東京五輪で新競技として追加される空手競技において、突出したスター性を発揮するのが西村拳(けん)だ。突きや蹴りなどの技を繰り出し対戦する「組手(くみて)」で圧倒的な成績を誇り、そのビジュアルも相まって絶大な人気を誇る。元世界王者の父との関係、そしてルックスへのこだわりを紹介する。
両親とも空手経験者。エリートのDNAを引き継ぐ
1995年の大晦日、福岡県福岡市にて未来の空手界を背負って立つ男が誕生した。
西村拳(けん)の父は、1982年の世界空手道選手権の組手70キロ級を制した西村誠司さん。息子の誕生時は福岡大学の空手道部の監督を務めていた。1989年からは自身の「拳誠塾」で指導している。母の真理子さんも国民体育大会の出場経験を持つ。10歳上の長男、誠太と、8歳上の次男、翔も空手を習っており、文字どおり空手に囲まれて生まれてきたのが拳だった。
わずか3歳で道着に袖を通した少年は、福岡大生の練習の邪魔にならないよう、時には柱にくくりつけられたこともあったという。5歳からは父が福岡大の監督の座を降り、「拳誠塾」で子どもの指導も行うようになったため、親子そろって道場に出向いていた。
ただし、当時は華奢で線が細く、血を見るのが大嫌い。「闘い」という言葉とはほど遠かった拳は、小学4年次に初めて出場した国際大会で完敗を喫してしまった。
この経験で初めて悔しさを味わったのか、本気で空手に取り組むようになった。「毎日空手をすること」を条件に、それまで週2回通っていた学習塾をやめ、以降一度もサボらずに道場に足を運ぶようになった。
父いわく「三兄弟のなかでも拳は特に研究熱心」。稽古から帰宅すると、ビデオで自分の試合をチェックし、兄2人にもアドバイスを求めたという。片江中学校の3年次にはついに努力が実を結ぶ。アジア大会に初めて日本代表として出場し2位に入ると、中学卒業後は親元を離れ、空手の名門、宮崎第一高等学校に進んだ。
名門の高校と大学で鍛えられ、ついには世界ランク1位に
宮崎第一高では本人が「地獄だった」と振り返る猛練習の日々を乗り越え、得意の上段蹴りを武器に、輝かしい実績を積み上げていく。インターハイという呼称で知られる全国高等学校総合体育大会での個人優勝に加え、国体では2連覇を達成する。近畿大学に進学後は全日本学生空手道選手権で個人と団体を制し、2018年の世界選手権では団体戦での銀メダル獲得に大きく貢献した。
2016年以降はKARATE1プレミアリーグの5大会で優勝を達成。世界ランキング1位タイに立った経験もある。現在は空手のビデオや書籍等を販売するチャンプに所属し、東京五輪に備える。
世間の注目を浴びるのは、その実力だけではない。「人間は見た目から入る。どこに出ても恥ずかしくない格好でいなさい」との母の教えを守り、髪型やファッションにもこだわりを見せる。仲間から「チャラい」とからかわれることもあるが、その端正なマスクで新たなファン層を取り込んでいることも確かだ。インスタグラムで見せる今どきの若者らしい素顔も魅力と言っていい。
以前メディアに話したとおり、「空手=無骨というイメージを覆したい」という思いがある。かつて「闘い」が苦手だった空手家は華麗な技を繰り出し、美しい戦いで表彰台の頂点をめざす。
選手プロフィール
- 西村拳(にしむら・けん)
- 空手 男子組手75キロ級
- 生年月日:1995年12月31日
- 出身地:福岡県福岡市
- 身長/体重:180センチ/73キロ
- 出身校:片江中(福岡)→宮崎第一高(宮崎)→近畿大(大阪)
- 所属:チャンプ
- オリンピックの経験:なし
- インスタグラム:Ken Nishimura 西村 拳(@ken_nishimura1231)
- ツイッター:西村 拳(@KaratekingKen)