空手は東京五輪で新競技として追加される。そのうち2人で相対し、突きや蹴りなどの技の攻防を繰り広げポイントで勝敗を決める「組手」の種目において、松濤館流(しょうとうかんりゅう)という流派で戦い、女子61キロ超級での日本代表に選ばれているのが植草歩(あゆみ)だ。競技の虜となった原点、そして才能を開花させてきた歩みを振り返る。
父は「やりたいと言うのなら、やめさせないよ」
植草歩(あゆみ)は1992年7月25日に千葉県八街市(やちまたし)で産声をあげ、小学3年生の時に空手との運命の出合いを果たした。
幼いころからスポーツ万能で、学校では陸上クラブに所属して短距離走や走り幅跳びの選手として活躍。ピアノや水泳教室にも通っていたが、どちらかというと「楽しくやるためのもの」程度だった。そこで一番興味をひかれたのが、幼なじみの友人とともに通うことを決めた空手だったという。何事も器用にこなしながら、一方で飽きっぽい一面もあった娘に対し、父は「やりたいと言うのなら、やめさせないよ」と覚悟を求めた。
しかし父の不安をよそに、練習初日から確かな才能を見せ、すぐに競技にのめり込んだ。師範の持ったミットを目がけて突きを放った時の、パーンと言う鮮やかな音が心地よかった。植草自身は当時をこう振り返ったことがある。
「師範には怒られた記憶がないです。たとえ試合に負けても『歩は強いから負けたんだ』って。体が大きかったので、突きや蹴りがどうしても相手に当たってしまって、反則負けをすることが多かったからかもしれません」
父も娘の頑張る姿に心を動かされた。週2、3日、時に深夜近くまで及ぶ練習に付き合い、車での送迎を欠かさなかった。父は「娘が空手に熱中しているのを見るのが楽しかった」と話す。
周りのレベルの高さにショックを受けた大学時代
突きの鋭さに定評がありながらも、反則負けを喫するなど粗削りな部分があったが、柏日体高等学校(現日本体育大学柏高等学校)に進学し、技術に磨きをかけていく。体の大きさを生かすだけでなく、駆け引きを学び、本人は「本能で戦うだけでなく、考えながら戦う空手を教わった」と語る。そして高校3年次にはインターハイの通称で知られる全国高等学校総合体育大会で3位に入り、直後の国民体育大会で初の頂点に立つ。
卒業後は空手の名門、帝京大学に進学したが、入学後に周りのレベルの高さにショックを受けた。初めて挫折を味わった。やめたいと思ったことも何度もあったが、仲間やコーチに支えられ、「あと一週間だけ頑張ろう」と繰り返し思ううちに、全日本学生空手道選手権、世界学生空手道選手権で優勝と圧倒的な結果を残すようになっていった。
大学最後の年の両大会では1位になることができず、節目で大きな屈辱を味わった彼女は本気で引退を考えたという。
だがちょうどそのころ、東京五輪開催が決定。もう迷いはなくなっていた。卒業からちょうど5年後の2020年3月、女子組手61キロ超級でのオリンピック出場を内定させた。
インスタグラムやtwitterでは今どきの若者らしくキュートな一面を見せる。2018年1月1日から芸能事務所ホリプロのスポーツ文化部に所属し、日本空手道の顔役としてマスメディアに登場する機会も多い。しかしその強さは折り紙付きだ。「空手が強い人は心が強い」と考えている。強くて可愛い空手界のヒロインは表彰台の頂点をにらむ。
選手プロフィール
- 植草歩(うえくさ・あゆみ)
- 空手 女子組手68キロ超級(東京五輪では女子組手61キロ超級に出場予定)
- 生年月日:1992年7月25日
- 出身地: 千葉県八街市
- 身長/体重: 166センチ/66キロ
- 出身校:八街中央中(千葉)→柏日体高(千葉)→帝京大(東京)
- 所属: 日本航空
- オリンピックの経験:なし
- インスタグラム:植草歩 uekusa ayumi(@ayayumin0725)
- ツイッター:植草歩(@ayayumin)
- フェイスブック:植草歩 Uekusa Ayumi(@ayayumin0725)