永瀬貴規:目で技術を学んだ少年時代。文武両道を貫いた柔道家は2度目のオリンピックで優勝を狙う【アスリートの原点】

親戚と兄の影響で柔道の道へ

筑波大学3年次の2014年12月にはグランドスラム東京で優勝を果たしている

リオデジャネイロ五輪の柔道男子81キロ級で銅メダルを獲得した永瀬貴規(たかのり)。少年時代は先に競技を始めた兄を含め、年上の選手たちの技をつぶさに観察することで腕を磨いた。東京五輪で金メダルを目指す柔道家、その若き日々を振り返る。

年長者の試合から技術を学ぶ

2019年は充実した1年だった。3月にグランドスラム(GS)エカテリンブルグ(ロシア)で準優勝を収めると、7月のグランプリ(GP)モントリオール(カナダ)とGPザグレブ(クロアチア)、10月のGSブラジリア(ブラジル)と11月GS大阪の4大会で金メダルを獲得した。

東京五輪の柔道男子81キロ級で頂点を狙う永瀬貴規は1993年10月14日、国家公務員の父・政司さんと、テニスで全国大会出場経験のある母・小由利さんの間に生まれた。出身は長崎県。親戚が長崎市の養心会少年柔道部で先生を務めていたこと、兄が少し先に柔道を始めていたこと、そして自身も親族に声をかけられ、6歳の時に柔の道を選ぶ。

永瀬自身は「道場の先生が怖かったし、練習で痛い思いをするのはつらかった」と当時を振り返るも、向上心は群を抜いていたようだ。母の小由利さんは、目で技術を学ぶ姿勢が強かったと言う。小学校低学年の試合は早い時間に終わる。しかし永瀬少年は大会会場を去らず、兄や高学年の試合を観察した。高校の長崎県大会がTV放送されれば、それを録画して技や戦い方を研究する。

勉強熱心な柔道少年は、小学生、中学生時代に長崎県代表として全国大会に出場。中学校には柔道部がなかったものの、柔道部のある高校の練習に参加して腕を磨いた。年上との稽古で実力を付け、全国でも知られる存在となっていく。

高校で文武両道を貫き、筑波大学へ

長崎日本大学高等学校に入学する際の目標は「九州大会での優勝」。だが、永瀬少年の腕を見込んだ柔道部の松本太一監督は「全国制覇を狙おう」とたきつけた。すると1年次に、全国高等学校柔道選手権大会の81キロ級で優勝を果たす。3年次の2011年にはインターハイ(全国高等学校総合体育大会)の同階級を制した。同年の講道館杯全日本柔道体重別選手権大会では高校生ながら3位入賞。シニア強化選手に選ばれるなど、有望株として注目を集めた。

高校では国公立大学進学クラスで学び、文武両道を貫いた。2012年には国立の名門として知られる筑波大学に進学。新たな環境でさらなる飛躍を果たすのに、長い時間はかからなかった。2年次の2013年7月にはユニバーシアード競技大会で優勝。11月には講道館杯全日本体重別選手権大会とGS東京を制す。この時にはすでに、3年後のリオデジャネイロ五輪を意識するようになっていた。リオデジャネイロ五輪では準々決勝で敗退。敗者復活戦で銅メダルを獲得したが、もちろん満足などしていない。「初めから自分らしさを出せていたら、結果は違っていたかもしれません」と反省の弁。金メダルを首にかける選手を見て、ただただ悔しさが募った。

東京五輪の選考対象だった2020年2月のGSデュッセルドルフ(ドイツ)は初戦敗退。しかし2019年の好成績が考慮され、全日本柔道連盟(AJJF)は男子81キロ級の代表に永瀬を内定した。その後、東京五輪は1年程度延期が決定。しかし永瀬は「延期の不安要素はない」と言い切り、むしろ準備期間が長くなったことをポジティブに捉えた。「練習で痛い思いをするのはつらかった」と感じていた柔道家は2021年夏、金色に輝くメダルをつかみにいく。

選手プロフィール

  • 永瀬貴規(ながせ・たかのり)
  • 柔道 男子81キロ級
  • 生年月日:1993年10月14日
  • 出身地:長崎県
  • 身長/体重:181センチ/81キロ
  • 血液型:A型
  • 出身校:長崎大教育学部附属小(長崎)→長崎大教育学部附属中(長崎)→長崎日大高(長崎)→筑波大学(茨城)
  • 所属:旭化成
  • オリンピックの経験:リオデジャネイロ五輪 柔道 男子81キロ級 銅メダル
  • ツイッター(Twitter):永瀬貴規 (@nagataka1014)

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