パラアイスホッケーの中国勢の止まらない飛躍、アメリカ合衆国は4年連続の金メダルへ

血と汗と涙の結晶で変革を遂げ、世界に挑み勝利を手にしてきた中華人民共和国の新チームの勢いが止まらない。中華人民共和国でも人気スポーツになりつつあるパラアイスホッケー。デクラン・ファーマーとアメリカ合衆国チームが、それを止めることは難しいだろう。

1 執筆者 Ken Browne
Team China celebrates after scoring their first goal in the second period in the game against Czech Republic during the Group B Preliminary Round Para Ice Hockey game on day two of the Beijing 2022 Winter Paralympics at the National Indoor Stadium on March 06, 2022 in Beijing, China. (Photo by Steph Chambers/Getty Images)
(2022 Getty Images)

パックが飛び、音楽が鳴り響き、ゴールネットを揺らし、スタジアムが歓喜に沸いた。中華人民共和国のパラアイスホッケーのデビュー戦は、夢のようにうまくいった。

3月5日(土)に行われたスロバキア戦を7-0で勝利し、北京の大観衆を喜ばせた彼らは、4ゴールを決めたパラアイスホッケーの新しいヒーロー、申翼風を称えた。彼はまさに、"小さな旋風" というニックネームの通りの活躍をみせている。

23歳の申は、中華人民共和国の2試合目となったチェコ戦でも2試合で合計5つ目となるゴールを決め、5-2と素晴らしい試合で勝利し、準々決勝進出を決めた。

「言葉では言い表せないほど、とても興奮しています。オリンピックの舞台は僕たちにとって大きな舞台であり、そこで4つのゴールを決められたことの気持ちを表現することは難しいです」と感無量の様子だった。

中華人民共和国の台頭がより顕著なのは、2016年に結成されたばかりのチームであることだ。では、なぜこれほど早くここまでたどり着くことができたのだろうか。

「非常に優れたコーチングチームがいるからです」と申は続ける。「私たちは仲が良く、若いチームであり、とても自信を持っています。これだけ早く進歩できた理由は、私たちがとても努力家だからです」

中華人民共和国は3月8日(火)、グループBの最終戦で、プレーオフ進出を狙うイタリアと対戦する。

金メダル候補は、3度の優勝を誇るアメリカ合衆国とそのスター選手であるデクラン・ファーマーは、強豪国を含むグループAで2勝し、準決勝進出を決めている。

アメリカ合衆国は、開幕戦で長年のライバルであるカナダを5-0で撃破し、日曜日にはジャック・ウォレスがハットトリックを達成し、大韓民国を9-1で下した。

中華人民共和国パラアイスホッケーチーム

パラアイスホッケーの選手には、誰もが語るべき物語がある。

2005年に列車事故に巻き込まれ、その後両足を切断した申や、北京ですでに4アシストを記録している22歳のチームメイト、王泰勒は、7歳の時に高電圧の事故に遭い、その影響で障がいを抱えている。

キャプテンの崔玉濤は、36歳のシニアチームリーダーだ。パラ自転車の選手だったが、北京が冬季オリンピック開催都市に決まったことをきっかけにアイスホッケーの世界に入った。

「パラアイスホッケーの魅力は、団結力と協力し合うこと、そして最も大切なのは、その情熱です」と国際パラリンピック委員会(IPC)に語っている。

于静は、18人のパラアイスホッケー選手団の中で唯一の女性選手であり、ノルウェーのブリット・ミアスンド・オーエン(リレハンメル1994)、レナ・シュローダー(平昌2018)に続く、冬季パラリンピックに参加する3人目の女性パラアイスホッケー選手となった。

3月8日は中華人民共和国チームが全力で勝負に挑まない一方で、日曜日にスロバキアに劇的なシュートアウトで勝利を収めたことで自信をつけたイタリアチームは、準々決勝進出を確実にするために勝利が必要となる。

試合開始は日本時間15:35(現地時間16:35)となる。

中華人民共和国 vs イタリア

3月6日(日)のイタリア対スロバキア戦は、白熱した戦いとなった。

第2ピリオド終了間際にダビド・コルマンがスロバキア初のパラリンピックゴールを決め、残り6分にはジャンルイジ・ローザが同点に追いつく展開に。45分間の熱戦と5分間の延長戦の後、今大会初のシュートアウトが行われ、一部の選手には苦戦を強いられた。

