BMXフリースタイル・パークとは
若者離れ、開催地問題など、課題が山積する自転車界の中で、若者に人気の都市型スポーツとして注目を集めているのがBMXフリースタイルだ。BMXとはBicycle Motocross(バイシクルモトクロス)の略で、自転車競技の一種であり、レースとフリースタイルの2つに競技は分かれる。レースは速さを競い、フリースタイルは技を競う。
さまざまな技を披露し、その難易度、独創性を競うフリースタイル。種目はさらに細分化され、平らな場所で連続したトリックを行う「フラットランド」、ランプやクォーターパイプなどを使用して、空中でのトリックを行う「バート」、そして、ジャンプなどのさまざまなセクションが設置されたパークでトリックを行う「パーク」の3種目がある。
フリースタイルの中でも、今回新たにオリンピックに採用された種目は、曲面やスロープを複雑に組み合わせた施設で行われる「パーク」だ。ジャンプ中に縦回転のバックフリップ、横回転の360に、自転車だけを回転させるテールウィップや、ハンドルを回すバースピンなどを組み合わせたトリックが主流となっており、1分間にトリックをいくつも行い、点数を競う。自分の演技構成を組み立て、なおかつ、他の選手とは違った技をすることが勝利の鍵となる。これまで速さを競うことに主眼が置かれていた自転車競技だが、技の難易度や独創性が採点の対象となり、選手がどのような技を繰り出してくるのか、多様な見どころがある競技だ。
そもそもBMXは、1970年代初頭にアメリカで登場したといわれている。さほど歴史が古いわけではないスポーツなのだ。日本のBMXシーンは「本場」のアメリカなどと比べると、まだまだ規模も小さく、問題が山積している。しかし、最近では日本でもBMXで活躍する選手が増え、競技人口やイベントなどで徐々に機運が高まりつつある。今回東京五輪の正式種目に名を連ね、注目が集まる状況が生まれている。
2020東京五輪で注目したい日本人ライダー
歴史が浅く、規模も小さい日本のBMXシーンだが、そんな中でも世界と肩を並べて、活躍している日本代表選手がいる。東京五輪代表選手の筆頭として名が挙がるのが中村輪夢だ。2002年2月9日生まれ、16歳の若きホープである。
BMXライダーでBMXショップも経営している父親の影響で、3歳から自然とBMXに乗り始めた中村。5歳で大会に初出場をすると、小学校高学年の頃には、キッズ クラスにおいてすべての大会で優勝。中学生でプロ転向を果たした。2015年にはBMXの本場アメリカで行われたRECON TOURの13〜15歳クラスにおいて優勝し、その世代の世界一に。2016年には世界の強豪も参戦したG-Shock Real Toughnessで優勝を飾り、日本中を驚かせた。2017年の11月に開催された第1回世界選手権では、最年少でファイナルに進出し7位入賞。12月に開催された全日本選手権では初代チャンピオンに輝いた。国内のみならず、国際大会にも積極的に挑戦し、日本代表の最有力選手であるだけでなく、メダル獲得に大きな期待が寄せられている。
その中村と並び期待をかけられるのは、30歳を迎え円熟味を増すトップライダーの高木聖雄(たかぎ・としお)だ。17歳で日本のプロクラスに昇格すると、海外修行や幾多のコンテストに挑戦。2011年全日本コンテストにて日本チャンピオンになる。その後4年連続で日本人チャンピオンに。2014年には、アメリカのシリーズコンテストで準優勝、プロクラス昇格を果たしている。自身が目標に掲げる世界一に向け、日々挑戦を続けており、東京五輪がキャリア集大成の場になるかどうかに注目したい。
中村と同年代の若いライダーからも目が離せない。2017年、山梨で行われたYBP GAMESのダートジャンプ部門で日本人1位に輝いた大霜優馬。2018年、中国で行われたワールドカップに、中村と一緒に出場した上田崇人も、東京五輪での活躍が期待されている。その下の年代には、世界大会準優勝の実績を手に入れた密岡奏央という小学6年生のスーパーキッズも控えている。
日本のBMXフリースタイルのガールズシーンを牽引しているのが大池水杜(おおいけ・みなと)選手だ。2017年のUCIワールドカップ(中国)で、ワールドカップ初出場ながら、決勝に進んで5位に。続くUCIアーバンサイクリング世界選手権では予選2位、決勝4位と、メダルに手が届く成績を残し、東京五輪のメダル候補として注目を集めている。
中学2年生でBMXに乗り始めた大池は1997年生まれ。2018年にフランスで行われたフリースタイルワールドカップで、日本人初優勝という快挙を成し遂げた。ビッグタイトルへの期待は大きい。
大きな盛り上がりを見せるBMXシーン
スポーツクライミングや3by3バスケットボールなど、若者に人気の高い都市型スポーツが初開催されることになった2020年東京五輪。BMXフリースタイル・パークが、そのひとつであることは言うまでもない。
2018年、BMXに関するビッグニュースがいくつか伝えられた。ひとつは世界大会のFISE(エクストリーム・スポーツ国際フェスティバル)が広島で開催されたこと。広島で開催された世界大会は、前夜祭も含めると、8万6000人もの大観衆が来場し、今までにない盛り上がりを見せたそうだ。もうひとつは、2024年パリ五輪の新種目として「BMXフラットランド」が正式採用されたこと。2008年北京五輪から採用されたBMX「レース」、東京五輪から正式種目となる「フリースタイル・パーク」「ストリート」に続いて4種目めとなる。BMXに対する期待の高さがうかがえる。
東京五輪まで残り1年となった。BMXフリースタイル・パークの出場人数は、男子9人、女子9人の計18人に決まっている。日本が出場するためには、UCI(国際自転車連合)ポイントを獲得し、東京五輪への切符を手にする必要がある。
オリンピックの正式種目になったことで、急速に「競技化」が進んでいるBMXフリースタイル。ルールや勝敗などの難しいことは考えず、世界のトップライダーが披露する高難度なトリックを、観客として純粋に楽しむのが正解ではないだろうか。選手たちも観客が楽しむことを一番望んでいるに違いない。