アルペンスキーは、パラリンピック選手であるトーマス・ウォルシュ(アメリカ合衆国)の人生に深い影響を与えたスポーツだ。しかし12年ほど前、大切にしてきたこの競技との時間が危機に直面した。
「化学療法、放射線治療、手術、すべてを経験していく中で、僕はもう二度とスキーはできないと言われたんだ」
Olympics.comのインタビューでこう語ったウォルシュだが、スラロームでクリスタルグローブを獲得しており、パラアルペンスキー世界選手権では2度のメダルを獲得、2022年にノルウェーのリレハンメルで開催されたパラ雪上競技世界選手権(1月12~23日)ではジャイアントスラロームで6位、スーパーコンバインドで4位入賞。そして、アメリカ合衆国を代表して自身2度目のパラリンピックとなる北京2022で、メダル候補のひとりと期待されている。
彼は、スポーツが与えてくれたチャンスに感謝している。
「僕はこのスポーツをとても愛しています。スキーをすることが当たり前だと思ったことは一度もありません。スキーは僕の人生を芯から救ってくれたものなんです。僕はこのために生まれてきたし、これからもできる限り長く続けていくつもりです」
ウォルシュは14歳のときに、がんの一種である「ユーイング肉腫」と診断された。このがんは、典型的に骨の中や周りに増殖するものだ。このとき、幼なじみの**ミカエラ・シフリン**がずっと彼を支えていた。オリンピック2度の金メダリストのシフリンは、彼が回復した後、プロムに一緒に行く約束までした。
「彼がその後どのように戦ってきたかは、本当に感動的で感化させられるものでした」と、シフリンは2018年にOlympics.comに語っている。
「彼が生き残ることができたのはほとんど奇跡だったのですが、ある意味、奇跡などでは全くなかったんです。彼のことを知れば、私は彼に(生き残ることができると)期待することは自然なことでした」
トーマス・ウォルシュ&ミカエラ・シフリン:家族の絆
ウォルシュとシフリンは5、6歳の頃、共にコロラド州ベイルの山を滑り降りていた。2つの家族は、有名なリゾート地のスキーシーンに深くかかわり、チェアリフトに乗るふたりの子供の姿を見る人たちに素晴らしいエンターテインメントを提供した。ふたりとも10代の頃からかなりの才能を発揮しており、ウォルシュの命が脅かされているという知らせを受けたとき、シフリンに衝撃が走った。
シフリンはチームUSAに、「鞭で打たれたような、これまでで一番大きな衝撃で、まさかそんなことが起こるとは予想だにしませんでした」と話し、「ただただ理解できなかった」ことを語った。
シフリンの父・ジェフさんは、ウォルシュが手術を受けた際に麻酔師として付き添ったひとりだ。
ジェフさんについてウォルシュは、「彼は、僕の治療と生存のために非常に重要な役割を果たしてくれました」。「彼は僕の一番大きな手術のとき手術室にいました。僕のために特に時間を割き、僕が大丈夫かを確かめ、必要なケアや治療を確実に受けられるようにしてくれました」とチームUSAに語った。
だが、そんなシフリンの父・ジェフさんが2020年2月に逝去し、今度は、わずか10分のところに住むウォルシュがシフリンを支える番だった。そんなふたりの絆は今も続いている。
「僕たちは、別々の場所で、異なるタイムゾーンで、異なる国や大陸で、それぞれの道を歩んでいます。でも、僕はスキーが好きだし、彼女もスキーが好きだと知っているから、いつもお互いの結果を見て、応援し合い、ポジティブなメッセージを送り合っています」
トーマス・ウォルシュ:パラアルペンスキーのキャリア
トーマス・ウォルシュはこれまでに、世界選手権での2つのメダル、スラロームでのクリスタルグローブ(2019年)などを手にしている。輝かしい栄冠を誇るウォルシュだが、彼の競技人生において特別な瞬間は、もっとプライベートな場面だった。
治療中だったある日、彼はスキーを履いてゲレンデに出かけた。特に目的があったわけではなく、ただ何かがしたかったという。
「自分はスキーができるということを証明した重要な瞬間でした。レースに戻るとは思ってもみなかったし、ナショナルチームに入ることも、パラリンピックに出場することも、クリスタルグローブや世界選手権のメダルを獲得することも、まったく予想していませんでした。ですが、あれが最初の一歩となったのです」
トーマス・ウォルシュの北京2022での目標
平昌2018以降、怪我や精神的な挫折を味わったが、ウォルシュは北京2022冬季パラリンピックで好成績を残すチャンスがあると信じ、「今シーズンの本当の大勝負は、パラリンピックになるでしょう」と語る。
「私はこれまで結果重視の人間ではありませんでした…。(中略)しかし、私には表彰台に立つチャンスがあると信じていますし、トップレベルに立ちたいと心から思っています。そのために私たちはここにいるのです。それがみんなが望んでいることです.……」
「より多くの経験のもと、どのような環境になるかを理解した上で、この大会に挑みます。プレッシャーに対してもうまく対応できるでしょう」
トーマス・ウォルシュ:生きていることが何よりの幸せ
ウォルシュがすでに成し遂げたことを考えると、彼のレースに対する視点は非常に地に足がついていると言える。大きな目標、高い野心、それと同じくらい控えめな思慮深さをウォルシュは持ち合わせている。
「生きていることが何よりの幸せです。朝、目が覚めることに感謝しています。歩くこと、スキーを履くこと、そしてこの世界と与えられた機会を楽しむこと…」「スポーツは誰でもできます。違って見えるかもしれませんが、私たちまったくことをやっているのです」。