今井美穂:現役小学校教諭がオリンピックへ|自転車競技挑戦は大学卒業後【アスリートの原点】

学生時代は長距離や七種競技でオリンピックを目指す

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
自転車競技を始めたのは大学卒業後。もともとは陸上競技で世界の舞台を目指していた

1996年のアトランタ五輪から採用され、比較的歴史の新しい競技である自転車マウンテンバイク・クロスカントリー。日本は東京五輪で開催国として男女1ずつの出場枠を獲得。女子代表に選ばれたのは、群馬県前橋市で小学校教諭として教壇に立ちながら競技に取り組む今井美穂だ。

高橋尚子に憧れ、長距離種目に挑戦

自転車競技マウンテンバイク(略称:MTB)のクロスカントリーの東京五輪日本代表に内定している今井美穂は、MTBクロスカントリー種目での経験は4年にも満たない。競技として自転車に乗り始めたのは大学卒業後、陸上仲間に誘われ、トライアスロンへの挑戦を視野に入れてのスタートだった。

MTBを本格的に始めたのは30歳の時。小学校教諭として働きながら、平日夜と休日にトレーニングを重ね、2018年、2019年の全日本マウンテンバイク選手権大会のクロスカントリーで連覇を達成した。2020年にはアジアマウンテンバイク選手権で5位に入賞し、オリンピック切符をつかみ取った。

競技歴こそ短いが、そこに至るまでの様々な下地はあった。そして「オリンピック」は今井がずっと目標に据え続けてきた場所だ。

1987年5月29日生まれ、群馬県富岡市出身の今井は、両親の影響により幼い頃から水泳や陸上などさまざまな競技に取り組んできた。なかでも陸上は、彼女の学生時代における軸だった。小学生の時、シドニー五輪の女子マラソンで高橋尚子が金メダルを獲得する姿を見て、憧れた。その頃から今井の心の中には「オリンピック」の文字があったという。

中学時代は長距離をメインとしていたが、バランス感覚や筋力を活かし、走り高跳びにも出場して県大会で入賞した。負けず嫌いな性格と、自身の才能を最も引き出す方法を模索するため、高校からは七種競技に挑戦。高校卒業後は東京女子体育大学に進学し、陸上でのオリンピック出場を目指した。

しかし現実は厳しく、陸上競技で生活していくのは難しいと悟った。すると、今井は「教師」か「消防士」という2つの夢で迷った末、教師の道を選ぶ。

通勤用自転車でレースにエントリー

教員生活を始めた今井だが、それでもスポーツへの情熱は失っておらず、2011年の東京マラソンを完走できたことに加え、幼い頃から習っていた水泳も得意なことから、「自転車もできればトライアスロンに出場できる」と考えた。小学校教諭として通勤用に購入していたロードバイクが偶然、競技用のシクロクロスタイプだったため、レースにエントリーした。

シクロクロスは舗装路と未舗装路が入り混じるコースでの種目だ。初レースは25歳の時、2012年に埼玉県秩父市で開催されたシクロクロス大会。自身が出場したクラスで優勝した。この優勝が自転車競技でさらに上を目指すキッカケになった。

その後30歳のとき、シクロクロス種目の強化目的で、ハードな悪路を走破するMTBのレースにも参戦する。同時に、2020年のオリンピック開催地が東京に決まり、MTBが種目に入っていたことが、今井の意欲をさらに掻き立てた。かつての夢の可能性がそこにあったからだ。それから前述とおり、国内主要大会で好成績を収めると、海外レース経験がほとんどないまま念願の東京五輪代表に内定した。

ただ、コロナ禍において練習環境がなかなか整わず、制限も多いのが現状。2020年10月に静岡県伊豆市にある東京五輪の本番コースをテストイベントで走った際には、完走することができなかった。年齢的にも精神的にもキツイと漏らす場面もある。

だからこそ、オリンピック延期を前向きに捉え、準備期間に充てている。現在は地元群馬県の前橋市立新田小学校の教員を務め、平日はフルタイムで働きながら、学校や周囲の人々のサポートを得ながら練習に励んでいる。応援してくれる児童たちがいなければ五輪を諦めていたとも話す。彼ら彼女らに夢を与える存在となるために、今井は東京五輪の舞台に立つ。

選手プロフィール

  • 今井美穂(いまい・みほ)
  • 自転車競技マウンテンバイク・クロスカントリー選手
  • 生年月日:1987年5月29日
  • 出身地:群馬県富岡市
  • 身長/体重:161センチ/54キロ
  • 出身校:富岡西中(群馬)→富岡東高(群馬)→東京女子体育大(東京)
  • 所属: CO2bicycle
  • オリンピックの経験:なし

【アスリートの原点】渋野日向子:「笑顔のシンデレラ」は少女時代、ゴルフとソフトボールの二刀流。高校3年次は就職も検討

【アスリートの原点】土井杏南:ロンドン五輪には16歳の若さで出場。「消えた天才」は東京五輪へ向けた復活を期す

【アスリートの原点】清水希容:東京五輪での女王君臨を狙う空手家は、少女時代に「3位の壁」に苦しんだ

【アスリートの原点】アシュリー・バーティ:コーチ自らが指導を熱望した逸材。世界女王は日々の地道な壁打ちで才能を開花させた

【アスリートの原点】カロリナ・プリスコバ:双子の姉と4歳からテニスに没頭。父の逮捕という悲劇をはねのけ、17歳で世界制覇

【アスリートの原点】カティンカ・ホッスー:競泳界の「鉄の女」は少女時代、祖父のもと1日20キロを泳ぐ猛練習で成長を果たす

【アスリートの原点】ラファエル・ナダル:元サッカースペイン代表と元テニス選手、2人の叔父によって育まれた才能

もっと見る