格的な練習場を自作するほどの熱の入れようだ。2018年に全日本チャンピオンに輝いた。

大霜優馬(おおしも・ゆうま)

2001年神奈川県生まれ。現在、第一学院高等学校甲府キャンパスに所属。子供の頃からBMXに親しみ、ライダー歴は2019年の時点ですでに12年になる。海外での大会にも積極的に出場しており、2018年にはアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催された第3回ユースオリンピック競技大会に出場し、丹野夏波(たんの・かなみ)選手とのペアで銅メダルを獲得。この種目がオリンピック形式で行われるのは初めてで、日本のユースオリンピックにおける自転車競技初のメダル獲得となった。

大西勘弥(おおにし・かんや)

1984年生まれ。愛知県の企業に勤めながら、BMXに取り組む。2016 年 BMX Park Street Contest エリートクラスで優勝、2017年には中国で開かれたワールドカップに出場。シート上にうつ伏せになり、空を飛んだような体勢をとるトリック「スーパーマン」を得意とする、イケメンライダーとして人気。

上田崇人(うえだ・たかと)

2002年福岡県生まれ。九州産業高校に在籍。独自のスタイルで近年、頭角を現してきた若手有望株。2017年のワールドカップにも出場しており、中村、大霜とともにBMX高校生トリオとして期待を背負っている。2020年東京五輪を18歳で迎える。さらなる成長と、将来の活躍が嘱望されている。

競技人口拡大の契機に

国内ではまだまだ認知度が低いスポーツだが、若い選手が続々と頭角を現しており、東京五輪が近づくにつれて、注目度が増すことは間違いないだろう。ファッションや音楽との親和性が高いこと、自転車でダイナミックに宙を舞う競技本来の醍醐味が広まれば、今後も若者を中心に競技人口も増えていくだろう。開催国枠が確保されている東京五輪で、しっかりと爪あとが残せるように、日本勢の活躍に期待がかかっている。

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