【アスリートの原点】松田瑞生:柔道とバスケットボールを経て陸上競技の世界へ。ストイックな「腹筋女王」を支えるのは鍼灸師の母

大阪国際女子マラソンで優勝。東京五輪代表「最後の一枠」の最有力候補

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
マラソンに転向する前はトラック競技で活躍。2017年には日本陸上競技選手権の10000Mで優勝を果たしている

松田瑞希(みずき)は残り一枠となる東京五輪代表の座に王手をかけている。2019年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で4位に終わったものの、1月26日の大阪国際女子マラソンで、日本歴代6位の2時間21分47秒の記録を打ち立てて優勝。3月8日の名古屋ウィメンズマラソンでこのタイムを上回る選手が現れなければ、夢の舞台への切符を手にできる。その明るい性格、そして母との絆にスポットライトを当てる。

駅伝でエースを務めた高校時代から腹筋が日課に

屈託のない明るい笑顔で、報道陣に対してもジョークを交えて受け答えをする。そんな松田瑞生の出身地は大阪府と聞くと、納得する人も多いかもしれない。

1995年5月31日に大阪府大阪市で生まれ、三姉妹の次女として育てられた。5歳の時、テレビにくぎづけになった。2000年のシドニー五輪、女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子に憧れを抱き、マラソン選手になる夢を漠然と思い描くようになった。

ただし、初めて本格的に取り組んだスポーツは「柔道」だったという。小学生の時、「やわらちゃん」こと谷亮子のファンだった妹に付き合い、道場の門を叩いた。そして中学入学後は姉の影響を受けている。バスケットボール部の主将を務めていた姉の頼みで同部に入部した。家族の仲の良さが垣間見えるエピソードだが、結局バスケ部は一年で辞め、2年次からは陸上部へと転部。一番好きなのはやはり走ることだと気づいた。

陸上競技を始めると、すぐにその才能を開花させる。強豪校として名を知られる大阪薫英女学院高等学校に進学すると、3年連続で全国高校駅伝に出場。エースとして着実に成長していった。

このころから毎日欠かさず行っているのが10種類以上、500回から1500回行う「腹筋」だ。「なにわの腹筋女王」というニックネームを持つ松田は、そもそも体が反る癖を治すためにこのトレーニングを始めたという。時に監督から練習量を減らすよう忠告されるほどストイックな一面が、間違いなく今の彼女の成績を支えている。

鍼灸師である母が強さを支えている

松田の半生を語るうえで欠かせないのは、母、明美さんの存在だ。40歳を過ぎてから鍼灸師(しんきゅうし)の資格を取り、実家で鍼灸院を開業。娘の試合前には必ずホテルに出向いて、施術を行う。

食事の面でもサポートを欠かさない。昔からレトルト食品は一切使わず、腕によりをかけた手料理がいつも食卓に並んでいた。大事なレースの前には今も、ひじきを甘辛く煮て白米にもち米を合わせて炊いた「ひじきおにぎり」を娘に届ける。

その「勝負飯」を何よりの原動力にして、高校卒業後はダイハツ陸上競技部に所属すると、2018年1月の大阪国際女子マラソンでは初マラソンながら見事に頂点に立つ。同年9月のベルリンマラソンは2度目のマラソン挑戦で日本人トップの5位に入るなど快進撃を続けた。

今年の大阪国際女子マラソンでは実業団マラソン特別強化プロジェクトの設定記録を突破し、奨励金1000万円を獲得した。それでも、自分へのご褒美はなく使い道は「貯金」だという。そう言いながらも、70万円は母の歯の治療代にあてると笑顔を見せた。固い絆と信頼関係で結ばれた母娘は、二人三脚で東京五輪をめざしている。

選手プロフィール

  • 松田瑞生(まつだ・みずき)
  • マラソン選手
  • 生年月日:1995年5月31日
  • 出身地:大阪府大阪市
  • 血液型:A型
  • 身長/体重:158センチ/46キロ
  • 出身校:大和川中(大阪)→大阪薫英女学院高(大阪)
  • 所属:ダイハツ陸上競技部
  • オリンピックの経験:なし
  • ツイッター:松田瑞生(@Mzk0531Mzk)
  • インスタグラム:松田瑞生 (@u5uv3v)

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