「最後は緊張で泣いていたよ」イタリアのディフェンスマン、アンドレア・マクリは、その前に負った傷の血を拭きながら言った。

イタリアの4つ目のペナルティを受けた24歳のニルス・ラルヒが得点を決めれば、試合はイタリアのものになるとわかりながら、その緊張状態を必死に耐えていたのはマクリだけではなかった。

「頭が真っ白になった」ラルヒの親友、アレックス・エンデルレはこう言った。「見ていられるかどうかもわからなかったよ」

幸運なことに、スタジアムで最もクールな男はラルヒだった。彼はパックをスティックからスティックへ弾き飛ばして、ゴールネットを揺らした。

「ペナルティーショットをするのが好きなんだ」と、彼は淡々と言った。

もうひとりのイタリアのヒーローは、39歳のゴールテンダー、ジュリアン・カスラッテルだ。彼はこれまでパラリンピックのリンクに足を踏み入れたことはなかったが、第3ピリオドの早い段階で、ひとり目のゴールテンダー、ガブリエレ・アラウドが負傷して退場したため、出番を与えられた。

カスラッテルはふたつのペナルティーショットをセーブし、イタリアの勝利に貢献した。

マクリは、スロバキア戦の翌日、中国戦の前日に「たくさんの感情が溢れています」とOlympics.comに語っている。

「たくさんの汗をかいたし、とてもハードな戦いでした。僕は、チームメイトのことをとても誇りに思っています。彼らは素晴らしい活躍をしてくれました」

イタリアは、2試合で12ゴールを挙げた無敵の中華人民共和国と、地元の観客で満員のスタジアムで対戦する。.

「何千人もの人の前で、あの雰囲気の中プレーすることは怖くないです」と語るのは、ソチ2014、平昌2018にも出場したベテランの、マクリだ。

「明日は本当のパラリンピックの雰囲気になることを願っています。とても嬉しいことです」

アメリカ合衆国、開幕2連戦で存在感

一方で、ディフェンディングチャンピオンのアメリカ合衆国は、永遠のライバルであるカナダを5-0で下し、大韓民国を9-1で撃破、予選リーグ突破を確実なものにする快進撃を見せた。

デクラン・ファーマーは、4年前の平昌2018でアメリカ合衆国に金メダルをもたらした延長戦のゴールを決めた。ファーマーはまだ24歳でありながら、カナダを相手にゴールと3アシストでアメリカ合衆国のパラリンピック史上最高の得点王となった。

カナダ選手たちも脱帽するプレーだった。

「彼は優秀な選手です。そして彼は何年もそれを示してきました」と、グループAの開幕戦の後、カナダのキャプテン、タイラー・マグレガーは言った。

「彼はホッケーのIQが高く、常にゴールネットの周りにいるように見えるんです。彼は私たちがマークして押さえなければならない相手だけれど、今日はそれができなかった」

ファーマーのチームメイトは、彼の活躍についてそれほど驚いてはいなかった。

「彼は多くを語る必要はなく、ただやるだけでいいんです。残りのチームは、彼の後ろに飛び乗ってついていくだけなんですよ」と、アメリカ合衆国代表のデビッド・ホフ監督は語った。

「彼は私たちにとって、とても重要な存在なんです。特に彼と同じ色のユニフォームを着ているときは、見ていてとても楽しいですよ」

ファーマーは、韓国戦で2ゴール3アシストの5得点をあげ、ジャック・ウォレスもハットトリックを達成した。

17歳のチームUSA最年少選手、エバン・ニコルズは、3アシストで記憶に残るパラリンピックデビューを果たし、キャプテンのジョシュ・ポールズの3アシストの記録と足並みをそろえた。

ウォレスは、「これだけ優秀な選手がいるチームとプレーすることは、特権です」と語った。

「自分の出番を減らしてでも、みんなができるだけ多くの出番を得られるようにするという無私の精神は、このチームのみんなが持っているものです」

2試合で14得点をあげたアメリカ合衆国は、パラアイスホッケー4連覇達成を視界にとらえている。

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